キャパは無限大やで――学生時代、サークルの先輩からかけられた言葉
辻堂 ゆめ
Power Of Words 私の好きな言葉
小説家 辻堂 ゆめ
スピード感あふれるストーリー展開と、じんわり温かな読後感が人気を博しているミステリー作家の辻堂ゆめさん。辻堂さんを支えているのが、上記の言葉だ。
「大学で音楽サークルに入った時、4つのバンドから誘いがありました。2カ月後のライブに向けて1バンドあたり4曲、計16曲も仕上げられるのか悩んでいる時に先輩からかけられた言葉です」
キャパ(可能性)は無限大。その言葉は、やると決めたらがむしゃらに頑張る性格の辻堂さんの胸にストンと落ちた。
一度引き受けたら、今日の自分は頑張れる。きっと明日の自分も頑張ってくれるだろう。今、自分で勝手にハードルをつくってはいけない。その姿勢は、今も役立っている。
「小説の結末を爽やかにしようとは考えていませんが、結果的にそうなっている作品は多いと思います。絶望的な状況でも、その先に光を見出せるかどうかは自分次第。『明日は明日の風が吹く』という言葉のように、前を向いて明日を迎えたいという気持ちがにじみ出ているのかもしれません」
学生時代に作家デビューし、執筆の傍ら会社勤めをこなし、結婚、出産、子育てなど人生経験を重ねている辻堂さん。その経験は、作家としての成長にもつながっている。
「社会人としての視点、親としての実感から、日本にはこれまであまり意識されていなかった社会問題が多いことに気づきました。今後、フィクションだからこそできる焦点の当て方を模索していきたいと思っています」
一方で、子どもの読書感想文コンクールの課題図書になるような作品も手掛けてみたいという。はらはらドキドキのミステリーも児童書も、きっと未来への希望を内包する素敵な作品になるに違いない。
取材・文/ひだい ますみ 写真/吉田 敬
PROFILE
小説家 辻堂 ゆめ
つじどう・ゆめ
1992年、神奈川県生まれ。2014年、東京大学法学部在学中に『夢のトビラは泉の中に』で第13回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞(『いなくなった私へ』と改題)し、小説家デビュー。『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補。『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞。