< ツアー概要 >
- 日程:2021年8月26日(木)-8月27日(金)
- 参加者数:学生24人
- 場所:オンラインにて開催
大学生向け 水力編@奥只見ツアー レポート
14年の歴史がある「エコ×エネ体験プロジェクト」は、J-POWERグループが「エネルギーと環境の共生」を目指して取り組む社会貢献活動です。その中のひとつ「エコ×エネ体験ツアー水力学生編」は従来、高専・大学生、大学院生を2泊3日のツアーに無料招待して、水力発電所内部の見学や森での体験、実験を通じた水力発電の仕組みを学ぶことができるプログラムです。今夏は、新型コロナの影響によりオンラインでの実施となり、日本各地から所属学部・学科も多様な学生たちが2日間にわたって参加しました。専門家によるエネルギーと自然、環境問題の知識などを獲得しながら、さらに行動に向けて交流を重ねていった学生24人のオンラインツアーのようすを振り返ります。
山梨県清里のキープ協会で、自然を守り、自然の大切さを伝える仕事に携わる“ぱりんこ”が進行役を務めました。まずはウォーミングアップの時間で、リアクション体操などに参加してリラックス。「今朝起きてから電化製品をいくつ使いましたか」の質問では、数個から十数個までの回答があり、自分たちの暮らしが、いかに電気に支えられているかを理解しました。次にエコ×エネ体験プロジェクトのリーダー、J-POWERのシゲさんによるはじまりの挨拶ではツアーの目的や期待が伝えられて、いよいよ奥只見ダム・発電所のバーチャル見学へと進みます。
J-POWERの発電所は日本全国にあり、それぞれの発電所では水力・火力・風力エネルギーなど、さまざまな方法で電気が作られています。今回は、その中でも新潟県にある「奥只見水力発電所」を訪れて、電気と自然や森、水のつながりを探っていきました。
東京から新幹線で1時間半のJR浦佐駅からバスで奥只見へ向かいます。車窓の外を眺めると、きれいな川や越後三山をはじめとする山々、広がる田んぼなどが見えました。お米やお酒でも有名な新潟。豊かな自然ときれいな水が生活に密着しています。また、雪国ならではの生活の工夫も見えてきました。
さらに山の奥に進んでいきます。「シルバーライン」を抜けると、奥只見ダム・発電所が見えてきました。
まずは奥只見ダムのバーチャル見学です。ここからは、J-POWERグループの電力館館長、伊藤さんがダムと発電所を案内します。奥只見ダムは、福島県と新潟県の県境を流れる只見川をせき止めており、発電所で作られた電気は送電線を通じて首都圏や東北地方に送られています。
エレベーターを使い、ダムの内部に入ります。
発電機室に到達すると、⽔⼒発電の仕組みが解説されました。
奥只見には、イヌワシやクマタカ、モリアオガエル、ムツアカネなどの希少な生き物たちが生息しています。2003年の4号機の増設工事の際には、イヌワシの繁殖に影響を与えないよう騒音に配慮し、工事の残土の埋立地に湿地を移植して「エコパーク」を作りました。当初は難しいと言われた生態系の移植を成功させ、環境との共生を図っています。
続いてシゲさんから「維持流量発電」の説明がありました。奥只見ダムで発電用に使用された水は、地下の放水路を通じて放水口まで流れていきます。ダムの直下から放水口まではおよそ3km。その間は、水が少なくなって生態系への悪影響が懸念されます。そのために、ダムの直下で少しだけ水を流し、水の流れを維持します。これを「維持流量」と呼び、この水によって3km間の生態系を守り、環境に対する影響を低減します。
奥只見ダム・発電所の最後は、高倉ドクターによる発電の仕組みの解説がありました。
次はキープ協会のみかんちゃんとぱりんこの案内で、銀山平の森での自然体験プログラムへと進みます。
森の中に入ると少しひんやりとします。たくさんの葉っぱがありました。また森の中には、ねずみやキツツキなどの生き物たちの住み家もあります。ブナの森に入ると、いろんな葉っぱがあって、形も大きさもいろいろでした。
続いては3グループに分かれての「葉っぱじゃんけん」です。
ぱりんこからは、いろんな視点を持って観察する大切さが伝えられました。参加者からは、まだやりたいという声もあがって、かなり真剣なようすが見受けられました。
ドクターによる実験では、「土」の重要性と自然と人間のつながりを理解していきました。
水を集めて電気を作るためにダムと発電機があります。水力発電は、水がなくなれば電気を起こせないという弱点があります。そのためダムは、いつも水がある状態で管理されて、電気が必要な時にだけ発電をしています。
午前の振り返りを兼ねた学生同士の交流後、午後は専門家のレクチャーが続きます。最初は、電力の専門家であるJ-POWERのシゲさんによる講義。タイトルは「SDGs時代のエネルギー・環境問題について考える」です。冒頭にSDGsの目標を確認して、J-POWERの成り立ちとエネルギーと環境、地域社会との共生の取り組みが紹介されました。
企業は近年、さらに持続可能な環境と平和で健全な社会があって、はじめて経済活動が成り立つことが前提とされています。近年高まる世界的なリスク想定では、気候変動対策の失敗や人為的な環境災害、生物多様性の損失などが上位に来ます。シゲさんから学生には、日本も例外ではなく、持続可能な社会の実現や必要不可欠なエネルギーとエコの共存を目指して、身近なことに視野を広げて世界につながることを意識し、仲間と行動することの大切さが伝えられました。
環境教育の専門家、キープ協会のラビットの講義「環境教育概論」です。ラビットは、山梨県清里のキープ協会で自然の魅力・楽しさ・大切さを伝え、自然と人を繋げていく役割を担っています。今回、学生と一緒に考えたいことは「地球規模の環境問題の解決に結びつけること」と話しました。
続けて、環境問題を解決する3つの方法が明示されました。
次にラビットは、“環境”と聞いて何をイメージするかを参加者に問いました。参加者はチャットに「持続可能な社会」、「未来のために守るべきもの大切なもの」、「行動しなければならないこと」、「森林」、「地球温暖化」、「海」、「自然」、「ごみの分別回収」、「自然資本」、「プラスチックフリー」などと書き込んでいきます。こうした声を見てもわかるように、実は、環境教育の“環境・エコ”は扱う範囲も広く、定義が難しいうえに、問題やアプローチも多岐に渡っています。そこでラビットは環境を“関係”と捉えて、環境問題は、すなわち関係の問題であるとしました。
次にラビットからは、SDGsには持続可能な社会を実現するための具体的な達成目標があるが、このSDGsと向き合うときに、私たちが最も恐れるべきことは何か?という問いが参加者に投げかけられました。
自分だけが良ければ良いではなく、自分と同じ世代や将来世代、自分と地球のシステムに「隔たり」や「偏り」がない社会を実現するためには、「無関心」を抑止して「隔たり」をなくす必要があります。そのためには「感受性」、「想像力」、「複眼的思考」を促す役割が必要になるとラビットは話しました。
SDGsは多くの人が解決策を求めています。その解決策に向けては「行動化」が必要です。そして、そのためには良い意味での“マージナルマン(境界人)”として、領域や分野を行き来する橋渡し役が大切だとラビットはメッセージを伝えました。
ドクターのレクチャーでは、ドクター自身のプロフィールや活動フィールド、これまで取り組んできた開発途上国の廃棄物管理の改善の実際などが紹介されました。
こうした状況は1960年代の日本のごみ処理状況にもありました。「夢の島」に山のようにごみが積まれ、メタンガスも出て、ヘリで殺虫剤をまく。周辺住民はごみの持ち込みに大反対で、いわゆるごみ戦争が勃発しました。日本は焼却処理を選択しましたが、海外では焼却処理はほとんどされていません。焼却処理もダイオキシンが発生するなどの問題がありましたが、今は燃焼管理などの浄化する技術ができて改善しています。こうした環境改善に向けて養った経験や知識を活かして、海外での技術協力にドクターは向かったといいます。
ドクターは、大事なのは「コミュニケーション」だと強調しました。コンポストではいろんな人を巻き込む、特に家庭を巻き込むことが大切だったそうです。自らコンポストを推進する歌を作り、インドネシアではその歌をベースに浸透を図りました。
一歩を踏み出す原動力は何だったのでしょうか。ドクターの人生を振り返れば、紆余曲折ある中でも常に「環境」が軸になっていることがわかります。大学のときのキャンプカウンセラーのボランティア活動の経験。目的達成に向けてディスカッションから仲間と真剣に取り組んだ試行錯誤。自然とのふれあいやコミュニケーションの指導を学んだこと。PDCAの重要性や組織運営の難しさの多くを学んだことなどが、人生の礎を築くことになったとドクターは明かしました。
学生には、ドクターから多くのメッセージが届けられました。「学生時代に与えられることを待っているだけになってはいませんか。大学は自らが探求と創造を磨く場です。それを意識しながら大学生活を過ごすことが有意義で、大学だけではなく卒業後も知識を得て実行することが大事なんです」
最後は、偶然を捉えて幸福に変える力「セレンディピティ」の考え方をもとに、幸運を捕まえる準備の大事さが説かれました。そして、社会変革が伴うイノベーションや今後SDGsが大きなビジネス機会を生むことも紹介されました。
レクチャーが続いた濃厚な初日の最後は、明日の準備も兼ねた「行動化へのつなぎの時間」です。自分が目指す「●●な社会」を自分の言葉で考えていきます。参加者からは、「過不足のない社会」、「誰もが明日に希望を持って生きられる社会」といった社会の在り方そのものを考えた言葉から、「自然と生きる社会」、「誰もが環境のことを考えて自分の好きなエコを行動する社会」など、環境を軸足にした考えも多く見受けられました。
夕食後には再びオンラインで集まりました。明日に向けて、自己紹介を兼ねた「自分のエネルギー源」の紹介と実現したい「●●な社会」を、ひとりひとりが発表しました。学生たちみんなの考えていることを確認しながら初日は終了です。少し疲れが見えながらも、その後の自由交流会でのフリートークを楽しみにしていた学生も多く、夜まで楽しい時間を過ごしていました。
1日目の終わりに3人の学生に
話を聞きました!
「将来はエネルギー分野の仕事に携わりたい」
小学生のころはそれほど理科を好きではありませんでしたが、中学生になって、世の中が原子という細かい粒子でできていることを知り、そこから科学に興味を持って地元の高専に進みました。高専では「熱電変換材料」を卒業研究のテーマにしましたが、普段、捨てられる熱エネルギーの再利用等、エネルギー分野に興味が出てきて大学に編入し、今は化学物理工学科に在籍しています。地元の秋田県にも風力発電があるので環境問題は身近でしたが、このツアーでドクターのお話を聞いて、まだまだ何かできることはあると感じました。将来は、エネルギー分野の仕事に携わりたいと考えています。
「無関心な人のいない社会を作れる教員になりたい」
小学校の頃は、はっちゃけて笑いを取るようなムードメーカーでしたが、とにかく不器用で、論理的に考えることが苦手で直感で考えるタイプでした。そのため、何かを判断する時も根拠がなく結局やってみるけどうまくいかない。やはり論理的に考えることは小学校の頃からも大事だと思い、今は小学校か中学校の理科の教員を目指しています。このツアーでは、ドクターの実験で生き物が水力発電に貢献していることがとても面白いと思いました。将来は、押しつけるのではなく、いろんな情報を与えて世界に関心を持ってもらえる、無関心な人のいない社会を作れるような教員になりたいです。
「再生エネルギーで地域を支えたい」
小学校低学年の時に、高学年の子がペットボトルのキャップを集めてワクチンを貧しい子供たちに届けるというエコキャップ運動をやっていて環境に興味をもちました。無関心な人に関してどうするかを私も今、思い悩んでいて、ボランティア活動を通じて環境問題について深く知ってもらいたいと考えています。今回は、火力編に参加したときに知り合った友人に誘われて参加しました。普通ではつながれない人たちにつながれるのは、オンラインの魅力ですね。将来は地域と関わる仕事をするのが目標です。太陽光発電で作ったエネルギーで、電気自動車による地域のエネルギーマネジメントを普及させたいと思います。