若草山焼き(奈良県奈良市)
小島 なお

「音のソノリティ」を詠む

ふたつの手合わせる祈り、山を焼く祈り、生きて春待つ祈り

歌人 小島 なお

ぢぢぢ、かちかちかち、ぼうぼう。枯れ草の茎が折れる乾いた音、火を高く大きく煽る風の音、空間を震え揺るがす炎の音。

奈良県奈良市に位置する若草山。標高342m。1,000頭以上の鹿が生息し、山肌は鹿の餌になるノシバに覆われている。毎年冬になると、山頂にある鶯塚(うぐいすづか)古墳の鎮魂と慰霊のため、ノシバにいっせいに火が放たれる。山焼きは、120年も続く防災と平安を祈る祭礼である。

松明から燃え広がる炎はわずか30分ほどであっという間に山のなだり(斜面)を走り、一面をあかあかと覆い尽くす。燃え昇る火が上空の寒空を照らし、あたりには明と暗が厳しく引き合うようなうつくしい空間が生まれる。山焼きを終えた若草山は、空の暗闇を降ろしたようにくろぐろとした静けさに包まれて、次の春の芽吹きを待っている。

※「音のソノリティ」第921回放映(若草山焼き)を観て詠んでいただいたものです。J-POWERグループは、奈良県で十津川第一発電所・風屋ダム、池原発電所・池原ダムなどを運営しています。

山焼きの前には、聖火行列や祭典、花火など、様々な行事が行われる。
写真:アフロ

PROFILE

こじま なお

東京都出身。NHK Eテレ「NHK短歌」選者。2004年、角川短歌賞受賞。2007年、第一歌集『乱反射』により現代短歌新人賞、駿河梅花文学賞受賞。2020年4月、第三歌集『展開図』刊行。居合道三段。

音のソノリティ 世界でたった一つの音

J-POWER は、首都圏などで放送中のミニ枠テレビ番組「音のソノリティ~世界でたった一つの音~」を提供しています。「ソノリティ」とは、フランス語の音楽用語で「鳴り響き」の意味。日本の自然風景から、その場所でしか聞くことのできない音を紹介しています。

日本テレビ系列 毎週日曜日 20 :54 ~ など /BS日テレ 毎週水曜日 20 : 54 ~ (再放送)