特別座談会
只見町で巡り合った女性管理職トーク

魅力いっぱいの只見町にぜひお越しください!

座談会メンバー(左から吉津 なおみさん、吉津 瑞穂さん、栗﨑 夏代子所長)

2023年4月より、福島県只見町にある田子倉電力所にJ-POWER初の女性の電力所長が勤務している。只見町で知り合った只見町役場の女性管理職2人とともに、只見町の魅力や女性活躍について特別座談会を開催した。

ブナりん

©tadami
只見町公式キャラクター ブナりん

  でんき犬

J-POWERグループ
公式アンバサダー でんき犬

只見町の魅力、好きなところを教えてください。

栗﨑 夏代子所長(以下 夏代子)

私は2023年4月に只見町に赴任してきて、自然の美しさ、凝縮された季節の移り変わりに魅了されています。また、日々暮らす中で自然が生活にとても近いと感じています。最初に只見町がどんなところか、ご紹介いただけませんか。

吉津 瑞穂さん(以下 瑞穂)

只見町は福島県の西南部にあり、新潟県に接した山間部にあります。周囲を1,000m級の山々に囲まれ、只見川や伊南川の清らかな流れと、天然のブナ林に代表される豊かな森林資源に恵まれています。人口は約4,000人。日本有数の豪雪地帯で、積雪は4m近くになることもあります。この水資源を活用するために、明治以降只見川には多くのダムと発電所が建設されましたが、中でも最大級のものが、J-POWERが只見町につくった田子倉ダム・発電所で、1959年に運転を開始しました。その建設の際に資材を運ぶためにつくられた鉄道が只見線で、その後国鉄に移管され(現在はJR東日本)、「日本屈指の秘境線」などと呼ばれ、四季折々の沿線の風景が話題となり、国内外から多くの観光客が来てくれるようになりました。11月になると日が短くなって、もうすぐ雪が降るなと憂鬱になります。年が明けて、3月に雪解けが始まると、春の訪れを感じうれしくなります。5月は新緑が美しく農作業が始まり、連休もある。私は5月が一番よい季節だと思います。夏はうるさいくらいの蝉の声がして、ビールも美味しい。秋は紅葉、そして雪の季節が近づいてくる。毎年この繰り返しです。

吉津 なおみさん(以下 なおみ)

私も、只見町の魅力は、四季の移り変わりがはっきりしていることだと思います。四季の景観を体感するために只見町に観光に来られる方がたくさんいます。特に秋は、例年10月中旬に紅葉のピークを迎え、多くの観光客が訪れます。只見町ではそれに合わせて、水の郷うまいもんまつりや駅伝大会などを開催しています。2023年のうまいもんまつりは、只見線全線運転再開1周年記念イベント(編集注:2011年7月の豪雨により、会津坂下駅―小出駅間が不通に。その後、2022年10月に全線が開通、運転を再開した)と同時開催だったので、大変盛況でした。
J-POWERの方々には、いつも催し物に協力いただき、盛り上げていただいています。2023年の駅伝大会には2チームも参加してくださり、本当にありがたかったです。

夏代子

私は、自然と共生してきた人々の生活、その歴史も只見町の魅力だと思います。

瑞穂

1980年代ごろまでは、今より自然と人との共生が普通にできていました。山から薪を集めて煮炊きや暖を取るのに使い、山菜や栗、クルミ、キノコなどもよく採ったりしましたね。山の多くは集落の共有林で、ルールを決めて利活用しています。山は集落にとって大切な財産ですし、集落の皆のもの、共有財産という意識があります。アケビやマタタビの蔓でザルやカゴを編んだり、柴木を畑で支柱に使ったりと山の恵は無駄なく活用していました。今でも山菜採りやキノコ採りに行く人はいます。梅や桃、柿を植えて、梅干しや干し柿は多くの家庭でつくっていますね。

なおみ

山や川が身近な存在で、子どもたちの遊び場でもありましたね。山で桑の実を採って食べたり、山野草で飾りをつくったり、川で水遊びをしていました。

夏代子

只見町には「水の郷」とか「自然首都」とかいろいろな呼び名がありますね。

瑞穂

「水の郷」は、1996年に国土庁が水を活かした町づくりで成果をあげている107地域を「水の郷百選」として認定し、只見町はその一つに選ばれました。町内にある5つのダム・発電所でクリーンエネルギーを供給していることや、ダムの湖面や景観を活かしたまちづくりについて評価されました。

夏代子

水力発電について評価されていたことはとてもうれしいですね。実は2023年9月に、田子倉ダムを含む只見川の9つのダムが「只見川ダム施設群」として「土木学会選奨土木遺産」に認定されました。豪雪地帯の水資源と地形を巧みに利用したダム・電源開発等の河川史や地域資産として貴重な土木遺産群であることが認定理由です。

瑞穂

それはすばらしいことですね。只見町のもう一つの呼び方である「自然首都」は、只見の自然に価値があることがわかってきて、その自然環境を受け入れて、伝統的な生活・文化を守りながら地域の発展を目指そうという考えに変わってきたことで「只見町が日本の自然の中心」という思いを込めて、2007年に「自然首都・只見」を宣言しました。只見の自然、主にブナ林が世界遺産級であることを教えてくれたのは植物学者の故河野昭一先生です。河野先生は、只見のブナは遺伝子の多様性があり、残すべき価値のある自然だと教えてくださいました。それまではブナは利用価値が低いということで伐採されてきた時期もあったんです。
自然首都の宣言と同時期に「只見町ブナセンター」を発足させました。その目的は只見地域の豊かな自然環境、野生動植物を保護・保全し、次世代に引き継ぐことや、只見の自然環境と深く結びついた住民の伝統的な生活・文化を調査研究し、実態を明らかにすることなどです。こうした様々な活動が実り、2014年には只見町が「只見ユネスコエコパーク」として登録されました。

なおみ

只見町の小学校では、ユネスコエコパークの豊かな自然に親しみながら、その自然と共生してきた先人の暮らしについて学び、只見町の課題から未来を考え、実践していく学習を展開しています。また、中学校では、自分たちで考えたプロジェクトを実際に進めています。人と自然を大切にし、ESD(持続可能な社会を実現していくことを目指す教育)を通して只見町の子どもたちが町を支える人材となって、只見町を元気な町にしていってくれたらと思っています。

「会津のマッターホルン」と呼ばれる蒲生岳と只見川。

秋にはススキが美しく茂る。

只見線の列車(写真提供:只見町)。

只見町には「只見線に手を振ろう条例」がある。

只見町ブナセンターでは、只見地域の豊かな自然環境と、住民の伝統的な生活・文化について知ることができる(写真提供:只見町)。

女性の管理職として思うことは?

夏代子

社内外の方々に「女性初の電力所長」といわれますが、私は土木職(ダムなどの土木構造物の設計や保守管理などを行う職種)で最年長のため、どのような役についても「女性初」となるのかなと思っています。人にはそれぞれ個性がありますが、性別も個性の一つだと思います。男性も女性も皆が自分の個性・長所を活かし、のびのび働けることが理想で、そのような職場、組織にできればと考え、取り組んでいます。

瑞穂

私自身は、仕事をする上で性別を意識したことはないのですが、周りはきっとたくさん配慮してくれていたと思います。生意気なことも散々言ってきましたし、女性だから許されていた面もあったと思いますね。私には子どもが3人いるんですけれども、女性には妊娠、出産といったライフイベントがあります。私は、これらのライフイベントで得た経験は仕事にも活きていると考えています。視野も広がりましたし、我慢強くもなりました。状況をマイナスに捉えることなく、お互いを認め合い、適材適所で活躍できる場所をつくっていきたいと思っています。多様性を高める意味でも女性管理職が増えることは望ましいことですね。

なおみ

役場に就職した当初は、家庭と仕事を両立し、出産後は育児と仕事もきちんとしなければならないと思っていましたが、子どもが増えていくにつれ、仕事に不安を感じるようになってきました。そんな時、周りの職場の皆さんが率先してサポートしてくれて、育児期を乗り切ることができました。助け合う場面がある組織は、女性も男性も働きやすい職場であると感じました。
課長職になった4月当初は、不安で押しつぶされそうになりながら右往左往していましたが、職場内の風通しを良くするために、積極的に声をかけコミュニケーションをとることを心がけています。女性管理職だからといって、仕事を一人で抱えこまずに、女性からの視点での課題や改善策を周囲や上司に伝えていくことも大切なことだと思っています。

夏代子

私はタイ国に赴任していたことがありますが、タイ国では女性も色々な立場で普通に働いていましたし、女性を応援する風土もありました。私自身は若い人を男性も女性も関係なく応援していますが、女性を見かけると「がんばれ!」と心の中でエールを送っている自分もいます。職場に女性が少ないことによる苦労が色々あるかと思うので。日本も、女性活躍でも男性活躍でもなく、皆が長所を活かして活躍することが当たり前になるとよいと思います。

只見町のブナ林(写真提供:只見町)。

ダム下の広場から見上げる田子倉ダム。

田子倉ダム上流部。田子倉ダムは重力式コンクリートダムで、高さは145m。

2023年のうまいもんまつりの一コマ。J-POWER社員と町の方がいっしょに御神輿を担いだ。

水力発電について学べる只見展示館。

只見町とJ-POWERの関係についてどう思っていますか。

瑞穂

J-POWERの田子倉ダムには、子どものころから何度も遊びに行っていて、遊覧船に乗るのも好きでしたね。それに、只見町の観光の目玉になっている只見線はもともと、J-POWERがつくった鉄道ですから、そういう意味では現在の只見線人気もJ-POWERのおかげとも言えます。
ただ、私はダムが完成してから生まれたこともあり、建設当時の状況はよくわからないのですが、ダム建設に伴って移転した方や町を出ていった方のことを考えると、かなりの葛藤があっただろうと想像します。当時の多くの方々の思いが、ダムという形になり、それがエネルギーを生み出し、日本を支えているという事実は後世に伝えていかなければならないと思っています。現代は、電気がなければ生活ができない環境になりました。その電気を、安定的に供給していただいているので、当時の多くの人たちの判断は間違っていなかったんだろうなと思っています。

なおみ

今現在、J-POWERの職員の皆さんは、全国各地から赴任されています。この只見の豪雪の中でも、昼夜問わず人々の生活を守るために作業してくださっている職員の方がいるおかげで、皆が生活できていることに感謝しています。電力供給以外にも、J-POWER田子倉電力所の皆さんは、様々な町のイベントに積極的に参加していただき、盛り上げてくださっています。また、「水とエネルギー」をテーマとしたJ-POWER只見展示館は、VRシステムを利用した水力発電の仕組みなども学習できる場となっています。子どもから大人まで最先端のシステムを体験できる環境を整えていただいていることにも感謝したいと思います。
只見町の子どもたちも町の課題から未来を考え、自分たちのできることを実践する取り組みや自分たちで考えたプロジェクトを実践しているので、ぜひ町と連携して子どもたちの未来を切り拓く力を育成していただけたらうれしいです。

夏代子

ぜひ一緒に取り組ませていただきたいです。ところで、J-POWERの社員は地域社会の一員として皆同じ心構えで勤務しているつもりですが、数年で転勤してしまうことも少なくありません。それについてはどう思いますか。

瑞穂

社員の方の異動はやむを得ないことだと思います。中には遠くに引っ越したあとでわざわざ遊びに来てくれる方もいますし、短い間でも地域の一員になっていただくことは、只見町にとって非常に有意義なことだと思っています。只見町は、少子高齢化、人口減少、過疎化といった課題が山積みですが、J-POWERの方々と協力しながら関係人口の増大を図っていけたらと思います。コロナ禍になる前は、町内の居酒屋などでJ-POWERの人と遭遇することも多くて、一緒に盛り上がって楽しかった思い出もあります。

なおみ

ご家族で赴任されてきた方々には、町の子育て支援にも参画していただいています。子どもクラブのスタッフとして活動していただくことで、絆を深めていただき、転出後の現在も町の人との親交がある方もいらっしゃいます。2022年の春、県立只見高校野球部が21世紀枠で甲子園の選抜高校野球大会に出場したのですが、只見から異動され、次の赴任地の北海道から甲子園球場までわざわざ応援に来てくださった方がいらして、本当にうれしく思いました。J-POWERは地域に根ざした企業だと感じています。

夏代子

そう言っていただけると本当にうれしいです。本日はありがとうございました。

民宿「ふる里」に吊るされた干し柿。

収穫した青大豆を枡で量る民宿「ふる里」のご主人。

2月の雪まつりで披露された郷土芸能(小川早乙女踊り)。(写真提供:只見町)。

雪まつりで打ち上げられた花火と只見線を模した雪像に投影されたプロジェクションマッピング。(写真提供:只見町)

J-POWERは毎年入場門の制作を担当している。(写真提供:只見町)

構成・文/豊岡 昭彦 写真/竹見 脩吾

夏代子

J-POWER田子倉電力所

栗﨑 夏代子所長

1995年にJ-POWERへ入社。以来、水力、火力、原子力、風力の電源開発に従事。現場機関では、徳島県阿南市橘湾火力発電所、タイ国ガス火力発電所の建設を担当。2023年4月より現職。


なおみ

只見町教育委員会 教育次長

吉津 なおみさん

1995年に只見町役場に入職。税務課、企画課、産業観光課、総務課、産業振興課、教育委員会、総務課に勤務。2023年4月より現職。4児の母。


瑞穂

只見町役場 保健福祉課長 保健福祉センター所長

吉津 瑞穂さん

大学卒業後、民間企業に就職。1998年に只見町役場に入職。以来、振興センター、総務企画課、教育委員会、産業振興課、保健福祉課、地域創生課に勤務。只見町朝日診療所事務長を経て、2023年4月より現職。3児の母。


「第51回只見ふるさとの雪まつり」(前夜祭・本祭)は、2024年2月9~11日に開催予定です。