大学生向け 水力編@奥只見ツアー レポート

エコ×エネ体験ツアー 水力編@奥只見学生ツアー 2021年ツアーレポート

▼ ツアーレポート

「エコ×エネ体験ツアー2021 水力学生編@オンライン エネルギーと環境をテーマに、リモートで全国の仲間とつながろう!」ツアーレポート

14年の歴史がある「エコ×エネ体験プロジェクト」は、J-POWERグループが「エネルギーと環境の共生」を目指して取り組む社会貢献活動です。その中のひとつ「エコ×エネ体験ツアー水力学生編」は従来、高専・大学生、大学院生を2泊3日のツアーに無料招待して、水力発電所内部の見学や森での体験、実験を通じた水力発電の仕組みを学ぶことができるプログラムです。今夏は、新型コロナの影響によりオンラインでの実施となり、日本各地から所属学部・学科も多様な学生たちが2日間にわたって参加しました。専門家によるエネルギーと自然、環境問題の知識などを獲得しながら、さらに行動に向けて交流を重ねていった学生24人のオンラインツアーのようすを振り返ります。

< ツアー概要 >

  • 日程:2021年8月26日(木)-8月27日(金)
  • 参加者数:学生24人
  • 場所:オンラインにて開催

< ツアーの目的 >

  • エネルギーと自然、環境との繋がりを知る
  • 真剣に社会課題と向き合い、ともに楽しく学び合いながら自分事化する
  • 自分のできることを考えて「行動化」に結びつける

< 全参加学生のキャンプネーム@学科(学部) >

  • しみず@総合基礎科学研究科
  • りら@教育学部
  • とりかわ@機械知能工学科
  • さささ@コミュニティ人間科学科
  • なつ@生物学科
  • ヨドバシ@地理学科
  • りのごし@現代生活学科
  • りの@現代生活学科
  • ぴあ@地球科学科
  • あると@国際資源学科
  • もくそん@政治学科
  • りなてぃ@生命科学科
  • Rinka@国際資源学部
  • はせきょー@生産農学科
  • GEeeeeN@応用経済学科
  • じゅん@教育学部
  • もも@国際経済学科
  • もっちー@商業・貿易学科
  • ゾエ@化学物理工学科
  • ヒロピー@環境学科
  • Yuya@土木工学科
  • あつと@経済学科
  • こうき@経済学科
  • たけ@生命科学科

< スケジュール概要(1日目) >

  • 10:00~10:15 はじまりの会
  • 10:15~10:30 アイスブレイク~お互いを知る時間
  • 10:30~11:00 水力発電所(奥只見)バーチャル見学
  • 11:00~11:35 森の体験プログラム
  • 11:35~12:00 ドクターと学ぶ科学の実験教室~水力発電編~
  • 14:00~15:00 シゲさんの「J-POWERアワー」SDGs時代のエネルギー・環境問題について考える
  • 15:00~16:00 ラビットの「環境教育概論」
  • 16:00~17:00 ドクターの時間
  • 17:00~18:00 行動化へのつなぎの時間
  • 19:00~19:40 ひとり一言タイム
  • 19:40~21:00 自由交流会:フリーの時間

< スケジュール概要(2日目) >

  • 10:00~12:00 行動化へのディスカッション
  • 13:00~14:00 グループセッションの発表
  • 14:00~14:50 全体の振り返り~エコ×エネ宣言
  • 14:50~15:00 おわりの会~プログラム終了
2021年8月26日(木) 1日目
10:00

全国各地から集合!「はじまりの会・アイスブレイク~お互いを知る時間」

山梨県清里のキープ協会で、自然を守り、自然の大切さを伝える仕事に携わる“ぱりんこ”が進行役を務めました。まずはウォーミングアップの時間で、リアクション体操などに参加してリラックス。「今朝起きてから電化製品をいくつ使いましたか」の質問では、数個から十数個までの回答があり、自分たちの暮らしが、いかに電気に支えられているかを理解しました。次にエコ×エネ体験プロジェクトのリーダー、J-POWERのシゲさんによるはじまりの挨拶ではツアーの目的や期待が伝えられて、いよいよ奥只見ダム・発電所のバーチャル見学へと進みます。

全国各地から集まった大学生たち。最初は緊張していたようすもありましたが、ぱりんこの「リアクションが命」の掛け声から徐々にリラックスしていきました。
全国各地から集まった大学生たち。最初は緊張していたようすもありましたが、ぱりんこの「リアクションが命」の掛け声から徐々にリラックスしていきました。
山梨県清里にあるキープ協会の“ぱりんこ”が司会進行を明るく楽しく務めました。
山梨県清里にあるキープ協会の“ぱりんこ”が司会進行を明るく楽しく務めました。
事前に参加者に送られた奥只見の地図やオリジナルリングノート等の学習キット
事前に参加者に送られた奥只見の地図やオリジナルリングノート等の学習キット
10:30

奥只見のダムと水力発電所の仕組みに迫る「水力発電所(奥只見)バーチャル見学」

J-POWERの発電所は日本全国にあり、それぞれの発電所では水力・火力・風力エネルギーなど、さまざまな方法で電気が作られています。今回は、その中でも新潟県にある「奥只見水力発電所」を訪れて、電気と自然や森、水のつながりを探っていきました。

2月の火力編では横浜の磯子火力発電所を訪れましたが、今回の水力編バーチャルツアーでは、新潟県魚沼市と福島県南会津郡にまたがる「奥只見ダム・発電所」に向かいました。
2月の火力編では横浜の磯子火力発電所を訪れましたが、今回の水力編バーチャルツアーでは、新潟県魚沼市と福島県南会津郡にまたがる「奥只見ダム・発電所」に向かいました。

東京から新幹線で1時間半のJR浦佐駅からバスで奥只見へ向かいます。車窓の外を眺めると、きれいな川や越後三山をはじめとする山々、広がる田んぼなどが見えました。お米やお酒でも有名な新潟。豊かな自然ときれいな水が生活に密着しています。また、雪国ならではの生活の工夫も見えてきました。

豪雪地帯ならではの光景です。信号機を横にすると、雪が積もって落雪などの危険性もあるため、縦に並べています。
豪雪地帯ならではの光景です。信号機を横にすると、雪が積もって落雪などの危険性もあるため、縦に並べています。
道路には、地下水で雪を溶かす消雪パイプがあります。
道路には、地下水で雪を溶かす消雪パイプがあります。
雪が積もってしまうため、高い位置に玄関や入り口を設ける家庭も多くあります。
雪が積もってしまうため、高い位置に玄関や入り口を設ける家庭も多くあります。

さらに山の奥に進んでいきます。「シルバーライン」を抜けると、奥只見ダム・発電所が見えてきました。

「シルバーライン」は、奥只見ダムと奥只見発電所を作るときの工事に使うための資材や機械を運ぶために作られました。全長22kmのうち、トンネル部分は約18km。トンネルの壁を見ると、ゴツゴツした岩肌が見え、昭和32年に作られた当時の困難さが想像できました。銀が採れたという“銀山平”という地名から名付けられました。
「シルバーライン」は、奥只見ダムと奥只見発電所を作るときの工事に使うための資材や機械を運ぶために作られました。全長22kmのうち、トンネル部分は約18km。トンネルの壁を見ると、ゴツゴツした岩肌が見え、昭和32年に作られた当時の困難さが想像できました。銀が採れたという“銀山平”という地名から名付けられました。

まずは奥只見ダムのバーチャル見学です。ここからは、J-POWERグループの電力館館長、伊藤さんがダムと発電所を案内します。奥只見ダムは、福島県と新潟県の県境を流れる只見川をせき止めており、発電所で作られた電気は送電線を通じて首都圏や東北地方に送られています。

奥只見ダムは日本最大級の重力式コンクリートダムです。コンクリートの重みで水をせき止めています。この奥只見ダムの総貯水量は日本第2位です。
奥只見ダムは日本最大級の重力式コンクリートダムです。コンクリートの重みで水をせき止めています。この奥只見ダムの総貯水量は日本第2位です。

エレベーターを使い、ダムの内部に入ります。

エレベーター内のパネルです。ダムの一番高いところの天端(てんば)から下に降りていきます。黄色はダム内部のエレベーター、赤い丸で囲まれているのは取水口です。黒い線はダムを点検するための監査廊という通路です。
エレベーター内のパネルです。ダムの一番高いところの天端(てんば)から下に降りていきます。黄色はダム内部のエレベーター、赤い丸で囲まれているのは取水口です。黒い線はダムを点検するための監査廊という通路です。

発電機室に到達すると、⽔⼒発電の仕組みが解説されました。

水力発電は、高いところの水は低いところに流れる「位置エネルギー」を利用して電気を作っています。また、水の量と水の落差が発電の出力に大きく影響しています。現在の水力発電は、電気の使用量が増える日中や夕方などのピーク時の対応として使われるのが一般的です。
水力発電は、高いところの水は低いところに流れる「位置エネルギー」を利用して電気を作っています。また、水の量と水の落差が発電の出力に大きく影響しています。現在の水力発電は、電気の使用量が増える日中や夕方などのピーク時の対応として使われるのが一般的です。
運動エネルギーを電気エネルギーに変える発電機の説明です。ダムから水圧鉄管を通って運ばれた水は水車に導かれて、その水の力で水車が回り、ローターと呼ばれる電磁石が水車軸につながって回転し、まわりにあるコイルによって電気が発生する仕組みとなっています。発電に使われた水は、ドラフトチューブという導水管を通って放水路に流れていきます。
運動エネルギーを電気エネルギーに変える発電機の説明です。ダムから水圧鉄管を通って運ばれた水は水車に導かれて、その水の力で水車が回り、ローターと呼ばれる電磁石が水車軸につながって回転し、まわりにあるコイルによって電気が発生する仕組みとなっています。発電に使われた水は、ドラフトチューブという導水管を通って放水路に流れていきます。
発電機室には、はじめにできた1号機、2号機、3機、4号機がありました。4号機はピーク電力需要の高まりを受けて、あとからできたそうです。とても重量があることに驚きます。
発電機室には、はじめにできた1号機、2号機、3号機と、あとから増設した4号機がありました。4号機はピーク電力需要の高まりを受けて、あとからできたそうです。とても重量があることに驚きます。
ダムのメンテナンスなどに必要な資材を運び入れる搬入口から出て振り返ると、ダムの大きさが実感できます。
ダムのメンテナンスなどに必要な資材を運び入れる搬入口から出て振り返ると、ダムの大きさが実感できます。

奥只見には、イヌワシやクマタカ、モリアオガエル、ムツアカネなどの希少な生き物たちが生息しています。2003年の4号機の増設工事の際には、イヌワシの繁殖に影響を与えないよう騒音に配慮し、工事の残土の埋立地に湿地を移植して「エコパーク」を作りました。当初は難しいと言われた生態系の移植を成功させ、環境との共生を図っています。

貴重な植生や生態系の維持を図るために作られた「エコパーク」です。J-POWERの環境や地域との共生への取り組みが理解できます。
貴重な植生や生態系の維持を図るために作られた「エコパーク」です。J-POWERの環境や地域との共生への取り組みが理解できます。

続いてシゲさんから「維持流量発電」の説明がありました。奥只見ダムで発電用に使用された水は、地下の放水路を通じて放水口まで流れていきます。ダムの直下から放水口まではおよそ3km。その間は、水が少なくなって生態系への悪影響が懸念されます。そのために、ダムの直下で少しだけ水を流し、水の流れを維持します。これを「維持流量」と呼び、この水によって3km間の生態系を守り、環境に対する影響を低減します。

生態系を守る「維持流量」の水もすべて発電に使える大事な資源です。そこで1号機から4号機とは別に、小さな維持流量発電機をつけて、2,800kWという一般家庭だと約1,000世帯分程度の発電をして有効利用しています。
生態系を守る「維持流量」の水もすべて発電に使える大事な資源です。そこで1号機から4号機とは別に、小さな維持流量発電機をつけて、2,800kWという一般家庭だと約1,000世帯分程度の発電をして有効利用しています。

奥只見ダム・発電所の最後は、高倉ドクターによる発電の仕組みの解説がありました。

電気は「磁石」と「コイル」で発生します。
電気は「磁石」と「コイル」で発生します。
ドクターは、コイルの中に磁石が入っている懐中電灯を用意して、上下に振るとコイルの中で磁石が動いて電気が発生して光ることを説明しました。これは発電機と同じ仕組みです。コイルの中で磁石が動くと「運動エネルギー」が「電気エネルギー」に変わります。磁石がコイルの中で動かなければ電気は起こりません。こうした現象は「電磁誘導」と呼ばれています。
ドクターは、コイルの中に磁石が入っている懐中電灯を用意して、上下に振るとコイルの中で磁石が動いて電気が発生して光ることを説明しました。これは発電機と同じ仕組みです。コイルの中で磁石が動くと「運動エネルギー」が「電気エネルギー」に変わります。磁石がコイルの中で動かなければ電気は起こりません。こうした現象は「電磁誘導」と呼ばれています。
縦運動では効率が悪いため、発電機では回転する動きを利用しています。回すとできる運動エネルギーが電気エネルギーに変わって電気が起きます。太陽光発電以外の発電では、すべてこの「電磁誘導」を利用しています。
縦運動では効率が悪いため、発電機では回転する動きを利用しています。回すとできる運動エネルギーが電気エネルギーに変わって電気が起きます。太陽光発電以外の発電では、すべてこの「電磁誘導」を利用しています。
11:00

豊かな自然を映像体験で実感した「森の体験プログラム」

次はキープ協会のみかんちゃんとぱりんこの案内で、銀山平の森での自然体験プログラムへと進みます。

奥只見ダムや発電所、ダム湖である奥只見湖の周りには、多くの森や豊かな自然が広がっています。奥只見ダムのそばにある奥只見船着場から銀山平船着場へは遊覧船で向かいました。
奥只見ダムや発電所、ダム湖である奥只見湖の周りには、多くの森や豊かな自然が広がっています。奥只見ダムのそばにある奥只見船着場から銀山平船着場へは遊覧船で向かいました。
ぱりんこを乗せた遊覧船が奥只見湖を進みます。写真手前には奥只見ダムと発電所があります。雄大な景色に圧倒されます。
ぱりんこを乗せた遊覧船が奥只見湖を進みます。写真手前には奥只見ダムと発電所があります。雄大な景色に圧倒されます。
撮影時の6月には雪がまだ残っていました。通常は5月あたりまで雪が残っているということでした。
撮影時の6月には雪がまだ残っていました。通常は5月あたりまで雪が残っているということでした。

森の中に入ると少しひんやりとします。たくさんの葉っぱがありました。また森の中には、ねずみやキツツキなどの生き物たちの住み家もあります。ブナの森に入ると、いろんな葉っぱがあって、形も大きさもいろいろでした。

数多くの葉っぱの赤ちゃんが森にありました。
数多くの葉っぱの赤ちゃんが森にありました。

続いては3グループに分かれての「葉っぱじゃんけん」です。

「葉っぱじゃんけん」は、参加者が事前に5枚の葉っぱを集めて、大きさ、ギザギザ、葉っぱの付け根から枝までの葉柄の長さ、筋や線の数、するどさ、匂いなどの条件で自分が持っている葉っぱを出して競い合います。ヒマラヤ杉や朝顔、自宅にある観葉植物、道端に落ちている葉っぱを持つ参加者もいて、地域による特徴もわかりました。
「葉っぱじゃんけん」は、参加者が事前に5枚の葉っぱを集めて、大きさ、ギザギザ、葉っぱの付け根から枝までの葉柄の長さ、筋や線の数、するどさ、匂いなどの条件で自分が持っている葉っぱを出して競い合います。ヒマラヤ杉や朝顔、自宅にある観葉植物、道端に落ちている葉っぱを持つ参加者もいて、地域による特徴もわかりました。

ぱりんこからは、いろんな視点を持って観察する大切さが伝えられました。参加者からは、まだやりたいという声もあがって、かなり真剣なようすが見受けられました。

ブナの葉はお椀型で真ん中が少しくぼんでいます。雨を受け止めて水を集めるのに良い形です。
ブナの葉はお椀型で真ん中が少しくぼんでいます。雨を受け止めて水を集めるのに良い形です。
森の生き物たちには大事な食糧であるブナの実もありました。
森の生き物たちには大事な食糧であるブナの実もありました。
森の地面には、落ち葉もたくさん積もり、めくると葉っぱは細かくなって小さな根っこなども出てきました。小さな生き物たちが落ち葉を食べて細かくした土は少し湿っていて、水分を含んでいることがわかります。森の土からはブナの木も草も森の植物も水や栄養をもらっています。
森の地面には、落ち葉もたくさん積もり、めくると葉っぱは細かくなって小さな根っこなども出てきました。小さな生き物たちが落ち葉を食べて細かくした土は少し湿っていて、水分を含んでいることがわかります。森の土からはブナの木も草も森の植物も水や栄養をもらっています。
雪の重みで曲がったブナの木に寝そべっているぱりんこ。癒しを感じる森がありました。
雪の重みで曲がったブナの木に寝そべっているぱりんこ。癒しを感じる森がありました。
11:35

エコとエネのつながりを知る「ドクターと学ぶ科学の実験教室~水力発電編~」

ドクターによる実験では、「土」の重要性と自然と人間のつながりを理解していきました。

森にある木には「土」が必要です。かたい粘土質の土が、落ち葉や雨、数々の生き物や微生物、カビなどによって植物が成長しやすい「団粒」という構造を持った、ふわふわの土に変わります。
森にある木には「土」が必要です。かたい粘土質の土が、落ち葉や雨、数々の生き物や微生物、カビなどによって植物が成長しやすい「団粒」という構造を持った、ふわふわの土に変わります。
ふわふわの土は、水の染み込むスピードが早く、空気の通りも良いものになっています。ストローで息を吹き込んで空気の通りの違いを確かめました。団粒の土は根腐れがしにくく、水も保たれています。
ふわふわの土は、水の染み込むスピードが早く、空気の通りも良いものになっています。ストローで息を吹き込んで空気の通りの違いを確かめました。団粒の土は根腐れがしにくく、水も保たれています。
余分な水はスムーズに地下に流れて地下水になります。地下水として集まった水は、飲用水や農業用水、そして電気を作るために利用されています。
余分な水はスムーズに地下に流れて地下水になります。地下水として集まった水は、飲用水や農業用水、そして電気を作るために利用されています。

水を集めて電気を作るためにダムと発電機があります。水力発電は、水がなくなれば電気を起こせないという弱点があります。そのためダムは、いつも水がある状態で管理されて、電気が必要な時にだけ発電をしています。

水力発電は「自然」と「人間」の2つの力によって実現します。
水力発電は「自然」と「人間」の2つの力によって実現します。
14:00

電力の専門家・J-POWERシゲさんによる講義「SDGs時代のエネルギー・環境問題について考える」

午前の振り返りを兼ねた学生同士の交流後、午後は専門家のレクチャーが続きます。最初は、電力の専門家であるJ-POWERのシゲさんによる講義。タイトルは「SDGs時代のエネルギー・環境問題について考える」です。冒頭にSDGsの目標を確認して、J-POWERの成り立ちとエネルギーと環境、地域社会との共生の取り組みが紹介されました。

J-POWERは日本全国に数多くの発電所を有していますが、エネルギーと環境問題、地域との共生、新たな取り組みなどに関して、代表的な5つの事例が紹介されました。
J-POWERは日本全国に数多くの発電所を有していますが、エネルギーと環境問題、地域との共生、新たな取り組みなどに関して、代表的な5つの事例が紹介されました。
事例1では、高度経済成長期の御母衣ダム建設における白川郷近くの荘川村、中野地区にある村の水没問題を通じて、J-POWERの地域共生の原点となった経緯が紹介されました。
事例1では、高度経済成長期の御母衣ダム建設における白川郷近くの荘川村、中野地区にある村の水没問題を通じて、J-POWERの地域共生の原点となった経緯が紹介されました。
事例2は、奥只見ダム・発電所における環境問題です。イヌワシをはじめとする動植物の保護、トンボのムツアカネや貴重な植物を守るために植生を移植し、現在のエコパークが生まれた経緯や地域との共生などが紹介されました。
事例2は、奥只見ダム・発電所における環境問題です。イヌワシをはじめとする動植物の保護、トンボのムツアカネや貴重な植物を守るために植生を移植し、現在のエコパークが生まれた経緯や地域との共生などが紹介されました。
事例3では天竜川の河川環境再生が紹介されました。鮎が減ってきたために、地元のステークホルダーが手を取り合って、河川環境を持続的に維持する取り組みが今も継続しているとのことです。
事例3では天竜川の河川環境再生が紹介されました。鮎が減ってきたために、地元のステークホルダーが手を取り合って、河川環境を持続的に維持する取り組みが今も継続しているとのことです。
事例4は、横浜という大都市での磯子火力発電所における環境と地域との共生についてです。全国初の公害防止協定や景観対策などで、地域と環境の共生を図った事例でした。
事例4は、横浜という大都市での磯子火力発電所における環境と地域との共生についてです。全国初の公害防止協定や景観対策などで、地域と環境の共生を図った事例でした。
最後の事例5は、瀬戸内海の小島に建設した石炭ガス化複合発電「大崎クールジェン」です。最先端の発電方式でCO 2を分離回収して水素を作っています。焦点は地球規模の気候変動問題です。
最後の事例5は、瀬戸内海の小島に建設した石炭ガス化複合発電「大崎クールジェン」です。最先端の発電方式でCO2を分離回収して水素を作っています。焦点は地球規模の気候変動問題です。

企業は近年、さらに持続可能な環境と平和で健全な社会があって、はじめて経済活動が成り立つことが前提とされています。近年高まる世界的なリスク想定では、気候変動対策の失敗や人為的な環境災害、生物多様性の損失などが上位に来ます。シゲさんから学生には、日本も例外ではなく、持続可能な社会の実現や必要不可欠なエネルギーとエコの共存を目指して、身近なことに視野を広げて世界につながることを意識し、仲間と行動することの大切さが伝えられました。

15:00

「〇〇×〇〇」で考える行動化。環境の専門家・ラビットの「環境教育概論」

環境教育の専門家、キープ協会のラビットの講義「環境教育概論」です。ラビットは、山梨県清里のキープ協会で自然の魅力・楽しさ・大切さを伝え、自然と人を繋げていく役割を担っています。今回、学生と一緒に考えたいことは「地球規模の環境問題の解決に結びつけること」と話しました。

ラビットは、はじめに参加者に対して「今いる場所の天気」や「心に残る風景」を聞きました。画面に思い思いに絵や文字で伝える参加者たち。こうして伝えることの延長線上に、ラビットたちの活動があるのだと語りました。
ラビットは、はじめに参加者に対して「今いる場所の天気」や「心に残る風景」を聞きました。画面に思い思いに絵や文字で伝える参加者たち。こうして伝えることの延長線上に、ラビットたちの活動があるのだと語りました。

続けて、環境問題を解決する3つの方法が明示されました。

環境問題を解決するためには、まずは法律や制度を作るルール、次に様々な技術をより良くしていくイノベーション、そして最後に、自然への関心を持ってもらう働きかけ、意識や価値観に少しでも働きかける「環境教育」であるとラビットは説明しました。人々の意識が変わらなければ、ルールは守られず、イノベーションも生まれません。環境教育はそれらの根底にあるものです。
環境問題を解決するためには、まずは法律や制度を作るルール、次に様々な技術をより良くしていくイノベーション、そして最後に、自然への関心を持ってもらう働きかけ、意識や価値観に少しでも働きかける「環境教育」であるとラビットは説明しました。人々の意識が変わらなければ、ルールは守られず、イノベーションも生まれません。環境教育はそれらの根底にあるものです。

次にラビットは、“環境”と聞いて何をイメージするかを参加者に問いました。参加者はチャットに「持続可能な社会」、「未来のために守るべきもの大切なもの」、「行動しなければならないこと」、「森林」、「地球温暖化」、「海」、「自然」、「ごみの分別回収」、「自然資本」、「プラスチックフリー」などと書き込んでいきます。こうした声を見てもわかるように、実は、環境教育の“環境・エコ”は扱う範囲も広く、定義が難しいうえに、問題やアプローチも多岐に渡っています。そこでラビットは環境を“関係”と捉えて、環境問題は、すなわち関係の問題であるとしました。

なぜ関係の問題なのかを解き明かします。自分と自然、自分と他者、自分と自分の内面との関係が断絶すると、ひとりよがりになって環境の問題は解決に向かいません。その関係を再構築するための働きかけが「環境教育」としました。
なぜ関係の問題なのかを解き明かします。自分と自然、自分と他者、自分と自分の内面との関係が断絶すると、ひとりよがりになって環境の問題は解決に向かいません。その関係を再構築するための働きかけが「環境教育」としました。

次にラビットからは、SDGsには持続可能な社会を実現するための具体的な達成目標があるが、このSDGsと向き合うときに、私たちが最も恐れるべきことは何か?という問いが参加者に投げかけられました。

参加者からは「本当の目的を忘れてしまうこと」、「今までの生活を変えること」、「他者の犠牲」などと素晴らしい反応が寄せられましたが、ラビットは「無関心」が最も恐れるべきことだとしました。
参加者からは「本当の目的を忘れてしまうこと」、「今までの生活を変えること」、「他者の犠牲」などと素晴らしい反応が寄せられましたが、ラビットは「無関心」が最も恐れるべきことだとしました。

自分だけが良ければ良いではなく、自分と同じ世代や将来世代、自分と地球のシステムに「隔たり」や「偏り」がない社会を実現するためには、「無関心」を抑止して「隔たり」をなくす必要があります。そのためには「感受性」、「想像力」、「複眼的思考」を促す役割が必要になるとラビットは話しました。

このツアーの最大の目的ともいえる“行動化”に向けて、まず「エコ×エネ×●●」で考えることがラビットから促されました。この●●の部分に、まず「自分」を入れてみると、自分事化から物事を複眼的な思考で捉えられます。
このツアーの最大の目的ともいえる“行動化”に向けて、まず「エコ×エネ×●●」で考えることがラビットから促されました。この●●の部分に、まず「自分」を入れてみると、自分事化から物事を複眼的な思考で捉えられます。

SDGsは多くの人が解決策を求めています。その解決策に向けては「行動化」が必要です。そして、そのためには良い意味での“マージナルマン(境界人)”として、領域や分野を行き来する橋渡し役が大切だとラビットはメッセージを伝えました。

16:00

ドクターの講義の時間。テーマは「知識から行動化へ」

ドクターのレクチャーでは、ドクター自身のプロフィールや活動フィールド、これまで取り組んできた開発途上国の廃棄物管理の改善の実際などが紹介されました。

開発途上国の廃棄物管理の現状です。インドネシアのスラバヤ市のごみの埋め立て処分場では、焼却処理をせずに、ほとんどが埋め立て処分となっていました。そこでは、プラスチックの資源ごみを拾うウエストピッカーとして生計を立てる子供も数多くいました。ごみは不衛生で悪臭もただよい、ガラスの破片や注射針がたくさん落ちているので罹患率も非常に高く、市街地のごみの集積所にもごみが溢れて道路にあふれかえるなど、悪臭で鼻をおさえながら歩く姿も見えました。
開発途上国の廃棄物管理の現状です。インドネシアのスラバヤ市のごみの埋め立て処分場では、焼却処理をせずに、ほとんどが埋め立て処分となっていました。そこでは、プラスチックの資源ごみを拾うウエストピッカーとして生計を立てる子供も数多くいました。ごみは不衛生で悪臭もただよい、ガラスの破片や注射針がたくさん落ちているので罹患率も非常に高く、市街地のごみの集積所にもごみが溢れて道路にあふれかえるなど、悪臭で鼻をおさえながら歩く姿も見えました。

こうした状況は1960年代の日本のごみ処理状況にもありました。「夢の島」に山のようにごみが積まれ、メタンガスも出て、ヘリで殺虫剤をまく。周辺住民はごみの持ち込みに大反対で、いわゆるごみ戦争が勃発しました。日本は焼却処理を選択しましたが、海外では焼却処理はほとんどされていません。焼却処理もダイオキシンが発生するなどの問題がありましたが、今は燃焼管理などの浄化する技術ができて改善しています。こうした環境改善に向けて養った経験や知識を活かして、海外での技術協力にドクターは向かったといいます。

ドクターは海外で生ごみのコンポスト化を進めています。インドネシアも取り組みこそありましたが、その技術が良くなかったといいます。コンポストセンターを作って、ごみの発生源である家庭用のコンポストの普及を図りました。家庭で調理くずが出たら容器の中に入れて処理すれば堆肥に変わります。堆肥は自分たちのコミュニティの緑化用に使うと、緑豊かなコミュニティがどんどん増えていったといいます。
ドクターは海外で生ごみのコンポスト化を進めています。インドネシアも取り組みこそありましたが、その技術が良くなかったといいます。コンポストセンターを作って、ごみの発生源である家庭用のコンポストの普及を図りました。家庭で調理くずが出たら容器の中に入れて処理すれば堆肥に変わります。堆肥は自分たちのコミュニティの緑化用に使うと、緑豊かなコミュニティがどんどん増えていったといいます。

ドクターは、大事なのは「コミュニケーション」だと強調しました。コンポストではいろんな人を巻き込む、特に家庭を巻き込むことが大切だったそうです。自らコンポストを推進する歌を作り、インドネシアではその歌をベースに浸透を図りました。

コンポストに取り組んで花が咲き、野菜がぐんぐん育つ。衛生環境も変わって子どもたちも笑顔になりました。コンポスト用の容器は「魔法の箱」と呼ばれているそうです。
コンポストに取り組んで花が咲き、野菜がぐんぐん育つ。衛生環境も変わって子どもたちも笑顔になりました。コンポスト用の容器は「魔法の箱」と呼ばれているそうです。

一歩を踏み出す原動力は何だったのでしょうか。ドクターの人生を振り返れば、紆余曲折ある中でも常に「環境」が軸になっていることがわかります。大学のときのキャンプカウンセラーのボランティア活動の経験。目的達成に向けてディスカッションから仲間と真剣に取り組んだ試行錯誤。自然とのふれあいやコミュニケーションの指導を学んだこと。PDCAの重要性や組織運営の難しさの多くを学んだことなどが、人生の礎を築くことになったとドクターは明かしました。

学生には、ドクターから多くのメッセージが届けられました。「学生時代に与えられることを待っているだけになってはいませんか。大学は自らが探求と創造を磨く場です。それを意識しながら大学生活を過ごすことが有意義で、大学だけではなく卒業後も知識を得て実行することが大事なんです」

最後は、偶然を捉えて幸福に変える力「セレンディピティ」の考え方をもとに、幸運を捕まえる準備の大事さが説かれました。そして、社会変革が伴うイノベーションや今後SDGsが大きなビジネス機会を生むことも紹介されました。

結びでは、このツアーの目的とも言える「行動化」についての言及がありました。「知識は実行してこそ価値がある」、「ただし、知識は行動の基盤であることを認識しなければならない」
結びでは、このツアーの目的とも言える「行動化」についての言及がありました。「知識は実行してこそ価値がある」、「ただし、知識は行動の基盤であることを認識しなければならない」
17:00

知識がいっぱいになった後は「行動化へのつなぎの時間」

レクチャーが続いた濃厚な初日の最後は、明日の準備も兼ねた「行動化へのつなぎの時間」です。自分が目指す「●●な社会」を自分の言葉で考えていきます。参加者からは、「過不足のない社会」、「誰もが明日に希望を持って生きられる社会」といった社会の在り方そのものを考えた言葉から、「自然と生きる社会」、「誰もが環境のことを考えて自分の好きなエコを行動する社会」など、環境を軸足にした考えも多く見受けられました。

19:00

どんな問いが生まれた?「ひとり一言タイム」

夕食後には再びオンラインで集まりました。明日に向けて、自己紹介を兼ねた「自分のエネルギー源」の紹介と実現したい「●●な社会」を、ひとりひとりが発表しました。学生たちみんなの考えていることを確認しながら初日は終了です。少し疲れが見えながらも、その後の自由交流会でのフリートークを楽しみにしていた学生も多く、夜まで楽しい時間を過ごしていました。

1日目の終わりに3人の学生に
話を聞きました!

「将来はエネルギー分野の仕事に携わりたい」

小学生のころはそれほど理科を好きではありませんでしたが、中学生になって、世の中が原子という細かい粒子でできていることを知り、そこから科学に興味を持って地元の高専に進みました。高専では「熱電変換材料」を卒業研究のテーマにしましたが、普段、捨てられる熱エネルギーの再利用等、エネルギー分野に興味が出てきて大学に編入し、今は化学物理工学科に在籍しています。地元の秋田県にも風力発電があるので環境問題は身近でしたが、このツアーでドクターのお話を聞いて、まだまだ何かできることはあると感じました。将来は、エネルギー分野の仕事に携わりたいと考えています。

ゾエ@化学物理工学科さん
ゾエ@化学物理工学科さん

「無関心な人のいない社会を作れる教員になりたい」

小学校の頃は、はっちゃけて笑いを取るようなムードメーカーでしたが、とにかく不器用で、論理的に考えることが苦手で直感で考えるタイプでした。そのため、何かを判断する時も根拠がなく結局やってみるけどうまくいかない。やはり論理的に考えることは小学校の頃からも大事だと思い、今は小学校か中学校の理科の教員を目指しています。このツアーでは、ドクターの実験で生き物が水力発電に貢献していることがとても面白いと思いました。将来は、押しつけるのではなく、いろんな情報を与えて世界に関心を持ってもらえる、無関心な人のいない社会を作れるような教員になりたいです。

はせきょー@生産農学科さん
はせきょー@生産農学科さん

「再生エネルギーで地域を支えたい」

小学校低学年の時に、高学年の子がペットボトルのキャップを集めてワクチンを貧しい子供たちに届けるというエコキャップ運動をやっていて環境に興味をもちました。無関心な人に関してどうするかを私も今、思い悩んでいて、ボランティア活動を通じて環境問題について深く知ってもらいたいと考えています。今回は、火力編に参加したときに知り合った友人に誘われて参加しました。普通ではつながれない人たちにつながれるのは、オンラインの魅力ですね。将来は地域と関わる仕事をするのが目標です。太陽光発電で作ったエネルギーで、電気自動車による地域のエネルギーマネジメントを普及させたいと思います。

ヒロピー@環境学科さん
ヒロピー@環境学科さん
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