米国卸電力市場での橋頭堡となった発電所
アメリカ合衆国 Vol.3
エルウッド発電所
Global J-POWER ―世界とともに―
エルウッド発電所
アメリカ合衆国 Vol.3
米国人社長と理解ある投資パートナーの存在
「エルウッド発電所は、米国卸電力市場にJ-POWER USAが一歩を踏み出した、橋頭堡(足がかり)のような存在でした」
そう話すのは、J-POWERの米国現地法人J-POWER USA Development社Vice Chairmanの橋本純さんだ。トータルで7年間米国に勤務、日本での担当も含めると17年にわたってJ-POWER USAの企画業務に関わってきた。
「J-POWERは2004年に民営化しましたが、コンサルティングで実績のあったアジアだけではなく、米国やポーランドなどでも発電事業を開始。米国では05年にJ-POWER USAを設立し、08年までの4年間に7つの発電所を買収しました」
発電所の買収は日本では珍しいが、米国では一般的で、保守・運営を行う会社はそのままでオーナーだけが変わることはよくあることだという。
「J-POWER USAが当初から発電所の買収や運営をスムーズにできたのは、初代米国人社長が米国の電力業界に知見と人脈のある人で、そのつてで有用な情報が集まったことと、投資パートナーであるJohn Hancock社が協力的で決断が速かったこと、邦銀のサポートが非常に大きかったと思います」
経験値の蓄積に役立った発電所
この時に買収した7発電所のうち、2番目に買収(権益50%)したのがエルウッド発電所だった。
「エルウッドは、買収後数年でPPA(電力販売契約)が切れ、我々はいわゆる卸電力市場に売り手として参加することになりました。これにより、米国の容量市場のルールやそれに対応する制度設計の仕組みなどを学ぶことができました」
エルウッド発電所は、タービン単独で運転するガス火力で、起動が速く、ピーク対応の電源として有効性が高い発電所だが、年間の発電量自体は決して大きくない。このため、「リーマンショックやオバマ大統領による環境重視のエネルギー政策など、外的事業環境の変化が激しい時期に、卸電力市場について学ぶには適切な発電所でした」と橋本さん。
橋本さん自身も、発電所の市場価値評価に活用するため、統計的手法によるマーチャント分析理論を学ぶことになり、英語もままならない中、集中講義を受講し大変な苦労をしたという。
その後、16年にはエルウッド発電所の残りの50%の権益を買い取り、19年には隣地に自社開発によるジャクソン発電所を建設する(本誌70号参照)。ジャクソン発電所は、大容量のコンバインドガス火力で、容量市場とエネルギー市場で本格的に販売。こうした実績を通じて、J-POWER USAは、卸電力市場に通暁(つうぎょう)し、その経験値を上げることができた。
「自社設備として実際に運用してみることで、リアルな卸市場でのビジネスが体得でき、さらにケースバイケースで様々な分野の専門家と協働することが経験値として蓄積されました」
エルウッド発電所で得られた経験値が、J-POWER USAのその後の経営に活かされている。同発電所は、J-POWER USAにとって米国の卸電力市場で成功するための「第一歩」となった発電所だった。