ハクモクレン 花の落ちる音(神奈川県藤沢市)
小島 なお

「音のソノリティ」を詠む

花びらがこころのように降ってくる春、なつかしくあたらしい春

歌人 小島 なお

たっ。たっ。したっ。白い花びらが1枚、また1枚。何枚も何枚も落ちてくる。水面のそこかしこに水紋が広がる。
神奈川県藤沢市。時宗総本山藤澤山無量光院清浄光寺(とうたくさんむりょうこういんしょうじょうこうじ)(通称遊行寺(ゆぎょうじ))には江戸時代から残る放生池(ほうじょうち)がある。毎年3月下旬から4月上旬に、池のほとりのハクモクレン(白木蓮)が見頃になるが、開花から数日すると花が散り、花びらが水面に触れる瞬間かすかな音を立てる。
5代将軍徳川綱吉の生類憐みの令で多くの人々が金魚を放したという池。ずっと昔から生き物たちの棲み処となっていたのだろう。今でもウグイスやエナガ、鯉や亀など、様々な動物が生息し生き生きとした姿を見せてくれる。風が吹くと大きな枝がしなやかに揺れて、花びらがいっせいに降る。すべて散り終わる頃には、本格的な春がやってくる。

※ 「音のソノリティ」第820回放映(ハクモクレン花の落ちる音)を観て詠んでいただいたものです。J-POWERグループは神奈川県横浜市で、磯子火力発電所を運営しています。

時宗は、鎌倉時代末期に興った浄土教の一宗派で、清浄光寺はその総本山。写真:tog/PIXTA

PROFILE

こじま なお

東京都出身。NHK Eテレ「NHK短歌」選者。2004年、角川短歌賞受賞。2007年、第一歌集『乱反射』により現代短歌新人賞、駿河梅花文学賞受賞。2020年4月、第三歌集『展開図』刊行。居合道三段。

音のソノリティ 世界でたった一つの音

J-POWERは、首都圏などで放送中のミニ枠テレビ番組「音のソノリティ~世界でたった一つの音~」を提供しています。「ソノリティ」とは、フランス語の音楽用語で「鳴り響き」の意味。日本の自然風景から、その場所でしか聞くことのできない音を紹介しています。

日本テレビ系列 毎週日曜日 20 :54 ~ など /BS日テレ 毎週水曜日 20 : 54 ~ (再放送)