就任のごあいさつ

エネルギーの安定供給と気候変動対応を両立させ、日本と世界の持続可能な発展に貢献します。

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このたび私どもは、6月28日に開催された定時株主総会および総会後の取締役会を経て、会長および社長に就任いたしました。

私たちJ-POWERグループは「人々の求めるエネルギーを不断に提供し、日本と世界の持続可能な発展に貢献する」という企業理念に基づき、70年以上にわたり安定的かつ効率的な電力の供給に努め、グローバルに事業を展開してまいりました。

そして現在、エネルギーの安定供給と気候変動対応の両立は、未来に向かって人類文明が持続していく上で最も重要な課題となっております。

こうした中、J-POWERグループは2021年に「J-POWER “BLUE MISSION 2050”」を策定し、2050年のカーボンニュートラルと水素社会の実現を目標に取り組みを加速しています。

これまで国内外で長年培ってきた総合的な技術や知見を活かし、新たなイノベーションにも挑戦しながら、エネルギーの安定供給と気候変動対応の両立という地球社会の要請に応え、より良い未来を拓き続けるエネルギー企業として、一層努めてまいります。

読者の皆様には引き続き、J-POWERグループへの変わらぬご理解とご指導ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

J-POWER 代表取締役会長
渡部 肇史
 
J-POWER 代表取締役社長 社長執行役員
菅野 等


新社長インタビュー 菅野等新社長に聞く

社会とともに生きる企業J-POWERが忘れないビジョンと使命

2050年までにCO2排出量実質ゼロを目指す「カーボンニュートラル」。
その実現に向けて電力会社ができること、取るべき姿勢、道筋とは何か。
J-POWERの新しい牽引役を担う菅野等社長に想いを聞いた。

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エネルギー安定供給と気候変動対応を両輪で

――気候変動問題や国際情勢などエネルギーをめぐる状況は厳しさを増しています。新社長としてどのような舵取りをしていかれますか。

電力を安定的、かつ安価に提供しながら、温室効果ガスの排出を長期的にゼロにする。この3つを同時に、どれに偏ることなくバランスよく実行していくことが、私たちエネルギー供給に携わる企業に課せられた使命です。ロシアによるウクライナ侵攻をはじめとする地政学的リスクの高まりの中で、その使命を取り巻く情勢は一気に複雑さを増しました。自由貿易さえ危ぶまれるこの状況は、エネルギー資源の大半を輸入に頼る日本にとっても、今後経済発展するアジア諸国にとっても大変厳しいものです。

ですが、だからこそやり遂げる価値があると私自身は思っていますし、J-POWERグループの全従業員にも、同じようにやりがいを感じてもらえたらと願っています。

再生可能エネルギーを拡大する、火力発電の脱炭素化を実現する、原子力発電にも取り組む。ほかにも、あらゆるオプションに可能性を見出しながら、特定のエネルギー源に依存することなく、多面的なアプローチで突き進んでいきたいと考えています。

――2022年度の決算で純利益が過去最高を更新しました。どのように評価していますか。

過去からの長いスパンで続けてきた事業の数々が実を結んだことが要因と認識しています。加えて、昨年度は、夏より秋にかけての国際的な資源価格の高騰が資源権益を持つグループ会社の業績を押し上げました。これは、2022年度特有の事情によるもので、これが継続するとは考えていません。

それよりも、先ほどの経営課題に有効な手立てを講じるべく、電力供給の脱炭素に向けたトランジションを一歩でも前へ進めなければなりません。前期の利益を最大限に活かせる今こそが、その好機であると捉えています。

トランジションというのは、日本政府が2050年を目標年に定めるカーボンニュートラル実現へ向けた変革を意味します。J-POWERはその牽引役を果たせるよう、2021年2月にいち早く「J-POWER “BLUE MISSION 2050”」という独自の戦略と行動計画を発表しました。

そこでは「CO2フリー電源の拡大」、「電源のゼロエミッション化」、「電力ネットワーク」の3つのミッションを掲げていて、いずれも順調に進捗しています。進捗度合いを測るマイルストーンとして、2030年までに国内発電事業によるCO2排出量を46%削減し(2013年度実績比)、2050年には実質ゼロとする目標を立てました。電力安定供給と気候変動対応を両輪で回すチャレンジングな取り組みですが、ロードマップに従って着実に駒を進めている状況です。

アップサイクル戦略でCO2フリー化を早く、着実に

――カーボンニュートラル達成への足掛かりをつかむことが、新社長の任務といえそうですね。

これは私だけでどうこうできるものではありません。過去の蓄積を土台として、今の成果を確実に次の世代へとつなぎながら、将来において間違いなく実現させる。その一時期を全力で担うということです。技術開発や社会実装に長い時間を要するエネルギー事業の場合、こうした長期的な目線で物事を捉える姿勢が欠かせません。

とはいえ、短期的な成果もまた同時に求められることが、ビジネスの難しいところです。マーケットの期待には応えなければなりませんし、地球温暖化の危機的状況を考えても悠長に構えている余裕はありません。今できることを迅速に、加速度的なスピード感をもって実行していく必要があります。

――具体的にはどんなことを優先して進めていかれるのでしょう。

先ほどの3つのミッションにも直結しますが、まず再生可能エネルギーの拡大は筆頭に挙げられます。もともと当社は戦後復興期の電力需要を賄うことを使命として、大規模水力発電の開発から出発した歴史がありますし、風力発電も20年ほど前、日本で最初に手掛けた企業の一つです。現在も水力と風力はともに設備出力規模で国内シェア2位を占めていますので、これを土台に地熱発電や太陽光発電も広げつつ、海外も含めて拡大策を推進中です。

これから特に力を入れたいのは洋上風力です。日本ではすでに陸上風力の適地が少なくなったこともあり、風況に恵まれた海洋国家ならではの強みに期待がかかります。J-POWERも北九州市沖で大規模洋上風力の建設を始めましたし、各地の海域では公募入札も進んでいます。英国では、日本にはまだないレベルの大規模洋上風力プロジェクトに建設段階から参画しています。

CO2フリー発電を一刻も早く広めるために、青森県で建設中の大間原子力発電所の推進も課題です。現在は原子力規制委員会による適合性審査中であり、早期の許認可取得を目指します。

もう一つ、脱炭素化へのトランジションにとって重要な課題が、CO2フリーな水素エネルギーの実用化です。これにはJ-POWERが石炭火力発電の高効率化を目的に20年以上かけて開発した、石炭ガス化の技術を活用します。通常は石炭の燃焼熱を利用してつくられた蒸気の力で発電するところ、この方式では石炭をガス化して得られる水素主体のガスを発電などに使います。

この過程でCO2を分離して、それを回収して地中などに封じ込めるか、別の用途に利用すれば、CO2をまったく排出しない「ゼロエミッション」の水素発電が実現するという計画です。

すでにこの技術は実用段階にあり、長崎県の松島火力発電所にその設備を追加するための環境アセスメントに入りました。水素社会への第一歩となるこの取り組みは、起源を表す言葉を用いて「GENESIS松島計画」と呼んでいます。

このように、既存資産を活かして新たな役割を与える戦略を「アップサイクル(創造的価値変換)」と呼び、J-POWERはこれを一刻も早い目標達成のための基本方針に据えています。

地域によって支えられる電力事業というビジネス

――「地域社会との共生」も重視されるとお聞きしました。

そうですね。電力事業というのは、地域の方々の理解と協力がなくては成り立ちません。ですから、J-POWERは企業理念の中に「環境との調和をはかり、地域の信頼に生きる」を掲げ、創業当初より地域とのコミュニケーションや社会貢献活動に取り組んできました。

今、J-POWERの設備が所在する地域の多くが、高齢化や働き手不足といった悩みに直面しています。同じ場所で事業を営み、ともに生活する住民の一員として、その悩みを分かち合うことが大切です。J-POWERに何ができるかをこれまで以上に、自分事として考えなければいけないと思っています。

例えば、静岡県の佐久間発電所では現在、1956年の運転開始から70年近い年月を経てリパワリング(設備更新)の計画を進めています。水車発電機などの主要設備を刷新し、同じ水量でより多くの電力が得られるよう発電効率を高めることが目的ですが、単に性能を上げるだけでは事業としての持続可能性は得られないと考えています。地域や流域との共生、環境との調和を求める姿勢がなければ、そこで暮らす人々の共感を得ることはできないからです。

そこで佐久間発電所では、ダムのある天竜川で漁業を営む方々と共同で、鮎の放流や生態調査などを通じて、豊かな川の資源を守ることに努めています。このようにして「NEXUS佐久間」と命名されたこの計画の実現を目指します。

社会全体に対してはインフラ資産をきちんと次代へと引き継ぐ役割を、地域社会に対しては発電所がそこにあることのメリットをもたらす役目を、しっかり果たしていきたいと思います。

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愚直な使命感とあくなきチャレンジ

――これまでに担当されたお仕事でおもしろかったご経験はありますか。

たくさんあります。2004年に民営化する前のことですが、大間原子力発電所の立地事務所で過ごした5年間は、地域の皆様との関係がどれだけ大切かを学ばせていただく貴重な経験となりました。民営化に当たってはグループ企業の再編という難題もありましたし、東日本大震災以降は、二十数年ぶりの大型地熱発電や、世界最高水準のクリーンコール発電など、エネルギーの新しい時代を予感させる開発業務に携わることができました。

でもやはり、一番思い出に残るのは失敗体験の数々でしょうか。いつもみんなに話しているのは化粧品事業の失策です。ある時、事業多角化の一環で、ダムに流れ着く流木から生成した木酢液(もくさくえき)に保湿効果が期待できるというので、これを使った化粧品を開発しました。製造認可を得て、別会社を興したまではいいものの、結果は不発に終わります。こんな商品も開発できるんだと、自分たちの技術力ばかりに目を奪われて、市場のニーズというものをきちんと見極めていなかった。それが敗因です。大いに勉強になりました。

広島では高級牡蠣の養殖にもチャレンジして惨敗しています。これも地域共生に向けた協力のつもりだったのですが、地元の伝統的な養殖法への理解が足らずに受け入れられませんでした。儲かればいいわけではない。今思えば未熟でしたね。

ただ、仕事を任せてもらえたこと、場数を踏んで成長できたことはありがたい経験です。今の社員の皆さんにも、任されて挑戦して学び取れる職場であればと願っています。

その意味では、今進めているスタートアップ企業との協業もおもしろい。上下水道がない場所で役立つ簡易水道システムや、洋上風力の電気を蓄電池に貯めて船で運ぶ構想など、新しい挑戦の輪が広がっています。

――最後に、J-POWERをどんな会社にしていきたいですか。

大それた野望はありません。ただ初心に立ち返り、いつでも地域とともにあり、環境との調和を大切に、安定的に絶え間なく、エネルギーを提供する会社であり続けたい。それがJ-POWERの使命です。

取材・文/松岡 一郎(エスクリプト) 写真/竹見 脩吾

菅野 等 かんの・ひとし

J-POWER代表取締役社長 社長執行役員。1961年、山形県生まれ。1984年、筑波大学比較文化学類卒業、電源開発株式会社入社。設備企画部長、執行役員開発計画部長、同経営企画部長、取締役副社長執行役員などを歴任し、2023年6月より現職。副社長執行役員の時には、コーポレート総括、エネルギー営業本部長、原子力事業本部副本部長などを担当。