ネットワーク型世界観を持って世界を見ることの重要性
寺島 実郎

Global Headline

2022年12月に『ダビデの星を見つめて 体験的ユダヤ・ネットワーク論』という書籍を上梓した。ユダヤを取り巻くネットワーク型世界観について考察した本で、中国と在外華人・華僑についての『大中華圏』(2012年)、英国とその元植民地についての『ユニオンジャックの矢』(2017年。以上、すべてNHK出版)に続く三部作となり、本書がその完結編という位置づけだ。

世界を動いてきた私は常々、「中国」、「英国」、「ユダヤ」がネットワーク型民族の最たるものだと考えてきた。ネットワーク型民族とはどのようなものか。

例えば、中国においては2012年、習近平氏が中央委員会総書記となり、「中華民族の偉大な復興」というスローガンを掲げた。ここでいう中華民族とは、中国本土にいる約14億人の中国人だけでなく、海外にいる7,000万人とも言われる華人や華僑を含めた約15億人を指している。中国の成長を支えてきた背後には、こうした海外の華人や華僑のネットワークによる技術や資本を取り入れてきたことが大きい。

また英国が構築しているネットワークの中で、大英帝国の中心だったロンドンから、その版図にあった中東のドバイ、インドのベンガルール、シンガポール、オーストラリアのシドニーをつなぐと一直線になるが、それを「ユニオンジャックの矢」と私は呼んでいる。これらの土地には、英語という言語、英国法や食習慣、サッカーやラグビーなどのスポーツに至るまでの大英帝国の持つソフトパワーが埋め込まれている。これらの場所は今や世界有数の金融、ITの拠点となり、人材や資源を提供するとともに、ビジネス面でも英国にとって大きな力となっている。

こうした国家の枠組に縛られないネットワークを考慮して世界を見る視座がネットワーク型世界観だ。

ユダヤもまた、イスラエル、米国東海岸、ロンドン、ウクライナなど、世界中に拠点を持つネットワーク型民族であり、このことを理解した上で世界を見ると、世界は違って見えてくる。

なぜウクライナ危機が起きたのか、なぜロシアに侵略されたウクライナがこれほど持ちこたえているのか、なぜウクライナなどの東欧にユダヤ人が多いのか。こうした疑問を考える上で、背後にあるユダヤ・コミュニティの存在、そのネットワークを理解することは避けては通れない。米国の大統領選挙の行方にもユダヤ人の存在は大きく影響しており、中東の石油や天然ガスなどのエネルギー問題を理解する上でも欠かせない要素だ。

ネットワーク型世界観を持つことは、現代社会を理解する上でも重要な視座だということを強調しておきたい。

(2022年11月25日取材)

PROFILE

寺島 実郎
てらしま・じつろう

一般財団法人日本総合研究所会長、多摩大学学長。1947年、北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、三井物産株式会社入社。調査部、業務部を経て、ブルッキングス研究所(在ワシントンDC)に出向。その後、米国三井物産ワシントン事務所所長、三井物産戦略研究所所長、三井物産常務執行役員を歴任。主な著書に『ダビデの星を見つめて 体験的ユダヤ・ネットワーク論』(2022年、NHK出版)、『人間と宗教あるいは日本人の心の基軸』(2021年、岩波書店)、『日本再生の基軸 平成の晩鐘と令和の本質的課題』(2020年、岩波書店)など多数。メディア出演も多数。
TOKYO MXテレビ(地上波9ch)で毎月第3日曜日11:00~11:55に『寺島実郎の世界を知る力』、毎月第4日曜日11:00~11:55に『寺島実郎の世界を知る力ー対談篇 時代との対話』を放送中です(見逃し配信をご覧になりたい場合は、こちらにアクセスしてください)。