株主・投資家の皆様

経営方針

トップメッセージ

ご挨拶

志を持って、世界のエネルギーの安定供給とカーボンニュートラルの実現に貢献する企業グループを目指す

菅野等

就任1年を振り返って

私が社長に就任して1年、あらためて、J-POWERグループの設備を見て、各地域で働いているスタッフに会おうと、世界各地を回りました。そこで強く感じたのは「当社の設備が、地域社会の“風景”になっている」ことでした。国内はもちろん、たとえばインドネシア、タイ、米国でも、そうした印象を受けました。それぞれの施設がそれぞれの地で積み重ねた時間は違っても、地域に溶け込み、人々の暮らしを見守る風景の一部となっている点は、一様でした。その空間に立つと、「J-POWERはしっかりと根付いてきたな」という感慨を覚えると同時に、これからどう地域と共に生きていくか、その責任の大きさも痛感しました。

ローカルからグローバルへと視点を移しますと、世界的なエネルギー需給ひっ迫と資源価格の高騰は一定の落ち着きを見せた一方で、中東情勢の緊迫化による物流混乱など、引き続き、エネルギーの安定供給は世界の平和と安定的な貿易関係の上に成り立っていることを改めて思い知らされます。特に日本の場合、エネルギーの過半が輸入で賄われているため、エネルギー供給の脆弱性克服は非常に重大なテーマです。

このように、日本のエネルギーをめぐる状況が一層厳しさを増す中で、エネルギー企業グループの役割は、やりがいがあり、挑みがいがあると考えています。「志を持って、世界のエネルギーの安定供給とカーボンニュートラルの実現に貢献する企業グループ」を目指し、全力を尽くしてまいります。

代表取締役社長 社長執行役員
菅野等

当社のミッション

人類の文明は、エネルギーを大量に消費することで成り立っています。文明社会にエネルギーを供給し続けると同時に、気候変動問題に対応すること。この両立が、当社グループの使命です。

2024年、私たちは「エネルギーの安定供給」について再考を迫られる状況に直面しています。日本の将来の電力需要が増える見込みが出てきたためです。

今年は、国において「エネルギー基本計画」の見直しに向けた議論が行われるとともに、「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議」では、脱炭素への現実的なルートの検討が進められています。加えて、温室効果ガスの排出削減目標「NDC(Nationally Determined Contribution、国が決定する貢献)」を更新し、来春までに国連へ提出することになっています。

菅野等

これらのエネルギー/気候変動政策を巡る議論が一体になって進められる中で、2024年1月、電力広域的運営推進機関(OCCTO)から、2007年度をピークに減少傾向にあった電力需要について、「2024年度から増加に転じ、2033年度には今よりおよそ4%増加する」という見込みが示されました。

背景には、生成AIや大規模データセンター(DC)、半導体工場といったグローバル社会のデータシフトという事情があります。さらに大きな趨勢として、ロシアのウクライナ侵攻、米中関係の悪化など大きく国際関係が揺らぐ中で、地球規模でサプライチェーンの見直しが行われています。

こうした新しい大規模な電力需要にいかに応えていくかという危機感が、新しいエネルギー基本計画の検討の背景ともなっています。

一方、今後日本では、2050年カーボンニュートラルに向けて、発電電力量の70%程度を占める化石燃料の比率を落として、再生可能エネルギーや原子力、ゼロエミッションの火力電源へと変えていく必要がある中、それによりエネルギーコストが上昇せざるを得ないことを社会に認識して頂く必要があると考えます。当社は、これまでの取り組みを加速させて、エネルギーコスト上昇の抑制に努めるとともに、具体的なCO2削減計画について情報開示を進め、社会に対して「説明する責任」を果たしていきます。

エネルギーの安定供給と気候変動対応の両立に真摯に取り組むこと。併せて、「説明する責任」を果たし、社会から信頼される企業であること。それが、当社が果たすべき使命であると考えています。

国内電気事業をとりまく環境

需要電力量 エリアごとの推移

J-POWER “BLUE MISSION 2050”

エネルギー供給を維持しつつカーボンニュートラルに移行していくための当社の長期戦略、ロードマップが「J-POWER “BLUE MISSION 2050”」です。

当社は、2050年のカーボンニュートラルの実現を最終目標とし、「2030年目標」としては、国内発電事業からのCO2の「2013年度比46%(2,250万t)排出削減」を掲げています。2030年目標まであと6年です。確実に、このロードマップを進めていかなければなりません。

“BLUE MISSION 2050”の基本的な考え方は、「①CO2フリー電源の拡大」「②電源のゼロエミッション化」「③電力ネットワークの安定化・増強」という3つのアクションを通じて、カーボンニュートラルへのトランジションを進めていくものです。

「CO2フリー電源」とは、再生可能エネルギーと原子力発電を指します。「②電源のゼロエミッション化」とは、火力電源を脱炭素化することを意味し、将来的にCCUS技術(分離・回収したCO2を貯留や利用する技術)を用いたCO2フリー水素発電と、CO2フリーの水素の製造・供給の実現を目指しています。

特に日本では、再生可能エネルギー・原子力・ゼロエミッション火力という3つの電源のどれか1つに依存する事はできないため、バランスよく電源を構成することが重要です。再生可能エネルギーについては、山地が多く遠浅の海域が少ないという日本の国土の特徴から、適地が限られ今後の開発に国土としての上限があります。火力は、現在も燃料を輸入に頼っている状況ですが、ゼロエミッション火力に用いる水素やアンモニアについても、まったく新しくサプライチェーンを作っていく必要があります。それぞれの電源が大きな課題を抱える中、3つの電源それぞれを着実に開発、拡大させていくことが求められます。

J-POWER “BLUE MISSION 2050”

また、電力を無駄なく効率的に届けるために必要な取り組みが「③電力ネットワークの安定化・増強」です。東西の地域をつなぐ佐久間周波数変換所の増強計画は重要なプロジェクトであり、2027年度の運転開始を目指し工事を着実に進めています。他にも、再生可能エネルギーが大量に導入された場合の出力変動への対応として揚水発電や負荷追従性に優れたCO2フリー水素発電などを活用して、電力ネットワークの安定化に貢献していきます。

当社グループは、国や地域にとらわれずに事業を開発・運営してきた経緯からエネルギー関連企業の中で最も機動力がある企業グループであり、多様な電源ポートフォリオとノウハウを持つという強みがあると自負しています。

その強みがあるからこそ、再生可能エネルギー・原子力・ゼロエミッション火力電源の拡大、さらには電力ネットワーク安定化・増強のいずれにも貢献できるので、私たちJ-POWERグループが、多様な電源ポートフォリオ構築の先頭に立たなければならないと考えています。

菅野等”

“BLUE MISSION 2050”では、2023年度から2030年度の期間に7,000億円の戦略投資を予定しています。2050年のカーボンニュートラル達成のためには、今この時期に重点的に戦略投資を進めていく必要があります。「中期経営計画2024-2026」(以下、中計)に盛り込んだ「キャピタル・アロケーション2024-2026」でお示ししたとおり、グローバルな再生可能エネルギーへの投資を中心に2024年から2026年の3年間で約3,000億円の戦略投資を予定しています。投資に当たっては、資本効率と収益性に留意しながら、国内外のカーボンニュートラルアセットへの投資に優先的に資金を配分していきます。現時点での投資分野は多岐にわたりますが、至近数年間のうちに、重点的に投資すべき分野・技術を見極めていくつもりです。

J-POWER ”BLUE MISSION 2050”
カーボンニュートラルに向けた取り組み
キャピタル・アロケーション

中期経営計画

2023年度までの前中期経営計画の達成度合いについて振り返りますと、全体として、おおむね目標を達成できたのではないかと評価しています。特に、再生可能エネルギーの順調な開発、海外事業の拡大やCCS早期事業化に向けた取り組みの進捗など、着実な成果がありました。また、国内事業からのCO2排出量についても2025年、2030年の目標に向けて順調に削減を進めています。

一方で、反省すべきところもあります。一つは、火力電源の役割が「ベースロード電源」から「ミドル電源」へと変化してきている中で、対応が遅れてしまった点です。また、大間原子力発電所に関して、当社の解析データの誤入力により原子力規制委員会による新規制基準への適合性審査が一時中断する事態を招いてしまったことは、深く反省しなければならないと感じています。

さらに、東京証券取引所から資本コストや株価を意識した経営、いわゆるPBR1倍割れ問題への対応を求められる中で、ステークホルダーの皆様からは当社としての認識を問われ、多くのご意見を頂きました。ステークホルダーの皆様との対話を通じて、当社はROEとROICの観点から資本効率向上に取り組むと同時に、事業環境のボラティリティが高まる中で、事業リスクに対応しながら持続的に成長する姿をお示しする必要があります。

新たな中計では「2030年代に目指す姿」をお示しし、2024年から2026年までの3年間で2つの「トランジション」を実現していきます。1つ目は「事業ポートフォリオのトランジション」で、資本効率も意識しながらアセットの入れ替えを行い、国内外でカーボンニュートラルアセットが中心となる事業ポートフォリオへの転換を目指します。2つ目は「ビジネスモデルのトランジション」です。これまで長く事業の中心としてきた発電・送変電設備の開発と長期保有による投資回収だけでなく、多様な収支構造を持つビジネスの創出に挑み、企業価値の向上を目指していきます。

中計のポイントの一つが、再生可能エネルギーの収益性の向上です。これまでの設備容量(kW)の目標に代わって、2030年度までに2022年度に比べて年間40億kWhの発電電力量(kWh)増大を目指す目標を新たに掲げました。CO2を出さない電気への需要が非常に強まる中で、設備規模の拡大だけではなく、設備更新や稼働率の向上などにより実際にお客様が使用できる電力の量を増やしていくことが重要だと考えています。加えて、環境価値の最大化の取り組みとも組み合わせることで、収益向上とさらなる成長を目指していきます。

もう一つの大きなポイントが、国内火力のトランジションの方向性を初めて打ち出したことです。これまで、資本市場をはじめ多様なステークホルダーの皆様からCO2排出削減目標の達成に向けた手法・削減経路の明確化を求める声を頂いていました。そうした要請を踏まえ、今回の中計では、廃止予定と休廃止または予備電源化予定のユニットを明示するとともに、残る石炭火力についてもゼロエミッション火力にトランジションすることを、サイト別・ユニット別にロードマップに盛り込みました。発電所の地点の特性に合わせて最適な技術を選択し、今後の政策・制度設計や地域ごとの電力需給状況、技術の進展状況等を踏まえた見直しも行いながら、計画を着実に進めていきたいと考えています。

大間原子力発電所については、「長期脱炭素電源オークション制度の活用」について触れました。この制度は、脱炭素電源への新規投資を対象としたオークション制度で、投資回収の予見可能性を高めるものです。本制度の活用を念頭に、可能な限り早く安全強化対策工事を開始できるよう、安全確保を最優先に全力で取り組んでいきます。

成長戦略という観点では、今後も多くの事業機会が見込まれる海外事業の拡大・強化にも重点的に取り組みます。これまで海外では主に火力を手掛けてきましたが、これからは、国ごとのニーズやエネルギー政策に適合した形で、再生可能エネルギーに注力していきます。地域としては、アジア太平洋地域や米国がターゲットになります。例えば、東南アジアの水力、オーストラリアの太陽光と風力、米国の太陽光などの再生可能エネルギーのポテンシャルと、当社の技術的な強みを活かし、現地の事情に通じたパートナーと組んで事業展開していくことが可能です。また、開発後のアセット売却による開発者利益の早期獲得や発電事業にとどまらないエネルギーサービスの提供など、多様な形での利益創出ができるビジネスモデルを目指していきます。

さらに、投資効率を管理する手法としてROICの導入を決定したことも、将来に向けた戦略投資と並んで重要な点です。今後、現場での取り組みとROICのつながりを明確にしながらROIC概念の浸透に努め、事業部門ごとの自律的な事業運営を促していきます。

中期経営計画
財務担当役員インタビュー

長期的な企業価値向上に向けた改善策

サステナビリティ

マテリアリティ

当社グループは、2021年度に5つのマテリアリティを特定して重点的な取り組みを進め、2023年度からは目標(KPI)に対する進捗状況の公表を行っています。昨年度の進捗状況に関連して、3点ほど申し上げます。

1つ目は、「エネルギー供給」について、橘湾火力発電所1号機の長期停止をはじめ発電所の設備トラブルが頻発したことは大きな反省点であり、安定運転と設備トラブル防止に全力で取り組んでいきます。

2つ目は、「事業基盤の強化」について。これまでは長期に資産を保有することを前提としてきましたが、一部の資産については適切なタイミングで売却を実施し、投資資金の効率的な回収に向けた取り組みを開始しています。今後、この取り組みを拡大させていく方針です。

3つ目が「地域共生」です。地域との信頼関係は事業を継続するうえで不可欠です。これまでも非常に大切なテーマとして各現場で取り組んできた地域共生に、改めて力を入れていきたいと考えています。特に国内では、発電所が立地する地域は人口減少や高齢化の課題に直面しています。その中で、当社の発電所は地域にあり続けるので、地域社会の一員として、社会課題に一緒に向き合う必要があります。例えば、佐久間ダム・発電所では「NEXUS佐久間計画」として新たな価値とエネルギーを生み出す発電所へのアップサイクルを計画しています。こうした各地の取り組みを集約・共有しながら、何をすべきか検討を深めていきます。

マテリアリティKPI・実績
地域社会との共生

人財戦略

当社は、元々、多能な人財が集まっている会社です。経済、法律、電気工学、機械工学、土木、建築、化学、原子力、地質など、多彩なバックグラウンドを持つ人財が集まって、プロジェクトを推進しています。しかし、過去数年間の事例を見ると、横の連携不足による出遅れや失敗といった、いわゆる縦割り管理の弊害が顕在化していました。

そこで、新しいチャレンジが生まれる会社にしていくためにも、「半歩ずつ横に出て、つながって、いいプロジェクトを作っていこう」と社内に呼び掛けています。自分の仕事の領域にとらわれず、周りの人の仕事にも関心を持って、意見やアドバイスを出し合っていこうということ。そのためにも、ダイバーシティの推進施策や社員のチャレンジを支えるような人財制度の整備・充実に取り組んでいます。

今後、多彩な才能がつながって、新しい成果が出てくることを期待して、この4月に「イノベーション推進部」を立ち上げました。ここでは、多様な人財が集まり事業の創造に知恵を絞っています。今後数年間で、複数の案件の事業化を目標にしています。

人財戦略

コーポレート・ガバナンス

2022年度に監査等委員会設置会社へ移行したことに加え、意見交換会などのインフォーマルな取り組みなどを通じて、取締役会の議論が一層活発化してきました。特に、中計の策定に当たり、取締役会では長時間にわたってかなり実のある議論がなされました。取締役会での活発な議論を通じて自然とチェック機能が強化され、ガバナンスが向上していったところに、大きな意味があると考えています。

このガバナンス機能の進化が、経営層にとどまるのではなく、会社に広がっていくことが重要です。チェック・アンド・バランスの機能が、組織全体で働くようにしていかなければなりません。そのためには、経営陣が現場とのコミュニケーションをきちんと取ることが、第一だと考えています。経営陣と現場が内実のある繋がりを持ち、その上で、経営陣が率先して「半歩ずつ横に出る」ことで、グループ全体に縦横の関係強化が浸透していくことが、本当のガバナンスの進化だと捉えています。

取締役会の実効性評価

ステークホルダーの皆様へ

エネルギー供給を維持しつつカーボンニュートラルに移行していくには、どうしても事業の時間軸が長くなります。中計の発表以降もステークホルダーの皆様との対話を継続し、長期間にわたる投資の選別とリターンの明確化や、火力トランジション施策のさらなる明確化を求める声など、多くのフィードバックを頂いています。これらは経営として引き続き全力で向き合うべき課題だと認識しています。

2030年代に向けて、稼ぐ力を強化しながら、事業ポートフォリオとビジネスモデルのトランジションに取り組み、企業価値を向上させていく姿をお示ししたいと考えています。これからもステークホルダーの皆様との対話の機会を積極的に設け、当社グループに対する一層の信頼醸成に努めていきたいと考えています。

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