ごあいさつ

新社長就任にあたって
トップとしての責務
2026年4月に社長に就任した加藤です。私が経営において最も大切にしているのは、社会や産業を支える電力を安定的に届け続けることです。
電力は、人々の生活や企業活動を支える不可欠な社会基盤であり、どのような環境変化の中にあっても、その供給を途切れさせることは許されません。公共性の高い事業を担う企業としての責任と矜持を持ちながら、その使命を果たし続けることが、J-POWERグループの原点であると考えています。
一方で、私たちは民間企業でもあります。社会基盤を支える責任を果たしながらも、変化する事業環境に柔軟に対応し、成長を実現し、企業価値を高めていかなければなりません。私は、公共性の高い事業を担う責任を果たしながら、民間企業として持続的な成長と企業価値向上を実現することが、経営トップとしての責務であると考えています。
私のキャリアは、長崎県の松浦火力発電所に始まり、石炭火力の燃料調達や豪州炭鉱の権益取得といった資源・エネルギーの現場から、コーポレート部門における人事・経営企画まで幅広い分野で経験を積んできました。これらの経験を通じて、エネルギー事業を取り巻く環境がどのように変化しても、安定供給、経済性、環境適合性のバランスを見極めながら、現実に即した経営判断を行うことの重要性を学んできました。
今日、エネルギーを取り巻く環境は大きな転換点にあります。資源価格の変動、エネルギー安全保障の重要性の高まり、カーボンニュートラルへの対応が、当社の事業環境と企業価値に直結する重要な経営課題となっています。このような時代において、J-POWERグループが果たすべき役割は、社会と産業を支えるエネルギーを安定的かつ競争力ある形で供給し続けるとともに、脱炭素社会への移行を現実的な道筋で前進させることです。私たちは、この役割を着実に果たすとともに、ステークホルダーの皆様との対話を重ねながら、社会からの信頼と持続的な企業価値向上につなげてまいります。
変化する事業環境の中で果たすべき役割
当社事業を取り巻く外部環境は大きく変化しており、エネルギー安全保障、脱炭素、電力需要の増加という複数の課題に同時に向き合う必要があります。中東情勢をはじめとする地政学リスクの高まりは、サプライチェーンの不安定化や石油・LNGの国際価格上昇を通じて、資源を海外に依存する日本のエネルギー供給の脆弱性を改めて浮き彫りにしました。加えて、国内では排出量取引制度(GX-ETS)の導入によりCO2排出に係るコストが顕在化する一方、電力供給不安への対応として非効率石炭火力の稼働制限が解除される※など、政策運用にも変化が見られています。私はこのような環境変化の中だからこそ、日本のエネルギー政策の基本である「S+3E(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合性)」の重要性は、むしろ高まっていると考えています。カーボンニュートラルへの移行は着実に進める必要がありますが、その過程では、エネルギー安全保障や経済性とのバランスも踏まえた現実的な判断が不可欠です。安定供給と脱炭素を両立するためには、理想論だけではなく、現実に利用可能な技術や既存アセットを適切に活用していく視点も必要です。再生可能エネルギーの拡大、原子力を含む非化石電源の活用、火力発電の脱炭素化、水素・アンモニア、CCSなど、それぞれの選択肢には可能性と課題があります。
※ 容量市場において、非効率石炭火力発電所に課されていた稼働抑制措置(設備利用率50%以下)が2026年度に限り解除されたこと
J-POWERグループとしては、環境適合性のみならず、安定供給、経済効率性、実現可能性のバランスを見極めながら、事業判断を行っていく必要があります。
さらに、AIの普及やデータセンターの増加により、今後の電力需要は中長期的に拡大していくことが見込まれます。電力供給設備の整備には大規模かつ長期の投資を要するため、将来の需要を見据えた計画的な電源投資が欠かせません。私は、こうした需要の拡大は、J-POWERグループにとって新たな成長機会でもあると考えています。安定供給を支える責任を果たしながら、脱炭素社会への移行と電力需要の拡大という新たな社会的要請にも応えてまいります。
データセンター・半導体工場の新増設に伴う需要見込み
中期経営計画の進捗
業績の振り返りとPBR1倍割れへの受け止め
2024年度に開始した「中期経営計画2024-2026」は、いよいよ最終年度を迎えます。まずは計画を完遂することが、私の最初のミッションです。
計画で掲げる「経常利益900億円」「ROE5%」「稼働資産ROIC3.5%」(2026年度)については、概ね達成可能な見通しです。一方で、今後のリスクとしては、中東情勢の悪化等に伴うサプライチェーンの不安定化に留意する必要があります。ナフサをはじめとする原材料の供給不足や価格上昇は、工場や建設現場の稼働縮小を通じて、電力需要の下振れにつながり得るため、引き続き注視していきます。
長期間にわたり1.0倍を下回っているPBRは、当社にとって重要な経営課題と認識しています。2025年度には0.5倍台まで改善したものの、依然として他業種と比較しても低い水準にとどまっています。その背景には、大間原子力発電所計画および国内石炭火力発電所のトランジションを含め、当社の中期的な経営の方向性について、資本市場から十分な見通しを持っていただけていない部分があると受け止めています。あわせて2025年度において株主資本コストを下回ったROEについては、稼ぐ力の強化を通じて改善を図っていく方針です。将来像と財務影響をより明確に示しながら、資本収益性と市場からの評価の双方を高め、PBRの改善につなげていきます。
特に、既存事業の収益力向上は、財務健全性を確保しつつ資本効率を高めるうえで不可欠です。国内事業においては、水力や風力をはじめとする国内有数の再生可能エネルギー資産の価値を、使用電力の脱炭素化や環境価値の確保を求めるお客様のニーズに結びつけることが重要と考えています。J-POWERグループが保有するCO2フリー電源の環境価値は、まだ十分に価値化しきれていない面があります。コーポレートPPAを通じた環境価値の提供や、水力発電所由来の電気と環境価値の一体供給など、販売手法の多様化を進めることで、再生可能エネルギー資産の価値を収益力の向上につなげていきます。あわせて、再生可能エネルギーの需要拡大に対応するため、CO2フリー電源の拡充にも取り組んでいます。2025年度には国内最大級の洋上風力発電所である「北九州響灘洋上ウインドファーム」が運転を開始し、2026年度には「NEXUS佐久間プロジェクト」の本格着工や秋田県における洋上風力発電事業の開発推進など、さらなる再生可能エネルギー電源の拡充を進めています。
加えて、海外事業においては、国・地域ごとの市場特性に応じて、資本効率と収益安定性の双方を高める事業展開を進めています。米国やオーストラリアのように発電資産の売買市場が発達している地域では、新規開発と権益売却を組み合わせ、投下資本の回収を早めながら、次の成長投資へ再配分することで、資本効率の向上を図ります。現在、これらの地域では大規太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーを中心に事業展開を進めています。一方、東南アジアでは、長年にわたり築いてきたパートナーシップを基盤に、発電事業の開発を推進しています。開発の中心となるのは、長期の電力販売契約を伴う案件であり、安定的な収益基盤の拡大につながるものです。近年、東南アジアでは水力発電開発が活発化しており、当社グループも国内事業で培った知見を活かし、インドネシア、フィリピン、ラオスにおける事業参画を進めています。
海外事業のビジネスモデルとJ-POWERグループの強み
大間原子力発電所計画の進捗
計画の前進と不透明性払拭に向けて
J-POWERグループにとって最大の経営課題である大間原子力発電所計画は、重要な局面を迎えています。私は本計画について、J-POWERグループの将来を左右する重要な経営課題と位置付け、責任を持って取り組んでいます。2026年5月には、大間原子力発電所が2025年度長期脱炭素電源オークションにおいて落札しました。本オークションは、脱炭素電源への新規投資を促進する観点から、長期的な投資回収の予見性を高めるための制度です。今回の落札により、本プロジェクトの投資回収見通しの確度は大きく向上しており、着実な前進であると捉えています。
また、原子力規制委員会による適合性審査が進められています。2025年5月には、地点固有の主要論点である基準地震動が確定し、現在はプラント審査が進行しています。その後は、原子炉設置変更許可を取得したうえで、設計および工事計画認可や特定重大事故等対処施設(特重施設)に係る審査へと移行し、認可取得後には、東日本大震災以降停止している大規模工事の再開を予定しています。なお、現地においては、規制基準の影響を受けない範囲で、敷地造成などの準備工事を進めています。従来、運転開始時期は2030年度を目標としていましたが、足元の状況を踏まえると、当該目標の達成は極めて厳しい状況にあると認識しています。工事計画の認可取得や運転開始前の試運転に相応の期間を要することに加え、大規模工事の再開に向けて綿密な準備が必要となります。さらに、日本全体でのサプライチェーン逼迫が工程に影響を及ぼす可能性も考慮する必要があります。
大間原子力発電所の運転開始は、当社にとって大きな節目となりますが、それ自体がゴールではありません。運転開始までの期間をどのように乗り切り、運転開始後にどのような成長を実現するのか。その道筋を現実的かつ具体的に示していくことが、経営トップとしての重要な責務であると考えています。現時点での優先課題は、大間原子力発電所計画を含むJ-POWERグループの将来像について、不透明性を払拭することだと考えていますので、新しい経営計画に向けて検討を加速させています。
大間原子力発電所に係る開示の充実
株主還元
利益成長に応じた安定的かつ機動的な株主還元
株主還元については、財務規律を維持しながら、利益成長に応じた安定的かつ機動的な還元を行うことを基本方針としています。J-POWERグループの発電事業は、長期にわたる投資・開発の後にリターンを回収するビジネスモデルであり、稼働開始後の安定的な利益を基盤として増配を行うことを基本としてきました。一方で、海外資産の売却や資源価格の変動などにより、一時的に利益が大きく変動することがあります。こうした短期的な増益を配当に直接反映させると、翌期以降の減配につながる可能性があるため、配当に加えて自己株式取得を組み合わせる「総還元性向」を導入しました。2025年5月に公表した「株主還元の基本的な考え方」の見直しは、こうした考えに基づくものです。
この方針のもと、2026年度の経常利益900億円の達成に一定の確度が見込まれたことから、2026年5月に年間配当を100円から105円へ引き上げる見通しを公表しました。また、2025年度に実施した自己株式取得200億円を踏まえると、中期経営計画期間(2024~2026年度)においては、総還元性向30%は達成可能と見込んでいます。今後も、財務規律を維持しながら、成長投資と株主還元のバランスを重視した経営を進めてまいります。
株主還元の基本的な考え方
1株あたり配当額の推移
新たな経営計画に向けて
将来像を示し、企業価値向上への道筋を描く
2027年度以降を対象とする新たな経営計画の策定に向け、現在議論を進めています。新たな計画では、まず、J-POWERグループが目指す将来の事業ポートフォリオ像を明示したいと考えています。私が特に重視しているのは、その実現に向けた道筋を具体的に示すことです。大間原子力発電所の運転開始を見据え、その先にどのような成長を実現していくのかを示していきたいと考えています。
将来の事業ポートフォリオを実現するため、各事業の役割を明確化し、成長性、収益性、資本効率を見極めながら、成長投資、資産の入れ替え、経営資源の配分を組み合わせた事業ポートフォリオ戦略を策定してまいります。特に、大間原子力発電所計画は、将来の事業ポートフォリオ、企業価値に大きな影響を与える重要なプロジェクトです。そのため、投資家の皆様が 中長期的な姿を評価するうえで必要となる情報として、投資規模、建設期間、建設期間中の財務影響などを可能な限り網羅的に開示していく方針です。あわせて、大間原子力発電所の運転開始を一つの節目として、当面の財務見通し、運転開始までを見据えた財務見通し、さらに運転開始後の収益貢献を織り込んだ財務見通しについて、時間軸を分けてお示ししたいと考えています。これらの検討にあたっては、投資家の皆様との対話を重ねながら、資本市場からの視点も踏まえた計画として具体化してまいります。
また、企業価値向上に向けては、ROICの向上とWACCの低減を両輪として取り組んでいきます。具体的には、良質な新規投資およびアセットの適宜入れ替えを通じて事業ポートフォリオ全体のROICを高めるとともに、株主資本コストの低減および財務レバレッジの適正化によりWACCの低減を図ります。これにより、ROEおよびPERの向上を実現し、PBRの改善につなげていきたいと考えています。
企業価値向上に向けた仕組み構築
サステナビリティ推進
安定供給と脱炭素を両立する現実的な道筋
「エネルギー安定供給と気候変動対応の両立」は、J-POWERグループが果たすべき重要な使命です。AI社会の本格到来に伴う電力需要の増加や、地政学リスクによるエネルギー供給の不安定化を踏まえると、脱炭素を進めるうえでも、安定供給と経済性を同時に成立させる現実的な道筋が不可欠です。
私は、脱炭素への移行を着実に進めることは不可欠だと考えています。一方で、電力の安定供給や日本の産業競争力を維持するためには、利用可能な技術や既存アセットを適切に活用しながら移行を進める現実的な視点も必要です。そのためには、再生可能エネルギーを中心としつつ、原子力を含む非化石電源、火力発電の脱炭素化、水素・アンモニア、CCSなど、複数の選択肢を組み合わせたエネルギーミックスを追求していく必要があります。こうした電源の多様化には大規模かつ長期の投資が伴うため、民間事業者や金融機関が投資回収を見通すことのできる制度設計も重要です。電力供給力と電力コストは、日本の産業競争力にも直結する課題であり、脱炭素の実現には、社会全体で現実的な移行を支える仕組みが欠かせません。J-POWERグループは、特定の技術や電源に過度に依存することなく、安全性、経済性、実現可能性を見極めながら、複数の選択肢を組み合わせて脱炭素への取り組みを進めていきます。今後も、安定供給を支える責任を果たしながら、現実的かつ着実なカーボンニュートラルへの移行に主体的に取り組んでまいります。
多様性を力に、社会とともに成長する
人財戦略およびコーポレート・ガバナンスにおいては、多様性の確保を重要なテーマと位置付けています。電力事業を基盤とするJ-POWERグループは、高度な専門性を有する一方で、人財や組織の視野が限定的になりやすい面があります。また、社会インフラを担う企業として、社員一人ひとりには高い倫理観と責任ある行動が求められます。
私は、人財において重要なのは、自らの専門領域に閉じこもらず、異なる価値観や経験から学ぶ姿勢だと考えています。多様な価値観や外部の視点を取り込みながら、社会から信頼される判断と行動を実践できる人財の育成に取り組んでいます。あわせて、社外取締役への女性登用をはじめとするガバナンス改革を進め、多様な視点を経営に取り入れ、より良い意思決定につなげてまいります。
また、地域社会との共生も、J-POWERグループが果たすべき社会的責任の重要な要素です。J-POWERグループは、国内外の各地で事業を展開し、それぞれの立地地域との信頼関係を一つひとつ築きながら事業基盤を拡大してきました。地域社会に誠実に向き合い、信頼を得ながら事業を進める姿勢は、長年にわたり培ってきた大切な企業文化です。現在も、地域行事への参加などを通じて文化や価値観を共有し、地域社会への理解を深める取り組みを継続しています。こうした姿勢を踏まえ、社員一人ひとりが社内に閉じない視野を持ち、地域や社会との接点から学ぶことを重視しています。
今後も、地域との信頼関係の上に培われた企業文化を大切にしながら、多様な価値観を経営に取り込み、持続的な成長を支える組織づくりに取り組んでまいります。
ステークホルダーへのメッセージ
J-POWERグループは、社会インフラである電力を支える責任と、変化に挑戦し新たな価値を生み出す企業文化の双方を受け継いできました。私は、この二つを経営の強みとして、安定供給と脱炭素の両立、事業ポートフォリオの進化、収益力と資本効率の向上に取り組んでまいります。
エネルギーを取り巻く環境は、地政学リスク、脱炭素への対応、電力需要の増加などにより、今後も大きく変化していきます。不確実性の高い時代だからこそ、理念だけにとどまることなく、現実に起きている変化を直視しながら判断を重ねることが重要だと考えています。J-POWERグループは、社会と産業を支えるエネルギーを安定的に供給し続けながら、成長投資と既存事業の収益力強化を通じて持続的な利益成長を目指します。あわせて、財務規律を維持しながら、資本効率の改善と株主還元を重視した経営を進め、企業価値の向上に着実につなげていきます。公共性の高い事業を担う責任と、民間企業として企業価値向上を追求する姿勢を両立させながら、投資家をはじめとするステークホルダーの皆様との対話を重ね、将来像を具体的に示し、その実現に向けて全力で取り組んでまいります。
現実に起きている変化を直視しながら、将来世代にとっても持続可能なエネルギー基盤の構築に挑戦してまいります。

2026年9月
代表取締役社長 社長執行役員