幸せ度を上げる刺繍の時間を
千葉 美波子

Venus Talk

刺繍家 千葉 美波子

「刺繍の文化がない民族はないと言われるほど、その歴史は深いもの。魔よけの意味もあり、人は潜在的に刺繍を好むのかも」と千葉さん。

定番の動物や植物はもちろん、怪獣などユニークな絵柄の刺繍で注目されている刺繍家・千葉美波子さん。意外にも、子どもの頃、手芸は苦手だった。

「20代になって、刺繍が施されたバッグが素敵だなと思い、ステッチの基本も知らないくせに、何となく自分でつくれそうだなと思って始めたのが、この道に入ったきっかけです」

初めてつくった菜の花の刺繍のバッグ。それを持ち歩くと、電車の中で「それ、どこで買ったの?」と聞かれるようになった。ちょうど丁寧な暮らしができる働き方をしたいと思っていたことから、会社員を辞め、手仕事の道を選んだ頃だった。

「刺繍の作品づくりは時間がかかります。でも、それは時間がかかるのではなく、手間をかけられる贅沢な時間だと気づいたのです。それで、本格的に刺繍に取り組む覚悟がつきました」

刺繍の魅力は、人と話したくないような苦しい時も、小さな場所さえあれば、一人で時間を過ごせることだという千葉さん。それが生きる助けになる。千葉さんは、自身の作品や書籍、教室での指導などを通して、そんな豊かな時間があることを伝えていきたいと願っている。

取材・文/ひだい ますみ  写真/吉田 敬

恐竜をモチーフに、高度な技術を要するカットワークを施した作品。

PROFILE

刺繍家 千葉 美波子

ちば・みなこ
神奈川県生まれ。会社員を経て、ネットショップ「クロヤギシロヤギ」を始める。アルファベットのデザインを中心に刺繍作品を制作。制作活動のかたわら、生演奏と一緒に行うライブ刺繍や映画とコラボした刺繍ワークショップなど幅広く活躍中。