「ドローン革命」が都市と暮らしを変える
泉 岳樹

Opinion File

数々の災害調査出動について熱弁を振るう泉さん。ドローン活用の可能性を切り開いてきた自信がこもる。

ドローンを携えて急ぎ豪雨災害現場へ!

西日本豪雨による被害の拡大が報道されていた今年7月7日の夜半、泉さんの携帯電話に着信があった。電話の主は、草津白根の噴火災害時にともに活動した現役消防官。広島市安芸区矢野東に住む消防団員の知人からSOSが入っているという。現場では降り続く雨が救助部隊の行く手を遮り、いつ二次災害が起きるとも知れない中、手探りの捜索活動が続いているという。一刻も早く調査を頼めないか、というのが用件だった。
「すぐ行きます」
迷う暇もなくそう答え、翌早朝、東京発の新幹線に飛び乗り広島を目指した。大きなリュックには、上空から災害現場の精緻な画像データを撮影するUAV(無人飛行機)、いわゆるドローン(※1)が収めてある。他の手荷物は必要最少限に。被災地への出動時はこのスタイルが常だった。
「発災直後の現場は混乱を極めています。沢筋に沿って土砂や流木が押し寄せて下流に堆積、そこに流失家屋や車両なども重なって元の地形や街並みが一変してしまうことが珍しくありません。そうなると既存の市街図や地形図をあてにできず、消防、警察、自衛隊などによる捜索救助に支障をきたすだけでなく、二次災害の予測もつけにくいのです」
ドローンを用いた災害調査に精通し、2014年8月に同じ広島市で起きた豪雨災害時にも防災対策本部の要請で出動した泉さん。現地到着後、すぐに役所や現地本部との調整を行い、直ちにドローンを飛ばす。この際に重要なのが単なる鳥瞰写真や動画を撮るのではなく、真下を撮影した写真を重なりをもたせて大量に取得することだ。その画像データをクラウド上のコンピューターに送って即座に解析。空撮した無数の直下視画像をコンピューター上で処理し、広範で隅々まで歪みのない地図写真データ(オルソ画像)(※2)や、地上の構造物などの高さや奥行きまでわかる「3Dモデル」(※3)に加工。それらの作業を現場で一気に進める。
「特に、地図と重ね合わせられるオルソ画像を印刷したものは現場で作業する人だけでなく、指揮を執る人たちにも大変に喜ばれます。実際、8日の夕方にはドローンで撮影したデータに基づき、矢野東地区を孤立化させていた県道上を流れる激流の原因を特定し、自衛隊と地元建設会社の協力を得て夜半には、孤立状態をほぼ解消させました。翌朝午前6時には現地本部に赴き、ほぼ徹夜で作成し印刷したオルソ画像を配布し、消防、警察、自衛隊の救助隊に不明者がいる可能性が高い土砂堆積物や損壊住宅の位置を具体的に提供し、救助活動に大変役立つと感謝されました。大切なのはスピード感と情報提供の仕方であり、ドローンが有効活用できれば、要救助者の救助に役立つだけでなく救助者の安全もより高い次元で担保できます」

現場の声に気付かされたドローンの新たな使命

泉さんがドローンに興味を引かれたきっかけは、東日本大震災後のある経験だった。
学生時代に都市計画を学んだ者として、被災地の復興事業に是が非でも関わりたいとの思いを強くしていた矢先、住宅再開発問題や四川大地震の復興計画などで共同研究を重ねてきた石川幹子東大教授(現・中央大学教授)から「復興計画づくりに手を貸してほしい」と声が掛かり、二つ返事で応じたのだった。
「先生の出身地でもある宮城県岩沼市の防災集団移転事業を推進するために、被災現場の空中写真や衛星画像などを収集・解析し、復興計画の基礎データとして提供することが私の役目でした。地理情報システム(GIS)を研究課題の1つにしていたこともあり、当時はまだ趣味で飛ばす機材にすぎなかったドローンを、GISの一翼を担える本格仕様に改良し、被災地に実践投入しようと決意したわけです」
こうと決めたら動きは早い。12年3月、ドローンの初号機が手元に届くや、翌月には現地で空撮を始めた。自分ではあくまでデータ取得装置のつもりでドローンを持ち込んだのだが、デモフライトの様子を見ていた地元消防団の関係者の反応は予想だにしないものだった。
「空撮を終えたら、その機械を置いていってくれないかと言われました。理由を尋ねると、震災で津波に襲われた際、自分たちが火の見櫓に登らなかったために事の重大さがわからなかった。これを飛ばして上空から監視していれば、いち早く初動がとれて津波被害を軽減できただろうと。つまり、ドローンが『空飛ぶ火の見櫓』になり得るという、現場ならではの視点を教えてもらったのです」
申し出の理由はもう1つあり、それが泉さんの胸を突いた。曰く、ドローンが被災者の救援に直接的に役立つのではないかと。津波に流され、冠水した現場では捜索救助もままならず、夜間だと暗闇の中近づくリスクを負えないケースもある。あらかじめ上空からの探索で被災者の居場所が特定できれば、リスクを軽減し、救助できる確率が高まる。だから、この機械を置いていってくれないかと……。
「現場の生の声に接して私の目からウロコが落ちました。人命を守り、救助の役に立つというドローンの新たな可能性に気付かされたのです。これを契機に私はドローンにのめり込み、画期的なドローンを生み出すパートナー企業に巡り合うこともできました」

今年7月の西日本豪雨で被災した広島市安芸区矢野東地区を写した画像(7月8日取得)の3Dモデル。
ネパール大地震後の災害調査で活躍した高高度用の特別仕様機。標高5,500mでの写真測量は世界初とされる。

多岐にわたる研究・実践を持続可能社会の基盤に

今や日本の産業用ドローン製造を牽引する株式会社プロドローンやその前身であった株式会社ケイアンドエスの協力も得て、泉さんは自ら希望する性能・仕様の新機種を次々に開発。14年3月にフルカーボンのドローン(K4-R)を手にすると、この年に日本各地で相次いだ大規模災害の現場へ足を運んだ。7月は長野県南木曽町の土砂災害、8月は前述した広島市の土砂災害、9月は長野県王滝村の火山災害、11月は長野県白馬村の地震災害と、息つく間もなく出動して飛行実績を重ねた。そして、災害調査に特化した新型ドローンも期待通りのパフォーマンスを発揮した。
「特に印象深かったのは15年春に起きたネパール大地震の災害調査を引き受け、標高3,500~5,500mという高高度での写真測量飛行に成功したことです。気圧が平地の半分程度の高地でドローンを飛ばすには、機体の総重量を抑えつつ高出力モーターを搭載するなど根本から設計を見直す必要があります。さらに、山岳地帯の厳しい気象条件下での操縦には技量の熟達と、刻々と変わる気流を読みこなす知識が求められます」
泉さんの研究分野は都市工学、都市気候学、地理情報科学など多岐にわたる。学生時代から山登りをこよなく愛し、在学中に自ら立ち上げた東京大学初の環境NPO「環境三四郎」をベースにした活動は今も継続中だ。一見すると、これらの興味関心や問題意識、趣味嗜好は統一性に欠けるようだが、進境著しいドローン技術への傾倒も含めてご自身の中では首尾一貫しているという。
「これまで取り組んできた様々な領域での研究や実践は、その1つひとつが私の思い描く持続可能な社会の基盤となるものです。それらを統合して、人類が地球上で生き延びていくための社会変革を起こすことが研究者としての務めと考えています。私が究極的に目指すのは、技術を通して都市計画、国の在り方が根底から変わっていくような人々の住まい方、都市の有り様を見出していくこと。ドローンはその突破口になると考えています」

ドローンは社会を変えるのか?

誕生から日の浅いドローンは、遊びや空撮のために飛ばす段階から、被災地支援や物流ビジネスなどへの応用を経て、この先、サステナブルな社会変革をもたらす大役を担っていくのだろうか。
「私はそう信じています。都市計画において重要なのは『人・モノの移動』です。現状は自動車と鉄道が移動手段の大半を担っている。その一部か大部分を、3次元空間を自由に往来できるドローンが肩代わりするとなれば、都市の有り様や人々の住まい方の条件が根底から覆ります」
それを「ドローン革命」と呼ぶとするなら、都市とそこに住まう人のライフスタイルはど う変容するのか。
「首都直下型地震を含め、日本の大都市は集住のメリットよりデメリットが既に上回っています。ドローンは分散居住を実現する中核技術になると考えます。分散型電源などもその支えになるし、ドローンにより『人・モノの移動』が今より自由になります。道路や線路などの2次元のインフラを維持するよりも、ドローンを飛ばすための3次元インフラをつくった方が遥かに利便性が高く、建設・維持コストも低廉で済むはずです」
人やモノを乗せて走るクルマが、軽やかに宙に浮いて街中を行き交うシーンを現実感をもって受け止めるには戸惑いもあるが……。
「日本ではあまり報道されませんが、ドローンの乗用車版である『パッセンジャードローン』(※4)は、すでに中国や欧米諸国で機体開発から実証飛行試験などが盛んに行われ、社会実装も近いと見られています。人間、空を飛ぶのは容易ではないとの思い込みが強く、機動性や安全性に疑義を挟みたくなる気持ちもわかります。しかし、自動運転では、自動車よりもドローン導入の方が実現へのハードルは低い。種々雑多な障害物を避ける必要があり、渋滞も多い自動車と、障害物が限定され衝突回避の容易なドローンと、どちらの自由度が高いかは明白です」
ドローンの開発競争で、日本は致命的な後れをとっているとの報道もある。
「軍需ベースで先陣を切った米国と、民需ベースで追い上げる中国が覇権を争っています。残念ながら技術開発の主戦場で日本が失地を回復するのは困難で、特定の分野に絞り込み、日本人特有のきめ細かさが活きるものに特化して『世界一』を目指せばいい。それが私の場合は災害調査における実践であり、山岳救助などへの応用にも挑戦しています。極限の現場で使用できるドローンの開発や運用術を突破口にドローンで日本が主導権を握るチャンスはまだ残っていると考えています」
「空の産業革命」ともいわれる「ドローン革命」が社会に何をもたらすのか、これからも目が離せない。

取材・文/内田 孝 写真/竹見 脩吾

御嶽山噴火災害時に頂上付近の捜索を行うためのテストフライトをするドローン。
自衛隊ヘリとの交錯を避けるための調整に向かった王滝村の松原スポーツ公園にて。

KEYWORD

  1. ※1UAV、いわゆるドローン
    UAV(Unmanned Aerial Vehicle)は無人飛行機を英語表記する際の正式な呼称。ドローンは俗称で、マルチコプターという呼び名もよく使われる。
  2. ※2オルソ画像
    空撮写真は標高などの影響で画像に歪みが生じる。このため実際の地形や位置関係を正確に把握するために正射投影による補正をかけたものがオルソ画像である。
  3. ※33Dモデル
    オルソ画像の作成過程で3D化の処理を加えると得られる地図写真データのこと。山河の起伏やくぼみ、地上の構造物などが立体的に把握できる。
  4. ※4パッセンジャードローン
    自動航行が可能な小型有人飛行機のこと。無人のドローンを乗用車程度の大きさに拡張し、2~4人乗りで飛び回れる試作機での実証試験が行われている。

PROFILE

泉 岳樹
首都大学東京
大学院都市環境科学研究科
地理環境学域 助教

いずみ・たけき
1972年、京都府生まれ。東京大学工学部都市工学科卒業。同大学院工学系研究科都市工学専攻修士課程・博士課程修了。博士(工学)。東京都立大学大学院理学研究科助手などを経て現職。専門は地理情報科学、都市気候学。数値気象モデルなどの研究に取り組みつつ、環境調査にドローンを活用する手法を編み出す。東日本大震災をきっかけにドローンを用いた災害調査に乗り出し、産業用ドローンの先駆者プロドローン社とともに、高性能レーザースキャナーなどを搭載した特殊機材を開発。近年多発する自然災害の被災地に赴いて調査・支援活動などに精力的に携わっている。マルチコプター安全運用委員会事務局長。日本山岳救助隊技術アドバイザー。