技術としくみで“捨てない未来”をつくる
日本環境設計株式会社

匠の新世紀

日本環境設計株式会社
東京都千代田区

衣類を回収するボックス。FUKU-FUKUプロジェクト(現、Bringプロジェクト)に協力する小売店の店頭に設置される。

日本で1年間に廃棄される衣類は100万トンを超える。
その9割以上を占めるコットンとポリエステルをリサイクルし、原料やエタノールに再資源化することができる。
この技術を持つ日本環境設計株式会社を訪ねた。

捨てられる衣類からエタノールや原料をつくる

日本環境設計株式会社取締役会長 岩元美智彦さん

「これまで資源小国といわれてきた日本は、資源大国になる可能性もあるんです」
そう語るのは、日本環境設計株式会社の創業者で、現在は同社会長の岩元美智彦さん。
同社は、「あらゆるものを循環させる」をビジョンに、着なくなった衣類を中心にリサイクルを行っている会社だ。
衣類のリサイクルでは、衣類の約6割に使用されているポリエステル繊維をポリエステルの原料に戻す技術と、衣類の約3割に使用されているコットンからバイオエタノールをつくり出す技術を持つ。つまり、同社の技術を活用すれば、衣類の約9割をリサイクルすることが可能なのだ。
日本環境設計は、2007年に岩元さんと現在社長を務める髙尾正樹さんが繊維のリサイクルを目的に立ち上げた会社だ。
きっかけは、岩元さんが新聞でトウモロコシからバイオエタノールを精製したという記事を目にしたこと。トウモロコシからバイオエタノールができるなら、同じセルロースを主成分とするコットンからもできるのではないか。当時大学院生だった髙尾さんに相談すると、トウモロコシやサトウキビからつくる方法が一般的なこともあり、コットンからエタノールをつくる方法を「オモロイ」と言って研究がスタートしたという。岩元さんは繊維商社に勤務した経験から、多くの衣類が廃棄されることに胸を痛めていた。コットンからエタノールをつくる可能性にかけて、2人は資本金120万円で会社を設立、大阪大学などの協力を得ながら、08年には、コットンからバイオエタノールをつくる技術開発に成功。
さらに17年、同社は衣類に含まれるポリエステル繊維をケミカルリサイクルにより石油由来と同品質の再生ポリエステルをつくる工場を完成させた。

2015年10月21日、デロリアンに乗り込んだ岩元美智彦さん。
リサイクルポリエステルの生産工場(福岡県北九州市)。

小売店と協力し衣類回収のしくみも

こうしたリサイクルの技術自体も素晴らしいことだが、同社がすごいのは、技術を開発しただけでは終わらず、衣類を回収する“しくみ”を同時につくりあげてしまったことだ。リサイクル事業で最も難しいのは「回収であることはよく言われること。岩元さんは衣類をリサイクルする「FUKU-FUKUプロジェクト(現BRINGプロジェクト)」を立ち上げ、無印良品を展開する良品計画をはじめ、イオンリテール、パタゴニア、大丸・松坂屋など、複数の企業を巻き込んで、店頭に回収ボックスを置き、消費者から衣類を回収するしくみをつくったのだ。
「消費者調査で古着を持っていくのにどこがいいかを調べると、購入したショップが一番でした。さらに、回収ボックスを設置したショップでは、来客数が約4%増加したことがわかったのです。これはショップにとって非常に大きな効果です。ショップは消費者に対し、資源を大切にする企業というイメージを与えるとともに来客数を増やすことができ、消費者も愛着のある衣類を捨てることなく、それがリサイクルされ、地球資源を節約することになるならと積極的に協力してくれます」
こうして日本環境設計は、古着を資源として再利用できるしくみをつくりあげることに成功したのだ。

綿繊維を糖化する過程。左は糖化前。
糖化槽に衣類を入れたところ。
糖化槽の中で、コットンのセルロースがグルコースに変化する。
衣類がエタノールになった状態。

志が共感を呼び 人を動かす

2015年10月21日、日本環境設計は「デロリアン走行プロジェクト」を行った。これは1989年公開の映画「バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2」のあるシーンを再現したもの。デロリアンにごみを入れると、それが燃料に変わり、デロリアンが走り出して、未来にタイムスリップすることができるのだが、訪れた未来こそこの日だったのだ。
「エタノールでデロリアンを走らせるのが起業した時からの夢でした。イベントが実現できるか不安でしたが、米国のユニバーサル本社に直接電話したところ、話にのってくれました」
このイベントには、海外のメディアも駆けつけ、世界的なニュースとなった。結果的に、同社の技術は世界中が知るところとなり、海外からの問い合わせが相次いだという。
「環境保護というと難しい話になりがちですが、私は楽しくやりたい。楽しくないと消費者はついて来ないし、長続きしません」
岩元さんは、プロジェクトの拡大は、その技術力と回収のしくみにあると語る。しかし、岩元さんの、ごみを減らし、地球環境を守りたいという“志”こそが多くの人の共感を呼び、研究者をはじめ、消費者や小売店を動かし、映画会社さえも動かして、大きなムーブメントをつくりあげたのかもしれない。
岩元さんは言う。
「我々は、着なくなって処分される衣類などを『地上資源』と呼んでいます。この地上資源を活用すれば、多くの戦争や紛争の一因でもある石油などの地下資源を使わなくとも服がつくれるようになります。つまり、衣類のリサイクルは、戦争のない、平和な世界にもつながっているんです」

同社の工場でリサイクルした「BRING」Tシャツ。
ポリエステル繊維をリサイクルしてつくった再生ポリエステルペレット。

取材・文/豊岡 昭彦 写真/吉田 敬

PROFILE

日本環境設計株式会社

衣類、携帯電話などのリサイクル企業。2007年創業。携帯電話の回収は、NTTドコモと提携し、約6割のシェアを持つ。