サスティナブルな世界をつくるグローバルなルールの必要性
寺島 実郎

Global Headline

2018年年頭にあたり、グローバル化した資本主義を制御するための国際的なルールづくりについて触れておきたい。
17年は自国利害中心主義を掲げるトランプ政権の登場や、英国のEU離脱などに象徴されるように、協調よりも自国優先の風潮が世界的に強まった。さらに北朝鮮、中東などで様々な政治リスクが存在していることは周知の通りだ。
こうした中、奇妙なことに経済的には世界中で好況が続いている。
17年10月にIMF(国際通貨基金)が発表した「世界経済見通し」では、17年の全世界のGDP成長率(購買力平価ベース)は3.6%、18年は3.7%と予測されている。これは15年の3.4%、16年の3.2%を超える高い成長率だ。特筆すべきは、15~16年にマイナスの成長率だったブラジル、ロシアがプラスに転換、世界のあらゆるエリアが同時好況となっていることだ。
この好調を支えているのが金融市場であることは明確だ。IT技術の進歩により、マネーゲームが肥大化し、これによって世界的に株高の状況となり、世界同時好況が生み出されている。
しかし、経済成長には、負の影響も当然のように存在する。例えば、エネルギー消費に伴ったCO2排出量の増加、ヒトやモノの移動により病原菌やウイルスなどが世界的に移動すること、さらには水や食糧の枯渇、貧富の格差拡大など、様々なリスクが考えられる。
こうしたリスクは国家が単独で対応することが困難で、世界が連帯して対応していくことが必要だ。
さらに、マネーゲームに走る多くの金融企業は、国籍が定まらないことやタックスヘイブン(租税回避地)に本社があることなどを理由に税金を逃れていることが多く、グローバル化によって最も利益を得ている企業が相応の負担をしていないという不公平が生じている。こうした状況を賢く制御し、サスティナブルな発展を支えていくために広く責任を負うような新しいルールづくり、すなわち「グローバル・ガバナンス」と、それを実現する政策論が必要だ。
例えば、国境を越えて展開される経済活動に対して課税する国際連帯税が考えられるし、フランスなど14カ国で始まっている、人々の移動に課税しそれを財源にアフリカ支援などに提供される航空券連帯税なども参考になるだろう。
世界的にはそれぞれの国家が自己主張を強める傾向が続いており、全世界の賛同を得ることはなかなか難しい状況だが、日本はサスティナブルな世界をつくるという「理念」を柱に、地に足の着いた議論をすることで、世界各国に対し責任の共有を訴えていかねばならない。
(2017年11月8日取材)

PROFILE

寺島 実郎
てらしま・じつろう

一般財団法人日本総合研究所会長、多摩大学学長。1947年、北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、三井物産株式会社入社。調査部、業務部を経て、ブルッキングス研究所(在ワシントンDC)に出向。その後、米国三井物産ワシントン事務所所長、三井物産戦略研究所所長、三井物産常務執行役員を歴任。主な著書に『ひとはなぜ戦争をするのか 脳力のレッスンV』(2018年、岩波書店)、『ユニオンジャックの矢 大英帝国のネットワーク戦略』(2017年、NHK出版)、『シルバー・デモクラシー―戦後世代の覚悟と責任』(2017年、岩波新書)など多数。「報道ライブ INsideOUT 寺島実郎の未来先見塾~週刊寺島文庫~」(BS11、毎週金曜日夜20:59~)に出演中です。