時空を超え、「まだ見ぬ世界」を描く
康 夏奈

Venus Talk

アーティスト 康 夏奈

山や海をダイナミックに描いたパノラマ作品をはじめ、発砲スチロールを湖に浮かべたオブジェ、絵画パネルを立体的に組み合わせた作品など、数々の斬新な作品で今、熱い注目を浴びているアーティスト康 夏奈さん。
その目に映る、世界のありかたとは?
新しい視点と表現を追求するアーティストの創作魂に迫る。

康夏奈さんが描くパノラマは、息をのむほど緻密である。葉っぱや水の粒に宿る極小の生命の声が聞こえるかのようだ。しかし、それは大きなうねりとして、迫る。
「人間の体と同じように、森も海も、とても小さいものから成っています。だから、よく観察して、その構造を反復し、集積して描きます」
自然に興味を持ったのは、屋久島での体験がきっかけだという。
「満月の夜、ウミガメが卵を産むために続々と浜に上がってきました。人間は私だけ。強大な自然の世界に入り込み、怖いと思いました。ところが次の瞬間、このような『まだ見ぬ世界』をもっと知りたいと思いました」
康さんは、山に登り、海に潜る。太陽の光、水面の揺れなど、一瞬一瞬の光景を体に記憶する。その記憶の破片を重ねて描く過程から、康さんは自分の絵を、その場で見たものを描いた風景画ではなく、時間を超えた風景描写だと考えている。
康さんの作品は、空間の制約も超える。例えば、「Panoramic Lake」という作品では、湖上を飛ぶ鳥が空から俯瞰しているように、湖に映り込む景色を見渡せる。また、「花寿波島の秘密」では、島の周りを泳いでとらえた、水中と陸上の感覚を、逆円錐型の内側に描いている。
「この作品を見た人から『浮力を感じる』と言われました。確かに、遠近の逆転によって、空間のとらえ方に変化が起きます。新しい手法に気づき、うれしくなりました」
康さんは「物質は重くて遅いが、意識やエネルギーは軽快で目に見えないので、その関係が面白い」と、意識やエネルギーをテーマに挑戦し続ける。彼女が見せてくれる「新しい世界」が楽しみである。

取材・文/ひだい ますみ 写真/竹見 脩吾

「Panoramic Lake」という作品。鳥の視点によって描かれた風景は、空中を浮遊しているかのような感覚をもたらす。
伊東敏光+康夏奈+広島市立大学芸術学部有志による「潮耳荘」。古材を用いて大型の立体作品を制作。海に向かってホルンのような形の集音器が出ていて、内部空間全体に海の音が響く構造になっている。
三都半島の沖に浮かぶ無人島、花寿波島をモチーフとした「花寿波島の秘密」。瀬戸内国際芸術祭2013 年を代表する作品として高い評価を受けた。

PROFILE

アーティスト 康 夏奈

こう かな
1975年、東京都生まれ。広島市立大学芸術学部デザイン工芸学科卒業。2006年、アーティスト・イン・レジデンス・プログラム(米国ロサンゼルス)をはじめ、フィンランド、香川県(小豆島)のプログラムにも参加。国内外で個展・グループ展を開催し、活躍中。