伝統と革新の技術で高品質なタオルを世界に
株式会社藤高

匠の新世紀

株式会社藤高
愛媛県今治市

白いタオルを織っている織機をメンテナンスする社員。タテ糸の張りの調整なども経験と勘がものをいう世界だ。藤高には日本最多の70台の織機がある。

「今治タオル」で有名な今治市で現存する最古の老舗タオルメーカーにして日本最大級の生産力を誇る株式会社藤高を訪ねた。

伝統を受け継ぐ「今治タオル」の老舗

株式会社藤高 代表取締役社長 藤高豊文さん

愛媛県今治市は、日本最大のタオルの産地だ。今治には江戸時代から綿作と綿業があったが、1894年(明治27年)にタオルの生産技術が伝わると、糸を晒したり、製品を後洗いするのに適した軟水が豊富にあることなど、タオル生産に適した場所だったため、地場産業として定着。1920年(大正9年)に今治港の建設が始まり、その後四国初の開港場(外国の貿易船が出入りできる港)に指定されると、国内外への輸送が可能となり、日本有数のタオル産地へと成長した。
「今治タオルの特徴は、糸を先に色染めしてから織る『先染め』と、複雑な模様を織り込むことができる『ジャカード織り』です」
こう語るのは株式会社藤高代表取締役社長の藤高豊文さん。同社は1919年(大正8年)の創業。今年(2019年)、創業100年を迎え、今治に現存するタオルメーカーの中では最も長い歴史を誇る。創業以来、「技術の藤高」と呼ばれ、複雑な織りで高い技術力を持つが、伝統の技術を継承するだけでなく、他社も驚くような新技術を次々に開発してきた。高密度で豊かな色彩を表現できる「横織り」、ヨコ糸でタテ糸を隠す「上糸消去」、5色の糸を使い印刷のような表現ができる「五彩織り」などは、同社が特許を取得した優れた技術だ。
藤高さんは、「ものづくり企業であればどこでもやっていること」と謙遜するが、100年もの間、常に新しい技術に挑戦しつづけるのは、並大抵の努力ではない。
今治のタオル産業は、戦後は高度成長の波に乗って発展、60年代には大阪を抜いて、日本一のタオル産地になった。だが、90年代に主に中国から安価なタオルが輸入され、売り上げが急落してしまう。
この危機を脱するために、「今治タオル」という地域ブランドを立ち上げ、クリエイティブディレクターの佐藤可士和さんを起用し、ブランドマークを作成、この地域ブランドによって、奇跡の回復を見せたのは周知の通りだ。今や日本の高品質タオルといえば「今治タオル」と言われるまでになった。
実はこの時、四国タオル工業組合(現・今治タオル工業組合)の理事長として、「今治タオルプロジェクト」の采配を振ったのが藤高さんだ。2006年、理事長に就任した当時を振り返り、藤高さんが語る。
「比較的規模の大きい会社を中心に10社近くが中国に生産拠点を移しました。でも、私は『安さ』で勝負せず、今治タオルの『良さ』を強調することで中国に対抗できるのではないかと思い、『地域ブランド』を推進したのです」
それまでは、日本の消費者がタオル産地を気にかけることはほとんどなく、タオルメーカー側も多くが他社のOEM(相手先ブランド)として出荷していたため、産地を強調することはなかった。そこで、中国製品との品質の違いを明確にするために、吸水性、脱毛率、堅牢性などの試験に合格したものだけに「今治タオル」認定ネームを付けるという戦略を打ち出したのだ。組合員の中には、ロゴに1枚あたり5円かかることや、自社ブランドに上乗せするような地域ブランドに反対する会社もあったという。藤高さんは、「今治タオル」の良さを知ってもらうことに努めて、反対する組合員の説得にあたったと聞く。
藤高さんたちは、ロゴマークを許可する制度のほか、タオルについての正しい知識を身につけてもらうための「タオルソムリエ」などの資格制度をつくるなどの施策を行った。こうした「今治タオル」のブランド戦略は見事に成功。「今治タオル」のイメージを日本中の消費者に定着させることに成功した。

東京・銀座のGINZA SIXの南側に2018年にオープンした「FUJITAKA TOWEL GINZA」。ショップ限定のアイテムを販売する。
赤、青、黄、白、黒の5色(現在は6色)の糸で織る「五彩織り」の技術で織られたクリムトの「農家の庭」。2012年の「ものづくり日本大賞」を受賞。

第2フェーズで目指すのは「藤高ブランド」の浸透

「今治ブランド」の立ち上げから12年が過ぎ、藤高は昨年2月に東京・銀座に自社ビルを取得し、6月にはその1階に「藤高ブランド」のタオルショップをオープン、5階には法人用ショールームを開設した。その意図を藤高さんは宇宙開発になぞらえて、次のように話す。
「今治タオルプロジェクトのスタートから12年が経過、タオル組合の皆と一緒に成層圏まで来ました。ここまでが第1フェーズ。いよいよそれぞれの企業が成層圏を飛び出して、その先にどう進むかを各企業が決める第2フェーズに入ってきたと思います」
そして、銀座に直営ショップを開いた理由を「『藤高ブランド』を広く消費者や企業の方々に知ってもらうことにある」と語る。
「これまでは年数回の展示会で集客を図ってきましたが、これからは毎日お客様と直接コンタクトをすることができます。『今治タオル』という地域ブランドを前提に、『藤高』という名前をもっと広めたいと思います」
ショップでは、同社企画部が開発した、ここでしか買えないオリジナル製品を販売、「藤高ブランド」の浸透を目指す。
「銀座」という場所にあることにも大きな意味がある。同ショップは話題の複合ビル「GINZA SIX」の南側に位置し、外国人旅行者や外国人バイヤーが多く訪れる場所だ。藤高さんは明言しなかったが、その視線の先にはもちろん“世界”がある。「技術の藤高」が「世界の藤高」になる日はそこまで来ている。

染色の様子。先染めすることで多様なデザインのタオルを織ることができる。
タテ糸をタイコに巻き付けるために、クリールに数百本の糸をセットする。
タテ糸をタイコに巻き付ける様子。糸の張りを一定にすることがポイント。
小ロット生産に対応した「ワーパー」という機械。タテ糸を効率よく巻き付ける。
仕上げ段階で糊を抜くための洗い。

取材・文/豊岡 昭彦 写真/斎藤 泉

PROFILE

株式会社藤高

愛媛県今治市にある1919年(大正8年)創業のタオルメーカー。創業当初から「技術の藤高」と呼ばれた。日本最大級の生産量を誇り、「今治タオル」を牽引する老舗タオルメーカー。