鬼首の噴気(宮城県大崎市)
小島 なお

「音のソノリティ」を詠む

斬られてもまた噴きあがる湯の首を声を持たない木々が囲めり

歌人 小島 なお

コボコボコボコボ。バオー。岩肌から湯の湧き出す音に混じって、ときに勢いよく噴きあがる間欠泉の音が聞こえる。

宮城県大崎市鳴子温泉郷。鬼首(おにこうべ)と呼ばれるこの一帯では、地下のマグマによって熱せられた100℃近い湯が川沿いを中心に無数に湧き出している。間欠泉は約15分毎に高さ15~20mも噴出する。

鬼首の地名は、坂上田村麻呂が789年(延暦8年)の蝦夷征討(えみしせいとう)で大武丸(おおたけまる)を斬首した際に、その首が飛んできた地という伝説に由来する。大武丸は鬼あるいは蝦夷の首領だったという。

地下深くからとめどなく湧き出す湯の熱を静かに取り囲む木々。この木々は長い歳月のなかで大武丸の最期を見ただろうか。無念の声を聞いただろうか。盛りあがる湯の塊は、鬼の首が今まさにそこから飛びだそうとしているかのような迫力がある。

※「音のソノリティ」第1000回放映(鬼首の噴気)を観て詠んでいただいたものです。J-POWERグループは、宮城県で鬼首地熱発電所を運営しています。

鬼首温泉郷にある地獄谷遊歩道周辺では、そこかしこでお湯が湧き出している。
写真:河口信雄/アフロ

PROFILE

こじま なお

東京都出身。2004年、角川短歌賞受賞。2007年、第一歌集『乱反射』により現代短歌新人賞、駿河梅花文学賞受賞。2020年4月、第三歌集『展開図』刊行。居合道三段。

音のソノリティ 世界でたった一つの音

J-POWER は、首都圏などで放送中のミニ枠テレビ番組「音のソノリティ~世界でたった一つの音~」を提供しています。「ソノリティ」とは、フランス語の音楽用語で「鳴り響き」の意味。日本の自然風景から、その場所でしか聞くことのできない音を紹介しています。

日本テレビ系列 毎週日曜日 20 :54 ~ など /BS日テレ 毎週水曜日 22 : 27 ~ (再放送)