22世紀に向けた日本の展望と技術力の重要性
寺島 実郎

Global Headline

2019年の年頭に、日本の将来を展望するにあたって、まず100年前の日本について触れておこう。
100年前、1919年は前年に終結した第1次世界大戦の講和会議がパリで開催された年だ。日本は同大戦で日英同盟を理由にドイツに宣戦布告、ドイツが中国・山東省に持っていた利権を獲得した。その後、日本は“遅れてきた帝国主義国家”として、中国に利権を求め、第2次世界大戦に突入、敗戦を迎えることになる。その後日本がこの挫折から立ち上がり、高度成長を成し遂げたのは周知の通り。まさに日本の20世紀はジェットコースターのような時代だったと言える。
一方、100年先の日本の未来を考える時に明白なことは人口の減少だ。日本の人口は、20世紀が始まる前年の1900年には約4,380万人だったが、2000年には約1億2,700万人と、100年間で約3倍になり、2100年には約6,000万人、現在の約半分になると予測されている。普通に考えれば、日本の国力は低減し、シュリンクしていくと考えがちだ。だが、こうした時にこそ、弱さを強さに変える“知恵”が必要となる。そのキーとなるのはこれまでに日本が培ってきた様々な「技術」であることは間違いないだろう。
例えば、私が先日上梓した「ジェロントロジー宣言」(NHK出版新書)で述べたように、単なる長寿社会を実現するのではなく、高齢者が生き生きと働き、社会に役立つような社会システムを再構築することができたならば、少子高齢化の先行モデルとして、そのノウハウを海外に発信していくことも可能だろう。
さらに、これからの世界的な人口爆発によって問題になると予想される水問題や再生可能エネルギーについても日本は貢献することができるはずだ。
国土が狭いために、水資源の多くをマレーシアからの輸入に頼っていたシンガポールが水の再処理や海水淡水化によって自給を可能としただけでなく、水ビジネスの分野で、世界をリードする立場になったことなども参考にすべきで、まさに弱さを強さに変えた好例といえる。ここで留意しておくべきことは、シンガポールの海水淡水化技術は日本が提供したものだということだ。技術は大切だが、技術を持っているだけではだめで、それを活かす構想力こそが大事なのだ。
これから人口が減少する日本は、中国をはじめとする、台頭するアジア諸国のエネルギーを吸収しながら、少ない人口でも世界に貢献する国になることができるはずだ。そのために、日本は技術力を磨くと同時に、未来にどのようなシナリオを描くのか。その構想力こそが問われているということを肝に銘じておきたい。
(2018年11月26日取材)

PROFILE

寺島 実郎
てらしま・じつろう

一般財団法人日本総合研究所会長、多摩大学学長。1947年、北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、三井物産株式会社入社。調査部、業務部を経て、ブルッキングス研究所(在ワシントンDC)に出向。その後、米国三井物産ワシントン事務所所長、三井物産戦略研究所所長、三井物産常務執行役員を歴任。主な著書に『日本再生の基軸 平成の晩鐘と令和の本質的課題』(2020年、岩波書店)、『戦後日本を生 きた世代は何を残すべきか われらの持つべき視界と覚悟』(佐高信共著、2019年、河出書房新社)、『ジェロントロジー宣言―「知の再武装」で100歳人生を生き抜く』(2018年、NHK出版新書)など多数。メディア出演も多数。