エネルギーの未来 カーボンニュートラルとエネルギーセキュリティの共存
渡部 肇史×山地 憲治

Global Vision

J-POWER社長

渡部 肇史

公益財団法人
地球環境産業技術研究機構(RITE)
理事長・研究所長

山地 憲治

地球温暖化に伴う気候変動により、世界的に「カーボンニュートラル」への動きが加速する中、エネルギーの世界では、再エネ、CO2フリー、水素社会といったキーワードが飛び交う。
エネルギー政策や温暖化対策などを知り尽くすこの方に、その未来を問うてみた。

エネルギーセキュリティあっての脱CO2

渡部 今、世界的にカーボンニュートラル(CO2排出量と吸収量を均衡させる)への動きが急で、日本も温室効果ガス排出量を「2050年に実質ゼロ」とする目標を立てています。特に排出量の約4割を占める電力部門には、電源構成に占める再生可能エネルギー(以下、再エネ)の比率を大幅に増やすなどして、カーボンニュートラル実現を牽引する役割が託されていると、私はそう受け止めているのですが。
山地 政府が策定中の「第6次エネルギー基本計画(以下、エネ基)案(※1)」を見ても、2030年の温室効果ガス削減目標を2013年度比46%とし、現行計画の26%から大幅に引き上げています。それを達成する電源構成として、再エネなどの「脱CO2電源」を全体の59%まで積み上げ、火力発電は41%に絞る。2019年度の実績は24%と76%ですから、10年余で主力電源を入れ替えるほどの大変革が求められています。
渡部 山地さんは公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)で、産業社会の実情を踏まえた温暖化対策を研究なさっています。そのお立場から、今のエネルギー政策や環境対策の目標設定などをどうご覧になっていますか。
山地 地球温暖化を食い止め、気候の安定化を図るには、温室効果ガスの濃度を抑制する以外に道はなく、カーボンニュートラルが温暖化対策の最終ゴールという考え方に違和感はありません。ただ、2015年パリ協定での「今世紀後半に脱CO2社会へ」との合意が、その後の趨勢で「2050年に実質ゼロ」と前倒しされました。その勢いのまま、エネ基でも温室効果ガス削減目標が3年前の2倍近くに引き上げられて、産業や生活に相当負荷のかかる目標値になっていると思います。
渡部 このエネ基案の電源構成を、エネルギーセキュリティの観点から見ると、再エネの「主力電源化」を図りつつ、資源の安定調達が見込める天然ガス火力や石炭火力、環境面で優位な原子力を保持し、最適なバランスを探ろうとする苦心の跡が窺えます。国産資源に恵まれない日本は、エネルギー源の選り好みはできないとの思いを新たにしました。
山地 電源の選り好みはできません。カーボンニュートラル実現のためとはいえ、直ちに石炭火力を廃止することは非現実的で、世界に目を向ければ、電化策を進める上で石炭火力が欠かせぬ国はいくらでもあります。石炭利用の高効率化・クリーン化における日本の最先端技術は、そうした国の発展に寄与できます。
渡部 電力事業者として我々が担うべき使命を踏まえつつ、あえて申し上げたいのは、カーボンニュートラルという地球規模の課題解決に挑みながら、エネルギーセキュリティにまつわる課題からも目が離せないのではないか……先々エネルギー情勢がどう変化しようと、電力の安定供給を決してゆるがせにはできないし、また経済合理性を欠いては事業継続がままなりません。言葉を換えれば、ナショナルセキュリティへの配慮も重要なのではないでしょうか。
山地 それは日本のエネルギー政策の基本である「S+3E」(※2)そのものに向けたご指摘ですね。安全性のSを大前提に、3つのE(エネルギーの安定供給/経済性/環境保全)の観点から、エネルギーの未来をバランスよく考え、組み立てていく。3つ目のEに含まれるカーボンニュートラルは極めて優先度の高い課題ですが、それ単独で解決を図れるものではありません。私自身も「2050年に実質ゼロ」が掲げられて以降、そこに注目が集まり過ぎて、うまく全体のバランスが取れていない気がしています。

「再エネ最優先・最大限」経済性の裏付けは

渡部 「S+3E」の観点からのお話を掘り下げたいと思います。エネ基の今般の案では、再エネの「主力電源化」を一層推進し、「最優先の原則のもとで最大限の導入に取り組む」とされています。電源構成比で見ると、再エネは2019年度の実績18%から36〜38%への倍増を見込み、同6%の原子力を20〜22%まで回復させ、新たに水素・アンモニア1%を加えて、非化石電源で全体の6割弱を賄う算段です。
山地 「再エネ最優先・最大限」の文言に意気込みが窺えますけれども、忘れてならないのは、数値目標の裏付けとなる開発余力や経済合理性に目を向けることです。再エネ電源の中で大きな比率を見込めるのは太陽光と風力ですが、日本の太陽光発電の設備容量はすでに中国、米国に次ぐ世界3位で、国土面積あたりでは第1位。国土の7割が山林という地勢で今後さらに太陽光の開発適地を確保していくのは容易ではありません。立地の難しさは風力発電も同様で、陸上風力は飽和状態に近く、洋上風力に活路を見出すしかないのが実情です。
渡部 その風力発電で、J-POWERは20年余の歴史と国内事業者で第2位の設備容量を有します。当初から陸上風力の適地を全国に求め、今、25地点で事業展開中ですが、初期の風力設備がリプレースの時期を迎えています。風車の大型化で効率を高め、風況等の蓄積データから設計を最適化して設備容量の増強に努めています。加えて、洋上風力への新規参入を目指して、秋田県や長崎県などの沖合にいくつか候補地点を定めて準備を進めています。
山地 洋上風力は英国やデンマークなどが北海沿岸で盛んに開発し、陸上に比べて高い設備利用率や大規模化が期待できるのが特長です。北海ほどの好条件は望めないにしろ、日本の沿岸部でもチャレンジする価値はあるし、陸上風力のパイオニアとして風力発電の強みも弱みも知り尽くすJ-POWERにはアドバンテージがあるでしょう。
渡部 ご期待に沿えるよう洋上風力の開発を加速します。ただ、設備容量を増やすだけでは完結しないのが風力発電の難しさです。いかにして高い設備利用率を保ち、かつ安定的に系統電力に取り込むかという自然変動電源ならではの課題が残ります。
山地 風力や太陽光のように気象や日照量で出力が変動する電源を「主力電源化」するには、世人の想像を超えた困難が伴います。電源構成などを評価する時、私はよく「出力単位のkWでなく、電力量の単位であるkWhで考えよ」と言うのですが、それは何kWの設備が、何時間実働するかまで見ないと、各電源の真のポテンシャルは測れないからです。

自然変動電源にかかる「統合コスト」とは?

渡部 まさにおっしゃる通りで、再エネの「主力電源化」に伴っておのずと増大する電力量の変動幅を、電力システム全体の中で吸収し、安定供給を維持するための対策を追加せねばなりません。平たく言うと、日照のない夜間の太陽光発電や、風の吹かない日の風力発電を常時補うに足るバックアップ電源を確保したり、電力系統内で融通したりする大掛かりな改変が必要になります。
山地 自然要因で変動する電源を需要とマッチさせる目的で、現時点ですでに、再エネ電源を系統電力に取り込むための「統合コスト」が発生しています。再エネの固定価格買取制度(FIT、※3)の中で「賦課金」(※4)として、買取価格が電気のkWh価値を上回る部分は需要家が負担する仕組みになっていますが、「統合コスト」はカバーされていません。太陽光や風力はこれが問題です。
渡部 FITの賦課金は、一般のご家庭でも毎月の電気料金に上乗せして徴収されていますが、気づいておられる方はまだ多くないようですね。
山地 まず、自然変動する太陽光や風力はコスト負担を伴うと認識し、その上で、どうやって再エネ電源の比率を倍増させ、カーボンニュートラルに結びつけるか、早急に現実解を示さなければなりません。一つの解は、自然変動しない再エネ電源を増やすことで、水力、地熱、バイオマスなどが候補になります。私は地熱発電のポテンシャルに注目していますが、いかんせん、新規開発に10年単位の歳月を要するのがネックです。
渡部 手前味噌ですが、J-POWERは今のお話にあった、太陽光を除くすべての再エネ電源を手がけていますし、ベースロード電源である石炭火力の運用に加えて、原子力の開発も進めています。事業全般を見渡して改めて思うのは、それぞれの電源に役割があり、個々の長所・短所を見極めながら、全体でバランスを図っていく調整力こそ、課題解決へのカギになるということです。
山地 重要なポイントです。電気というのは瞬時、瞬時で需給バランスを取っていく必要がありますから、ベースロード電源、ミドル電源、ピーク電源を取りそろえ、巧みに操る調整力が生命線になる。それゆえ、再エネを主役に据えるからといって、原子力や火力を配役から外すわけにいかないのは、エネ基に示された電源構成を見ても明らかです。
そして今回のエネ基案で注目すべきは、脱炭素電源の一角に「水素・アンモニア1%」が加えられた点で、ここに私は、エネルギーの未来への無限の可能性を感じています。

エネルギー供給の未来を「水素」が拓く!?

渡部 水素はエネルギー供給とカーボンニュートラルの共存の鍵となるものだと考えており、現在J-POWERも石炭(褐炭)を原料とした水素製造に取り組んでいます。電源としての水素の可能性は、端的には、水素を燃料にして発電する「水素発電」(※5)の実用化によって道が拓かれます。発電機を回すエネルギーを得るために、水素をいくら燃やしてもCO2は発生しない(CO2フリー)。ところが、その水素をつくる過程でCO2が生じて大気中に排出されてしまうと話は別で、要は、CO2フリーの水素を燃料にした水素発電によって初めてカーボンニュートラルが成立するわけです。
山地 その水素が何に由来したものかを識別するために、最近は色分けして呼ぶことが多いですね。再エネ由来の電力でつくった水素は、生来CO2フリーなので「グリーン水素」。天然ガスや石炭などの化石燃料からつくった水素のうち、CO2を大気中に排出したものは「グレー水素」。同じく、化石燃料からつくってもCO2を回収・貯留(CCS)(※6)して大気中に戻していないものは「ブルー水素」といった具合に。
渡部 理想を言えば、CO2フリーのグリーン水素のみで発電したいところです。ただ、大きな水素発電所の運転には膨大な量の水素が費やされ、それを賄うに足るグリーン水素をつくるために、限りある再エネ資源を大量投入することになります。したがって化石燃料から生成可能なブルー水素の研究開発を進め、グリーン水素と両立させておくことが、来るべき「水素社会」に備えた道筋であると考え、J-POWERはオーストラリアでブルー水素をつくる未来志向のプロジェクトにも参画しています。

「BLUE MISSION 2050」で向かう未来

オーストラリアで実証中の褐炭ガス化・水素精製設備。純度99.999%水素の製造に成功した。

広島県の大崎クールジェンでは「CO2フリー水素発電」につながる酸素吹IGCCの実用化を見据える。

山地 その案件は私も承知しています。オーストラリアで褐炭から高純度水素を製造して、日本へ運び入れる「水素サプライチェーン」を築こうという壮大なプロジェクトですね。それが実現すれば、燃料電池車(FCV)など身近な水素利用に拍車がかかり、世の人々が「水素社会」の輪郭を窺い知る好機になると思います。
渡部 実証試験プラントでは、J-POWERが担当する「褐炭ガス化・水素精製」の最先端技術により、純度99.999%水素の製造に成功しています。今後、これを商用機に実装し、2030年を目処に運転を始めたいと思います。加えて、CCSと併用することで、「褐炭由来でCO2フリーのブルー水素」を安定供給する基盤づくりにもチャレンジしていくつもりです。
山地 また、御社が中国電力株式会社と共同で進めている「大崎クールジェンプロジェクト」(NEDO助成事業)にも、私は注目しています。石炭火力発電の脱炭素化や高効率化が期待される「石炭ガス化複合発電(IGCC)」の実証試験が大詰めを迎え、商用化への移行も近いとか。興味深いのは、そこでも水素製造や燃料電池の実用化が可能となっている点です。2つの案件を照らし合わせると、この先、J-POWERには大きな期待をしたいと思います。
渡部 J-POWERは今、カーボンニュートラルと水素社会の実現に向け「J-POWER "BLUE MISSION 2050"」というビジョンを掲げています。石炭火力発電の「CO2フリー水素発電」への移行など、現実的なソリューションを提供する事業者として、電力安定供給を続けながら、着実なCO2削減に取り組んでいきます。
山地 大崎のIGCCはいわば、前工程のガス化炉が水素製造装置で、後工程に組み入れる燃料電池は水素発電そのものです。ここにCCSを足せば実質的に「ゼロエミッション火力」になり得るから、自前技術の統合で難なく移行が可能ではないでしょうか。
渡部 大崎クールジェンでの成果をもとに、2020年代中頃には長崎県の松島火力発電所へのガス化技術の実装を果たし、CCUS実用化間近の発電所として、CO2フリー水素発電の第一歩を踏み出します。以降は海外展開も視野に入れています。
山地 エネ基案で、脱炭素電源に「水素・アンモニア1%」が加わった一件から、まるで水素社会の見取り図を描くように話が膨らんだのが新鮮でした。1%の夢を侮るなかれですね。
渡部 私も、エネルギー問題の本質を共有できたように思います。ありがとうございました。

(2021年8月27日実施)

構成・文/内田 孝 写真/吉田 敬

KEYWORD

  1. ※1エネルギー基本計画案
    国の中長期的なエネルギー政策の方針を示す計画。今年7月に第6次基本計画案が発表された。
  2. ※2「S+3E」の観点
    エネルギー政策を進める上での大原則として、安全性(Safety)を前提に、エネルギーの安定供給(Energy Security)、経済効率性の向上(Economic Efficiency)による低コストでのエネルギー供給を実現し、同時に環境への適合(Environment)を目指す考え方。
  3. ※3固定価格買取制度(FIT)
    再エネで発電した電気を、電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が約束する制度。対象となるのは太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスのいずれか。
  4. ※4FITの賦課金
    FITを通じて電力会社が再エネ由来の電気を買い取る費用の一部を、電気の利用者が賦課金の形で負担する。2021年5月時点で原則1kWhあたり3.36円。
  5. ※5水素発電
    水素の燃焼エネルギーで発電機を駆動するガスタービン発電、汽力発電が主流で、ほかに水素と酸素の化学反応から直接電力を取り出す燃料電池発電もある。
  6. ※6 CO2回収・貯留(CCS)
    火力発電や水素生成などで生じたCO2を大気中に排出される前に分離回収し、地中に貯留して、大気中の温室効果ガス濃度の上昇を抑制する技術。そのCCSに、CO2の有効利用を加えた技術が「CCUS」。

PROFILE

山地 憲治(やまじ・けんじ)

公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)理事長・研究所長。東京大学名誉教授。1950年、香川県生まれ。東京大学工学部原子力工学科卒業、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。専門はエネルギーシステム工学で、総合資源エネルギー調査会、産業構造審議会、科学技術学術審議会・中央環境審議会、原子力委員会などで委員を務め、エネルギー・資源学会、日本エネルギー学会で会長を歴任。現在、RITE理事長・研究所長のほか、再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会委員長、総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会長など。