金網製造の技術で新しいクリエイティブを
石川金網株式会社

匠の新世紀

石川金網株式会社
東京都荒川区

金属の折り紙「おりあみ」でつくった折り鶴。金属ならではの高級感があり、アートなオブジェのようだ。

大正時代創業の老舗金網メーカーが金属でできた“折り紙”を開発・発売し、アーティストや手芸愛好家から好評を得ている。
開発した石川金網株式会社を訪ねた。

大正時代創業の老舗が一般消費者向けの商品を開発

石川金網株式会社
代表取締役社長
石川幸男さん

東京・荒川区にある石川金網株式会社は、1922年(大正11年)創業の老舗の金網製造メーカーだ。その老舗が2015年に発売したのが、“金網で折る折り紙”「おりあみ」だ。布のようにしなやかな金網を使用し、紙で折るのと同様に、折り鶴などの折り紙作品のほか、コサージュやイヤリングなどのアクセサリーもつくることができる。
その開発の経緯について、同社代表取締役社長・石川幸男さんにお話を聞いた。
「当社が創業した当時は、ザルやふるいのような汎用品をつくっていたと聞きましたが、戦後は機械、電機、自動車、建築などの産業用のフィルターなどが中心です」
大量生産が必要な市販の汎用品ではなく、厨房メーカーや自動車関連企業、プラントエンジニアリング企業などから、図面で依頼を受け、それに対応する製品や試作品をつくり、納品する、いわゆるBtoB(Business to Business)のビジネスだ。長年、BtoBのビジネスを続けてきた同社がBtoC(Business to Consumer)の商品をつくった背景には、日本国内のビジネス環境の変化があったという。

ファストフード店などで使用される業務用フライヤーなどのザルもつくっている。
石川金網が得意とする自動車用やプラント用などのフィルター類。

産学連携のプロジェクトで様々なアイテムを開発

「おりあみ」には、素材により純銅、丹銅、ステンレスの種類があり、大きさは 15×15cm、18×18cmの2種類がある。

金網は、布を織るのと同じように糸状の金属をタテ糸とヨコ糸として、織り機を使って編み上げるが、その織り方は、平織、綾織、畳織など、一般的な繊維の布と同じく多様な織り方がある。同社では金網を織り、それを裁断し、加工を加えて、主に機械メーカーなどの取引先に出荷している。
具体的には、自動車のオイルから不純物を取り除くフィルターや、樹脂の押し出し成型の際に使用されるフィルター、プラントで使用されるフィルターなどが中心で、そのほかに厨房機械メーカー向けにフライヤー用のザルなども生産していると石川さんは語る。
さらに、同社では金網だけではなく、金属板に穴を開けたパンチングメタルや、金属板に切り込みを入れて変形させたエキスパンドメタルなどの製品も扱っており、こちらは主に建築業界などに出荷されている。ベランダに使用すると、風が吹いても大きな音が出ないパネルなどが同社が得意とする製品だ。
ところがこうした同社の得意分野の仕事が2000年代に入ると激減した。
「大きな影響があったのは、08年のリーマンショックと11年の東日本大震災の後ですね。その当時は、自動車用のフィルターをメインに製造していましたが、自動車部品のサプライチェーンが見直され、日本だけに集中するとリスクが高いということで、部品は工場のあるそれぞれのエリア内で生産するという動きが加速しました。それによって、当社が得意としていた自動車用フィルター類の多くが海外生産に移行し、日本国内での生産数が減少しました」
また、建築用のパンチングメタルも、デザインの流行がパンチングメタルからガラスに代わり、注文が減ってしまった。
この危機的状況に対応して、同社では、東京都が推奨する産学連携のデザインプロジェクトに参加。多摩美術大学と連携して、パンチングメタルを使った椅子など、同社の技術を活かしたいくつかの商品を開発した。パンチングメタルの椅子は、一定の評判を得たが、販路が見つからないことからうまくいかなかったという。
そうした中、商品化までこぎ着けたのが「おりあみ」だった。

「おりあみ」で折った馬。
殺菌機能がある純銅の「おりあみ」でつくるマスクの作成方法は同社ホームページで公開されている。
「おりあみ」でつくったイヤリングとコサージュ。
直径約90cmの汚水処理施設用フィルターも同社の製品。

職人の遊びを発展させ様々な素材で試行錯誤

もともと同社の職人さんの中に折り紙好きの人がいたことが、開発のきっかけだった。休み時間などに、余った金網を使って、折り鶴などをつくり、周りからの評判もよかった。だが、それは硬い金網で、ペンチなどを使って折るものだった。そこで針金の太さや材質を変更し、手で折れるようなものができないかと開発がスタート。試作品は、昔からの手動の機織り機を使って作成された。機械の機織り機よりも短い長さで製造でき、より安価に試作品をつくることができる。
「いまだに手動の機織り機を持っている金網メーカーは珍しいと思いますよ」
来年、創業100年を迎える老舗ならではの開発方法だった。
材質は、ステンレス、銅、真鍮、アルミニウム、チタニウムなど様々なものを使用。織り方や線の太さを変更し、数十種類の試作品をつくったという。
途中、おりがみアーティストの宮本眞理子さんや日本折紙協会と知り合い、その協力も得て開発を進めた。開発のポイントは、容易に折れることはもちろん、小学生でも安全であることだったという。製品化後には、手芸用品などを扱う「日本ホビーショー」などの展示会に出展したところ、大好評だった。

金網用の自動織機。
加工作業に適したサイズに裁断された金網。

世界展開も視野に普及を図る

「おりあみ」の特徴を石川さんは次のように語る。
「まず、紙のように折れること。布だと折れてもすぐにもとに戻りますが、『おりあみ』は形状記憶性能があるので、紙と同じように折れて、もとに戻りません。さらに紙よりも耐久性があり、半永久的に劣化しません。それから、透けて見えること。これは金網ならではの特性です。さらに金属ならではの高級感があること。丹銅、ステンレス、純銅などの素材のバリエーションがあり、カラーバリエーションも揃えました」
ミュージアムショップや大手量販店で販売を始めたが、現在はインターネットでの直販が中心になっている。
「売り上げ額自体は多くはないので、広告宣伝みたいなものだと思いますが、利益率は自動車部品よりもはるかに高い」
と笑う。
自社でワークショップを開催して、認知度を高める活動を行っているほか、16年には、「おりあみアートクラブ」という「おりあみ」の講習会や、指導者の養成を行う組織(同社とは別組織)もでき、全国への普及も図っている。
最近では、銅の殺菌効果に注目したマスクメーカーから注文があり、3社ほどにマスク用フィルターとして出荷しており、自社でのマスクの製品化も検討しているという。
折り紙は、日本の文化として世界でも知られているため、海外への普及も図っていきたいと、石川さんはこれからの展望についても語ってくれた。

型抜き用の金型。
プレス機を使って金網を型抜きする。
型抜きされた金網。枠をつけてフィルターが完成する。

取材・文/豊岡 昭彦 写真/斎藤 泉

PROFILE

石川金網株式会社

1922年(大正11年)創業の金網製造メーカー。厨房器具などの雑貨に始まり、自動車用部品、電機部品、航空部品まで対応。製織、縫製に始まり、熱処理、表面改質、表面処理、板金加工、プレス加工、機械加工、プラスチック成形などの加工技術を持つ。従業員数34名。