ストレンジに生きよう。思いがけないような、変なことだけが、あなたを正しさのすぐ隣に、一瞬で連れて行ってくれる。――菊地成孔著『菊地成孔の粋な夜電波 シーズン13–16ラストランと♂ティアラ通信篇』より
伊藤 紺

Power Of Words 私の好きな言葉

歌人・コピーライター  伊藤 紺

漠(ばく)としている自分自身の心や大切な人への想いなどを、鋭く真っ直ぐな視点と平易かつ斬新な言葉で歌い上げる短歌が人気の伊藤紺さん。その伊藤さんの心をとらえたのが、上記の言葉だ。

「人生や世界は人間には理解できないことだらけだと思います。そういう理解できない『変なもの』を受け入れながら生きていくことが、本物の光というか、『正しさ』に近づくことなのだと常々考えていたので、『やっぱり、そうだよね』と激しく共感しました」

人生についてしっかり考えて、しっかり計画しなければという「コツコツ型の人生」。それに疑問を抱いていた伊藤さんにとって、生きるうえで自信がついた言葉だった。

短歌をつくる一方、コピーライターの看板も掲げている伊藤さん。短歌とコピーライティングにおける言葉の違いについて、「自分語」、「社会語」という表現で説明する。

「短歌では、自分なりの感性で獲得した言葉、すなわち『自分語』を使います。一方、コピーライティングは、その時代に生きる人々に共有・共感される言葉のネットワーク、つまり『社会語』を使う仕事だと思っています」

「自分語」も「社会語」も自由に駆使して、読む人がハッとする表現を生み出す伊藤さん。今、自分の中で言葉の力が美しく高まってきている兆しを感じている。

「数年来の創作を通じて、自分で詠む力も作品を読む力もだんだんレベルアップしてきました。次は、新素材といってもいいような精度の高い表現の歌集ができるのではないかと、私自身ワクワクしています」

人生の喜びや悲しみ、愛おしさ……。どんな歌、どんな表現世界を味わえるのか、伊藤さんの次作が楽しみである。

取材・文/ひだい ますみ 写真/竹見 脩吾

PROFILE

歌人・コピーライター  伊藤 紺

いとう・こん
1993年、東京都生まれ。2019年、歌集『肌に流れる透明な気持ち』を刊行。以後、『満ちる腕』、I waya Kahoとの展示図録『すごく近い』、ミニ歌集『hologram』(CPCenter)を刊行。また、浦和PARCOリニューアルコピーを担当するなど活躍中。
Instagram: @itokonda