新しい資金調達法で夢の実現を応援
米良はるか

Opinion File

「クラウドファンディングを通じて、全国で素晴らしい活動をしている皆さんにお金を届けていきたいと願っています」と米良さん。

クラウドファンディングとの出会いと熱い思い

多くの人にとって、資金調達は重要課題の一つである。既存の金融に代わる新しい資金調達の方法として、注目を集めているのが「クラウドファンディング」。

「クラウドファンディング」とは、「群衆(Crowd)」と「資金調達(Funding)」という言葉を組み合わせた造語で、インターネットを通じて不特定多数の人に資金提供を呼びかけ、趣旨に賛同した人から資金を集める方法だ。

2011年3月に日本初のクラウドファンディングサービス「READYFOR(※1)」を立ち上げた米良はるかさん。きっかけは、大学生時代の一つの出会いだった。

「私が所属していた研究室と東京大学の松尾豊先生(※2)の研究室がたまたま共同研究をすることになり、インターネットの仕組みやWEBサービスのビジネスモデルを学びました。その学びを活かして『チアスパ』という投げ銭サイト(個人がネット上で少額の寄付をするサイト)をつくり、パラアスリートの活動支援で120万円を集めました。その後大学院に進み、米国のシリコンバレーにあるスタンフォード大学に留学し、プログラミングやビジネスプランニングを学びました」

当時のシリコンバレーでは、ちょうどクラウドファンディングが広まり始めていた。今後、日本でもインターネットを使って、「個人で起業する時代」が訪れると予感した米良さんは、個人の力を活かせる基盤をつくりたいという考えを強めていった。

さらに、Google、Apple、Facebook(現Meta)などを訪問して、そこで働いている人、起業している人などを目の当たりにしたことも、大きな刺激となった。

「何かに挑戦する時に必要なのは『人、モノ、お金』と言われますが、その『お金』を必要としている人に届けるサービスが実現できないかと考えたのです」

従来、資金調達といえば、銀行などの金融機関からの借入れや、融資、自治体からの補助金、ベンチャーキャピタルによる出資といった方法が一般的だった。しかし、それには、担保や実績などが必要になる。新しい試みに取り組むスタートアップ企業や前例のない新規プロジェクトを立ち上げる個人からすると、それが高い壁となっていた。

「資本主義社会では、お金がある人にお金が流れる仕組みになっています。つまり、もともとお金や実績がある人は資金調達が容易ですが、そうでない人は難しい。ですから、誰もがやりたいことを実現できる社会にするために、インターネットを通じて『やりたいことをするための資金が必要な人』と『それに共感し、応援する人』をマッチングするサービスを提供したいと考えました」

2011年にサービスを立ち上げた当時、日本では「クラウドファンディング」という言葉は知られていなかった。米良さんは、一人でも多くの人にこの仕組みを使ってもらえるよう、全国でセミナーを開催し、周知に注力した。それから、およそ10年、数多くのプロジェクトに資金が集まり、実現に至っている。

「クラウドファンディングは、機会の平等を提供するためのツールです。私は、インターネットを通じて、夢や熱い思いがある人が主人公になれる社会、そして、そういう人に共感する人がその夢を応援できる社会を実現したいのです。クラウドファンディングは、社会変革を実現するツールだと考えています」

2万件に及ぶ公開プロジェクトの中には、動物保護、アート・芸術系の支援など、興味や趣味に関連した気になるプロジェクトがきっと見つかるはず。1,000円、3,000円など気軽に支援することもできる。

クラウドファンディングを利用したプロジェクトの成功例

READYFORでは、数十万円という小規模なプロジェクトから、8億円を超えるお金が集まる大規模なプロジェクトまで、様々な活動をサポートしている。クラウドファンディングで支援を受けたい人(実行者)の男女比は半々。パソコンを使い慣れている30〜40代が中心だが、10歳の小学生から80代の高齢者まで実に幅広い。医療、研究、福祉、動物など、取り組む分野も様々だ。

現在、READYFORで公開されているプロジェクトは2万件以上。数多くの事案から蓄積してきたノウハウを活かし、実行者が目標を達成できるように、考えや思いが伝わりやすい魅力的なホームページづくりから、各案件に即した個別の周知方法まで、細やかなアドバイスを行っている。また、専任のサポートスタッフがマンツーマンで対応するプランも展開している。

そうした数々のプロジェクトの中で、印象深い例として米良さんが挙げたのは、ある限界集落(※3)にレストランをつくろうというプロジェクトだ。

実行者は、サラリーマン生活を引退した75歳の男性で、レストランを開くのは、住民20人ほどの過疎の地域。うまくいくのだろうか。ふたを開けてみると、100万円の資金が集まったうえ、支援してくれた人が家族や友だちを誘って実際にレストランを訪れるようになり、結果的にその地域の関係人口(※4)を増やすことにつながった。たった一人の思いが、多くの人々の心を動かし、お金や人の流れ、人と人との交流を生みだしたのだ。

「第2の人生の挑戦、しかもインターネットを通じた不特定多数の人々に応援してもらっての取り組みは、地域の新聞に取り上げられ、実行者の方は、大学や自治体などに呼ばれて講演もしたそうです。『やりたいことが実現できたこともうれしいし、人生が本当に豊かになった』と言われました。クラウドファンディングが人と人とをつなぐ役割を果たし、実際に社会に小さな変化を起こしたのだと実感し、胸が熱くなりました」

ほかにも、縄文時代の丸木舟づくり、高校生による銚子電鉄復活活動など、人と人とを結ぶプロジェクトが実現している。

「欧米と比べて、日本には寄付文化がないと言われていますが、そんなことはありません。地元のお祭りの際に神社にお金を寄進したり、お寺へお布施したりするのも、寄付の形の一つです。インターネットを通じたクラウドファンディングは、そうした従来の地域貢献だけでなく、人々が自分の興味のあることや支援したい分野にも善意を贈ることができます」

と米良さん。

例えば、コロナ禍の初期に混乱していた医療現場。必要な資材を購入する資金が手元になくて困っていたが、現場のスタッフは目の前の患者さんに対処するだけで手一杯。一方で、逼迫する医療現場のニュースを耳にし、何らかの支援をしたいと考える人も少なくなかった。でも、どこへ寄付したらよいか分からない。

その両者を結んだのが、READYFORである。混乱を極める現場では、個々の医療施設がクラウドファンディングを募るために割ける時間も人的パワーもなかった。できるだけ手続きが簡略化され、申請できる手法が望まれた。

そこで、公益財団法人東京コミュニティー財団と連携し、基金を運営。スピーディーな審査でお金を現場に届ける仕組みをつくった。基金型のクラウドファンディングである。

「コロナ禍に心を痛めていた人や医療関係者を支援したい人はもちろん、数多くのスポーツ選手や企業からもお金が集まりました」

こうして、通常1億円を超える例はほとんどないとされる中、国内史上の最高額8億7千万円が集まったのだ。

クラウドファンディングのこれからと私たちの社会

クラウドファンディングとの関わり方は、2つある。一つは、自分のやりたいことや夢を発信して支援を受ける立場。もう一つは、そうした様々な思いの中から共感できるプロジェクトを選び、支援する立場である。

コロナ禍で困っている行きつけの飲食店を応援したい、お気に入りの美術館を存続させたい、自分や家族が患った病気の研究が進むように寄付したいなど、人それぞれに社会のあり様に関心はあるはず。そうして、たとえ少額でもお金を支援することは、個人的に満足のいく行為だろう。何より、そうした思いをきっかけに、クラウドファンディングに参加することは、新しい未来をつくることにつながるかもしれない。

一方、支援を受ける側が意識したいのは、支援してくれた人に対して、どんな恩返しができるかということ。恩返しとは、決してお金を還元することではない。自分が支援した事業が地元で役に立っていること、誰かの役に立っていること、人と人とを結ぶきっかけになっていることが実感できれば、支援者は十分に満足することができるからだ。

こうした成功例をふまえ、米良さんは次の時代も見据えている。

「最近は、遺贈寄付のサポート事業を開始しました。ご自身が人生をかけて築いてきた大切な資産を、好きな分野や興味のある分野に投じたいと考えられる方も少なくありません。その思いがこもったお金を活かしたいのです」

今、米良さんが日々心掛けているのは、社内のコミュニケーションだ。

リモートワーク中は、連絡はどうしてもメールをはじめとするテキストベースになってしまう。それでは、お互いが実際に横にいて仕事するより、情報量は落ちてしまう恐れがある。そうして分からないこと、知らないことが増えると、どうしても人は怖さを覚え、ネガティブな感情に襲われてしまう……。

「だからこそ、生の情報交換が大切だと思います。幸い、社会問題に取り組んでいる当事者からの情報が入ってきますし、先進的な活動をしていらっしゃる方とも接触しやすい環境です。これが、私自身のアンテナの精度を高めてくれているとも感じます」

今後も、クラウドファンディングはもちろん、基金型のプロジェクトや遺贈寄付にも注力していただきたいという米良さん。社会の様々な課題へ取り組む米良さんの挑戦は、今日も続いていく。

取材・文/ひだいますみ 写真/ご本人提供

KEYWORD

  1. ※1READYFOR
    2011年3月29日に開始した日本初のクラウドファンディングサービス。公開されたプロジェクトの資金調達の成功率が75%(2018年10月時点)であり、業界平均30%と比べて非常に高い。
  2. ※2東京大学 松尾豊先生
    東京大学大学院工学系研究科 人工物工学研究センター/技術経営戦略学専攻教授。日本の人工知能研究の第一人者として有名な工学者。
  3. ※3限界集落
    人口の50%以上が65歳以上で、農業用水や森林、道路の維持管理などの集落として共同生活を維持することが限界に近づきつつある集落。
  4. ※4関係人口
    移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、特定の地域に継続的に多様な形でかかわる人のこと。俗に「観光以上移住未満の人々」とも言われる。

PROFILE

米良 はるか
READYFOR株式会社
代表取締役CEO

めら・はるか
1987年10月生まれ。慶應義塾大学経済学部、同大学院メディアデザイン研究科(KMD)卒業。2011年3月29日に日本初・国内最大級のクラウドファンディングサービス「READYFOR」をスタート。2014年に株式会社化し、代表取締役CEOに就任。World Economic Forumグローバルシェイパーズ2011に選出、日本人史上最年少でダボス会議に参加。「人生100年時代構想会議」「未来投資会議」等の民間議員に選出、現在は内閣官房「新しい資本主義実現会議」の民間議員を務める。