ま、いっか。――浅田次郎 『ま、いっか。』(集英社)より
髙森 美由紀

Power Of Words 私の好きな言葉

小説家 髙森 美由紀

人と人が交わる日常を丁寧に描いた『花木荘のひとびと』をはじめ、東北を舞台にした児童文学作品群『いっしょにアんべ!』や『ふたりのえびす』で注目が集まる小説家・髙森美由紀さん。心の支えとして毎日のように口にしているのが上記の言葉だ。浅田次郎氏の恋愛に関するエッセイに登場するが、髙森さんは人生にも役立つヒントを得た。

「失敗して落ち込んだり、自分の思いを上手に伝えられず人間関係でいざこざがあった時に、自分自身に言い聞かせています。実際、この言葉を自分の耳で聞くと、ストンと心に入ってきますから」

難しい現状に立ちすくんでしまいそうな自分や、ものごとに固執しがちな自分自身を緩め、次に進むためのきっかけを与えてくれる「ま、いっか」。そこから生まれる心の余裕は、仕事にも大きな影響を及ぼしている。

「編集者の客観的な意見に対して、自分の考えを通そうと意固地になったあまり、行き詰まったことがありました。そんな自分の『我』をなだめるための言葉でもあります」

青森に生まれ育ち、今も青森に暮らし、作家として書き続けている髙森さん。この土地に生きる者だからこそ聞こえる音があり、独特の匂いや空気を感じられると思っている。

「土着の妖怪と関わったら、子どもがどう変化するか。そんな、土地の肌触りを練り込んだファンタジー作品も書いてみたいです」

重苦しい雰囲気の世の中だけに、誰もがしなやかに、毎日を幸せに生きるためのすべを求めている。髙森さんの、くすっと笑えるほっこり温かい作品は、まさに打ってつけ。「ま、いっか」とつぶやき、自他を許し、心を解放する言葉とともに味わいたい。

取材・文/ひだい ますみ 写真/ご本人提供

PROFILE

小説家 髙森 美由紀

たかもり・みゆき
1980年、青森県生まれ。図書館に勤務する傍ら、小説を執筆。2012年『咲くんだ また』で第15回ちゅうでん児童文学賞大賞を受賞(『いっしょにアんべ!』に改題、フレーベル館から刊行)。『ジャパン・ディグニティ』(産業編集センター出版部)、『花木荘のひとびと』(集英社)など著書多数。新刊に『ふたりのえびす』(フレーベル館)