コロナ禍における所得と消費のパラドクス

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総務省統計局が発表した「家計調査」によると、2020年の勤労者世帯における可処分所得について、“異変”が起きた。可処分所得とは、給与やボーナスなどの個人所得から、税金や社会保険料などを差し引いた残り、つまり自分の意思で自由に使える部分を指し、個人の購買力を知るための指標として捉えられている。日本人の勤労者世帯(2人以上世帯)の月あたりの可処分所得は、1997年の49.7万円をピークに低下傾向を続け、19年には47.7万になっていたが、20年に49.9万円と前年より2.2万円も増え、ピークだった97年を超えた。しかし、これは我々の生活実感とはあまりに乖離(かいり)している。なぜか。
原因は1人10万円の特別定額給付金にあった。1世帯の平均が3.3人なので、約33万円の給付金が世帯あたりの可処分所得を押し上げたわけだ。その分を差し引いて試算すると約47.1万円となり、前年割れする。ちなみに全世帯の家計消費支出は、19年29.3万円、20年27.8万円と減少しているので、給付金の多くが貯蓄に回されたと考えられる。
10万円の特別定額給付金は、経済対策としても社会福祉政策としても効果が限定的で、本当に生活に困っている人たちには十分に行き渡らなかったことを裏付けている。なぜなら生活困窮者により厚く配布することができれば、彼らの救いになると同時に、経済効果を上げることができたはずだからだ。
さらに細かく、どのような分野で家計消費が増減しているのかを見ていくと、様々なことがわかってくる。
00年と20年の比較で、増加した項目として目につくのが「通信」3,958円と「電気代」989円。通信はスマートフォンが普及した結果であり、電気代は原子力発電所が停止し、化石燃料の依存度が高くなったことが要因の一つとして考えられる。
逆に減少したのは「交際費」・「こづかい」合わせて▲2万8144円、「洋服」などの衣分野▲6,634円、「外食」▲2,783円、教育・娯楽関連の分野で▲1万5499円など。ひと言で言うなら、日本人の生活に余裕がなくなり、教育や娯楽にも金をかけず、この20年で学びが減ったとも言える。
日経平均株価が3万円を超えたから景気がいいなどと勘違いしてはいけない。日本社会は確実に貧困化しており、雇用者の約3割が年収200万円未満の貧困層になったという日本の現状を考えると、公正な富の再分配という視点からどのような政策が必要か、健全な資本主義はどうあるべきかなど、経済社会の在り方を再構築しなければならない。そのためにも、正確なデータとファクトに基づき、“世界を知る”ことが大切だ。
(2021年2月25日取材)

PROFILE

寺島 実郎
てらしま・じつろう

一般財団法人日本総合研究所会長、多摩大学学長。1947年、北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、三井物産株式会社入社。調査部、業務部を経て、ブルッキングス研究所(在ワシントンDC)に出向。その後、米国三井物産ワシントン事務所所長、三井物産戦略研究所所長、三井物産常務執行役員を歴任。主な著書に『日本再生の基軸 平成の晩鐘と令和の本質的課題』(2020年、岩波書店)、『戦後日本を生きた世代は何を残すべきか われらの持つべき視界と覚悟』(佐高信共著、2019年、河出書房新社)、『ジェロントロジー宣言―「知の再武装」で100歳人生を生き抜く』(2018年、NHK出版新書)など多数。メディア出演も多数。
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