変わらない部分があるとしたら、それはきっと治らなかった部分なんだろうなと思います。――野田クリスタル『野田の日記 2012-2020ーあとのほうー』あとがきより
奥田 亜希子

Power Of Words 私の好きな言葉

小説家 奥田 亜希子

恋愛小説、青春小説、仕事小説……様々なジャンルの垣根を軽やかに越え、多彩な作品を生み出している小説家・奥田亜希子さん。
お笑いコンビ、マヂカルラブリーの野田クリスタルさんが自著のあとがきで綴った言葉に触れた時、ガツンと衝撃が走った。すぐさま暗記し、ときにはページを開いて文字を追いながら、どうしてこの言葉が自分を捉えて離さないのか、自分にとって必要だと思うのかと考えた。
「小説家としてもっと成長したくて、自分を変えよう変えようとあがいていました。ところが、書いても書いても、作品から自分の匂いがするんです。それは自分が成長できていないせいなのではないかと悩んでいました」
自身の小説の「変わらない部分」であり、「治らなかった部分」は、背負っている「業」のようなもの。そう気付いたとき、自分の在り方を許されたように、気持ちが軽くなった。
圧倒的なリアリティを持つ人物像、日常シーンと交差する人々の心情を丹念に描き出す作風をもとに、既存のジャンルに縛られず、自由闊達に書いた作品群。その着想の豊かさと読者層を限定しない間口の広さこそが、奥田さんの「治らなかった部分」であり、持ち味なのだ。ビートルズの楽曲然り、ルノアールの絵画然り、数多くのファンがその「業」に惹きつけられてきたように、奥田さんの本を手に取れば、その「業」を求めたくなる。
「今後、長編小説を書く力を手に入れたいと思っています。また、仕事や家族も大切ですが、大人であろうと、母親であろうと『遊ぶ』ことはとても大事だと思います。コロナ禍で遊びに行くことは難しいですが、友人とのたわいない会話で『遊びの時間』を楽しみたいと思っています」

取材・文/ひだい ますみ 写真/ご本人提供

PROFILE

小説家 奥田 亜希子

おくだ・あきこ
1983年、愛知県生まれ。愛知大学文学部哲学科卒業。2013年、『左目に映る星』で第37回すばる文学賞を受賞し小説家デビュー。『透明人間は204号室の夢を見る』(2015年、集英社)、『五つ星をつけてよ』(2016年、新潮社)、『リバース&リバース』(2017年、新潮社)、『クレイジー・フォー・ラビット』(2021年、朝日新聞出版)など著書多数。