糠平湖のきのこ氷
小島 なお

「音のソノリティ」を詠む

ぎしぎしときのこ氷がせりあがる糠平湖 傘にあおい陽が差す

歌人 小島 なお

カタリ、コンコン、ギシギシ。木の床を踏み鳴らすような、古い戸が軋むような、雨垂れが屋根を打つような音。 北海道・河東郡、大雪山系を臨む糠ぬか平びら発電所のダム湖、糠平湖。その不思議な音は、凍結した湖にきのこ氷が現れる冬の間だけ聞こえてくる。きのこ氷とは、湖面の結氷後、発電によって水位が徐々に低下し、かつて森だった湖底や湖岸の切り株の上に氷が取り残されてできる自然の造形物である。切り株の部分が押し上げられることで高低差ができ、湖のいたるところで氷のひび割れる音が響く。雪が少なく、水位変動が激しいことが条件で、糠平湖のみでしか見られない現象だ。多いときで大小100個以上が現れ、氷の厚さによって様々な音が生まれるという。 冬の陽射しをあおく照りかえす雪。きのこ氷の傘に、光と影がくっきりと刻まれている。

※ 「音のソノリティ」第151回放映(糠平湖のきのこ氷)を観て詠んでいただいたものです。

糠平湖はJ-POWERが運営する糠平ダム・発電所のダム湖。
冬には氷が張り、その上を人が渡ることもできる。
写真:田中正秋/アフロ

PROFILE

こじま なお

東京都出身。2004年角川短歌賞受賞。2007年第一歌集「乱反射」により現代短歌新人賞、駿河梅花文学賞受賞。2011年第二歌集「サリンジャーは死んでしまった」刊行。居合道初段。

音のソノリティ 世界でたった一つの音

J-POWERは、首都圏などで放送中のミニ枠テレビ番組「音のソノリティ~世界でたった一つの音~」を提供しています。「ソノリティ」とは、フランス語の音楽用語で「鳴り響き」の意味。日本の自然風景から、その場所でしか聞くことのできない音を紹介しています。

日本テレビ系列 毎週日曜日 20 :54 ~ など /BS日テレ 毎週水曜日 20 : 54 ~ (再放送)