日本の精神と詩歌を言祝ぎ広く世界に知らしめたい
ピーター・J・マクミラン

GLOBAL EYE 日本の魅力

13世紀の前半、公家・藤原定家が撰集した『小倉百人一首』。今でも、“かるた”として親しまれており、正月の風物詩としても馴染みが深い。その百人一首をこよなく愛し、敬意を捧げているのが、翻訳家であり、詩人として活躍するピーター・J・マクミランさんである。
「百人一首には、恋愛の悩みや惜別の思いなど、時代や文化を超えて人の心に響く普遍的な歌(※1)がある一方で、日本独特の情緒を表現した歌もあります。例えば、山桜と情を交わすという発想(※2)や、花ははかないからこそ美しいという感性は、日本ならではのものです。英訳では、和歌に見られる隠喩表現やかけ言葉など難しい部分もありましたが、日本的な情緒が伝わる翻訳を心がけました」
言霊(言葉に宿る力)を信じる詩人として、日本の詩歌に魅了されたというマクミランさん。その味わい深さを、ぜひ世界の人々に知ってもらいたいと、「英語版百人一首かるた」も製作し、かるた大会を開催している。
「詩とカード遊びの融合は、世界的に見て、極めて珍しいものです。『英語版百人一首かるた』では、歌の世界をイラストで表現しました。これによって、『下の句が早く探せる』、『楽しみながら日本文化を学べる』と、外国人はもちろん、日本の学生たちにも好評でした」
今後、母国アイルランドを始め、英国や米国などで、英語版の百人一首大会を開催する予定もある。
「私の仕事は、日本の精神と文化を言祝ぐ、つまり喜びをもってその素晴らしさを讃え、広く伝えることです。日本人の皆さんにも、自国の豊かな文化に誇りを持ち、もっと目を向けてほしいと願っています」
日本らしい情緒があふれる豊かな詩歌の世界。従来の百人一首はもちろん、英語版で遊んでみるのもまた、一興である。これまで気づかなかった日本の魅力が見えてくるかもしれない。

  1. ※1由良の門を渡る舟人かぢを絶え ゆくへも知らぬ恋の道かな(46番・曽祢好忠)
  2. ※2もろともにあはれと思へ山桜 花よりほかに知る人もなし(66番・前大僧正行尊)

取材・文/ひだい ますみ 写真/竹見 脩吾

歌の世界がイラストでも表現され、文字だけのかるたよりも分かりやすく、視覚的にも楽しめる。欧米人に馴染みやすいサイズ(トランプ大)にする工夫も。(右上)英語で読む百人一首 (文春文庫)ピーター・J・マクミラン著

PROFILE

翻訳家・詩人・研究者・アーティスト
ピーター・J・マクミラン

1959年、アイルランド生まれ。翻訳家、日本文学研究者、詩人、英文学博士。アイルランド国立大学卒業後、プリンストン、コロンビア、オックスフォードの各大学で客員研究員を務める。日本在住歴は25年を超える。『小倉百人一首』、『伊勢物語』の英訳、講演、書籍の執筆など幅広く活躍中。