次の77年をどう生きるか日本の理念とビジョンを問う
寺島 実郎

Global Headline

日本が第2次世界大戦で敗北した1945年から77年が過ぎた。1945年の77年前は、ちょうど明治期がスタートした1868年。そして、今年2023年の77年後は2100年。我々は22世紀への折り返し点、「未来圏の77年」の節目の年にいる。

2023年の今、日本は大きな危機の中にある。これは明治維新、敗戦に続く3度目の危機といっていい。GDPは世界比率で約4%まで落ち、1人あたりGDPは昨年、台湾に抜かれ、今や韓国にも抜かれそうな勢いだ。そして、目には見えにくいが、エネルギー価格の高騰や円の価値低下などによって、日本には新次元の外圧が加えられており、危機的な状況が進行している。

こうした時に問われるのが理念とビジョン。掲げる理念は、歴史に学び、全体知で考えることが大切だ。

明治期も戦後期も、日本は危機の中からスタートした。明治期には、欧米列強の植民地にされるのではないかという怖れの中で、富国強兵に走り、1914年から始まった第1次世界大戦では、日英同盟を背景に、中国・青島にあったドイツ領を攻撃。その後、「遅れてきた植民地帝国」として、国際連盟も脱退して、満州をはじめ、アジア諸国を植民地化しようとした。

戦後期も、日本は敗戦という屈辱の中から復興し、米国主導の20世紀システムに組み込まれ、経済成長というプロセスをひた走って、1994年には世界GDPの約18%を占める世界第2位の経済大国となった。

こうした中、日本が譲ってはいけない哲学や理念とは何か。歴史から学ぶならば、日本に成功をもたらすものは対立ではなく、国際的な協調や連帯・開放であり、これは次なる世界の大きな流れとしても大切にするべきことだ。

今、国際的な分断や対立が激化し、世間では、米中の対立や、権威主義陣営対自由主義陣営のような単純な二項対立の構図で見ようとする動きが強い。しかし、対立と分断が日本に不利益な世界状況をつくりだすことは明白だ。

2023年の今、米国が世界を主導する時代は終わり、グローバルサウスの台頭、中でもアジアの成長によって、世界は、二極でもなく、多極を通り越して間違いなく全員参加型秩序に向かっている。

日本は日米同盟を保持しながらも、国際協調、連帯、開放という視野に立って、世界各国の全員参加の意思決定と、本当の意味でのグローバルな調整を担っていくべきではないのか。理念とビジョンを持った構想力が重要だ。

未来圏の77年を前に、日本人の思慮深さが問われている。

(2023年2月28日取材)

PROFILE

寺島 実郎
てらしま・じつろう

一般財団法人日本総合研究所会長、多摩大学学長。1947年、北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、三井物産株式会社入社。調査部、業務部を経て、ブルッキングス研究所(在ワシントンDC)に出向。その後、米国三井物産ワシントン事務所所長、三井物産戦略研究所所長、三井物産常務執行役員を歴任。主な著書に『ダビデの星を見つめて 体験的ユダヤ・ネットワーク論』(2022年、NHK出版)、『人間と宗教あるいは日本人の心の基軸』(2021年、岩波書店)、『日本再生の基軸 平成の晩鐘と質的課題』(2020年、岩波書店)など多数。メディア出演も多数。
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