光合成利用の最先端技術でCO2フリー燃料の実用化に挑む

POWER PEOPLE

J-POWER若松研究所
福岡県北九州市

水中に棲む珪藻(けいそう)の仲間には、光合成により細胞内で油をつくり出すものがある。特にその働きが秀でた海洋珪藻を大量に培養し、CO2フリーの油を抽出してジェット燃料などに精製。バイオ燃料として実用化するための最先端の取り組みが、J-POWER若松研究所で進められている。
2030年頃の事業化を見据えた実証段階で、強みの1つは独自に発見した珪藻種の生育が早く、オイル含有量も最大65%と高いこと。しかも中温性の「ソラリス株」と、耐冷性の「ルナリス株」を保有するため、季節を問わず年間を通じたバイオ燃料の生産が可能になるという。
「もう1つ、ハイブリッド培養を採用していることも当社の優位点です」
そう切り出したのは西村恭彦さん。社歴17年の大半をバイオ事業関連の研究開発に費やし、昨年からこのプロジェクトの中心人物となっている。
「珪藻の培養法には、屋外水槽で行うオープン型と外気から隔離して行うクローズ型があり、増殖の安定性や設備コスト面で一長一短があります。そこで初期段階にガラス管内のクローズドな雑菌の少ない環境で増殖させた後、オープンな環境に移す手法で飛躍的に成果を高められたのです」
化石燃料由来のジェット燃料からの転換を図る国は、CO2排出原単位を50%減らす方針を示している。珪藻由来の燃料製造に関するJ-POWERの試算ではその目標を達成できており、引き続き実証に取り組んでいる。
「商用ベースを想定した大型設備による培養実験に22年から着手。実用化の手応えを感じています」

※本研究はNEDOの委託業務により実施されております。

取材・文/内田 孝 写真/竹見 脩吾

2008年に奄美大島で発見した海洋珪藻「ソラリス株」の顕微鏡写真。オイル含有量は最大65%に達する。
小型の屋外水槽でオープン型培養の実験が進む。
pH制御盤で珪藻の状態をチェック。一定範囲内で目盛りが波打つのは光合成が盛んな証拠。
若松研究所での微細藻類研究は2009年から。国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)や国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の受託研究に加え、企業や大学とのコラボで進展してきた。
バイオジェット燃料プロジェクトのモットーは「ファクトに基づいて行動せよ」。

PROFILE

J-POWER若松研究所
バイオ・環境技術研究グループ
西村 恭彦