霧幻峡の渡し
小島 なお

「音のソノリティ」を詠む

只見川に櫓を差し入れて木舟ゆく まぼろしのように時間が過ぎた

歌人 小島 なお

コト、コト、ぎい、コト。川面に響くまろやかで柔らかい櫓(ろ)の音。
福島県奥会津を流れる只見川の峡谷、 霧幻峡(むげんきょう)。川沿いには三更(みふけ)と呼ばれる集落があり、かつて人々は櫓漕ぎの和船で対岸へ渡っていた。1964年、土砂崩れによって裏山が崩壊し廃村に。300年続いた渡し船も以降使われなくなっていたが、廃村集落の再生、観光振興のため約半世紀ぶりに復活。現在は毎年4月下旬から11月中旬まで運航している。
集落には大山祇(おおやまつみ)神社、子安観音、霧幻地蔵などが当時のまま残る。これらは長い歴史の中で数々の厄災を逃れたことから、そこに宿る霊力が訪れる人の願いをかなえてくれると伝わる。
朝夕の寒暖差が大きい夏の時期、あたりは川霧に包まれる。谷深く堆積する時間の嵩かさを和船はゆっくりと進んでゆく。

※ 「音のソノリティ」第650回放映(霧幻峡の渡し)を観て詠んでいただいたものです。

写真:大野 弘一/アフロ

霧幻峡は、風景が美しいだけでなく、パワースポットとしても人気が高い。J-POWERは福島県で田子倉発電所や下郷発電所などを運営しています。

PROFILE

こじま なお

東京都出身。2004年角川短歌賞受賞。2007年第一歌集「乱反射」により現代短歌新人賞、駿河梅花文学賞受賞。2011年第二歌集「サリンジャーは死んでしまった」刊行。居合道初段。

音のソノリティ 世界でたった一つの音

J-POWERは、首都圏などで放送中のミニ枠テレビ番組「音のソノリティ~世界でたった一つの音~」を提供しています。「ソノリティ」とは、フランス語の音楽用語で「鳴り響き」の意味。日本の自然風景から、その場所でしか聞くことのできない音を紹介しています。

日本テレビ系列 毎週日曜日 20 :54 ~ など /BS日テレ 毎週水曜日 20 : 54 ~ (再放送)