温水路の水音(秋田県にかほ市)
小島 なお
「音のソノリティ」を詠む
段差から落ちてゆくみず落ちてゆくみずを落としたこの空の春
歌人 小島 なお
だだだ、どどどど、ざわざわ。下流へ向かってつくられたいくつもの段差を流れ落ちながら。雪解け水が飛しぶ沫く。
秋田県にかほ市。標高2236mの鳥海山の雪解け水を温めるための水路が流れる。1927年(昭和2年)に地元住民によって考案された日本で初めての農業用温水路である。
川幅を広く、水深を浅くすることで太陽光の熱を効率よく吸収できるという。さらには、多くの落差を設定し、水を空気と触れ合わせることで水温を上げる効果も。実際、上流の水温と比べて約1km下流では3℃ほど高くなっているという。水温が上がったことで、米の収穫量は大きく伸びた。温水路は地元の人々の生活を潤し、支え続けている。
冬から春へ、鳥海山を眠らせていた雪が溶け、季節も自然も生活も動きだす。
※「音のソノリティ」第932回放映(温水路の水音)を観て詠んでいただいたものです。J-POWERグループは、秋田県でにかほ第二風力発電所や、他社と共同で山葵沢地熱発電所などを運営しています。

写真:田中正秋/アフロ

PROFILE
こじま なお
東京都出身。NHK Eテレ「NHK短歌」選者。2004年、角川短歌賞受賞。2007年、第一歌集『乱反射』により現代短歌新人賞、駿河梅花文学賞受賞。2020年4月、第三歌集『展開図』刊行。居合道三段。
音のソノリティ 世界でたった一つの音
J-POWER は、首都圏などで放送中のミニ枠テレビ番組「音のソノリティ~世界でたった一つの音~」を提供しています。「ソノリティ」とは、フランス語の音楽用語で「鳴り響き」の意味。日本の自然風景から、その場所でしか聞くことのできない音を紹介しています。
日本テレビ系列 毎週日曜日 20 :54 ~ など /BS日テレ 毎週水曜日 20 : 54 ~ (再放送)