“手しごと”のぬくもりを輝きにこめて

匠の新世紀

菅原工芸硝子株式会社
千葉県山武郡九十九里町

菅原工芸硝子の代表作「バブル」シリーズのグラス「神秘的に立ち昇る泡」。同社の職人・塚本衛さんのアイデアを2008年に製品化したもの。

千葉県九十九里町に職人たちが自ら手がけたデザインで人気のガラス工房がある。
使う人を考え、チームでチャレンジする姿勢にものづくりの楽しさと奥深さを見た。

“普段使い”に宿るさりげない美しさ

菅原工芸硝子株式会社
取締役 広報担当
菅原加代子さん

千葉県九十九里町にある菅原工芸硝子株式会社は、「Sghr スガハラ」のブランドで知られる日本有数のガラス器メーカーだ。
約30人の職人によってつくられる製品は、江戸硝子の伝統を引き継ぎ、「吹きガラス」という、ガラスに空気を吹き込み膨らませる方法を中心に手づくりされる。同社製品の特徴について、広報担当の菅原加代子さんに聞いた。
「デザインを評価してくださる方が多いのですが、スガハラが一番大切にしていることは“普段使い”の製品であることです」
“普段使い”とは、肩肘を張らずに気軽に日常的に使えるもの。デザインだけではなく、使いやすさや丈夫さ、そして価格もリーズナブルであることが求められる。製造が難しいものや、1点もののアート作品、壊れやすいものなどは、スガハラで製品化されることはない。スガハラが追求するのは、普段使いながらも気品のある美しさ、“用の美”(※)だ。
菅原さんは「手しごとの良さが感じられるガラス器をつくっていきたい」と話す。
同社には、約30人の職人がいるが、日々2~5人でチームを組み、製造を行っている。チームを組むことで、効率よく次々と製品をつくっていく。
ガラス器の製造は、約1,400℃に熱したガラスを溶解窯の坩堝(るつぼ)から取り出し、それが冷えて固まるまでの数十秒のうちに様々な加工を施す。口で空気を吹き込んで膨らませたり、それを回したり、型を使って成型したり、さらに脚や取っ手なども追加する。こうした作業は一人で行うよりも、数人が協力することでテンポよくこなすことができる。
例えば、ワイングラスをつくる場合には、まず坩堝からガラスを取り出し、それに吹き竿で空気を送り込んで膨らませ、型でおおよその形を決めてから、細部を整えていく。その間に、助手が脚(ステム)部分のガラスを用意し、本体部分に追加、引き延ばし回転させながら脚をつくり、さらに助手が追加した熱いガラスで台座部分をつくる。坩堝から取り出した瞬間のガラスは、オレンジ色に輝いているが、みるみる赤くなり、そして黒ずんでいく。職人は、その数十秒の間の最適の瞬間を逃さず、手を加える。高品質でばらつきのない製品を効率よくつくるためには、何よりもチームワークが大切だ。
同社のユニークなところは、この作業に携わっている職人自身が製品のデザインも考えていること。職人であると同時にデザイナーでもある。月に1~2回開催される開発研究会に個々の職人がデザインやアイデアを持ち寄り、そこで検討され、製品化されていくという。職人たちに芽生えたアイデアやクリエイティビティを積極的に育てていこうというのが同社の方針なのだ。
「誰でもどんなアイデアでも出していいことになっていて、私も研究会に参加させてもらっています」

菅原工芸硝子の溶解窯。1年を通して火が絶えることがなく、職人は休日も自由に創作活動をすることができる。
廃棄するしかなかったガラスの端材をリサイクルした『Sghr Recycle』シリーズ。2020年秋発売。
塚本さん作の一輪挿し(右3点と左2点)と、馬の頭のように見えるビアカップ。ビアカップはひっくり返して使用する。

ガラスづくり55年以上のベテランの見果てぬ夢

「バブル」のグラスのつくり方を見せてくれる塚本衛さん。

そんなスガハラの職人を代表するのが同社最高齢72歳の塚本衛(まもる)さんだ。15歳からガラス職人を続けている塚本さんの代表作が2008年に発表された「バブル」シリーズ。ガラスの中に大胆に泡を表現したグラスだ。
ガラスに気泡が入っているのは、一般的には失敗とされるが、この「バブル」シリーズではグラスの脚部分に大胆に気泡を入れることが主要なデザイン要素になっている。
「ガラスで遊んでいるうちにできたんですよ」と、塚本さんは楽しそうに笑う。
同社では、休日や休憩時間もガラスや道具を使用していいことになっており、塚本さんはこうした余暇の時間に失敗したガラスの破片を見ていて、ふと「泡は成長する」と思いつき、泡のタネをガラスの中につくることを試してみたのだという。それは、サザエの殻のように尖った角をつくり(これが気泡のタネになる)、さらにガラスで被うという方法だった。
仕事が楽しくてしょうがないという塚本さんにガラス器づくりの難しさを訊くと、「ガラス器づくりは夢みたいなものだ」と語る。
「この仕事は15歳から55年以上やっていますが、何年やってもこれでいいということがない。毎日もっといいものをつくりたいと思う。だから、楽しい。思うようにいかないのがものづくりだと思う」
気温の違いなどによって、ガラスの温度や固まり方は日ごとに異なる。ガラスの量もすべて職人の勘で決まるため、ガラスの厚さも厳密には、一つひとつ異なってくる。ましてやガラスの形は坩堝から取り出したあとの数十秒、ほんの一瞬で決まってしまう。同じような動きをしていてもできあがりは同じにはならないのだ。
菅原さんは、塚本さんのデザインについて、「70歳を過ぎた今でも、若々しい感性が感じられるデザインをする」と評する。毎日満足せず、新鮮な驚きを感じながら楽しんで仕事をしているからこそ、そのデザインは生み出されるのだろう。

ガラスをつまんで、角のようなものをたくさんつくる。「これが泡のタネになります」と塚本さん。
その上に熱いガラスを被せると、ガラスの中で泡が発生する。
最後に形を整えると泡の入ったグラスの台座部分ができあがる。

他社とのコラボも得て前進するスガハラ

スガハラは、1932年(昭和7年)に東京・亀戸で創業、62年(昭和37年)に現在の九十九里町に移転している。
創業以来、問屋からの注文に応じて、相手先のデザインでガラス器を製造していたが、1970年代のオイルショックで、多くの仕事がなくなった。これをきっかけに、自社ブランドを立ち上げることを決意し、販売会社を設立した。これが同社のチャレンジのスタートだった。それ以降、オリジナルデザインの製品開発・製造を行い、直営店を構え、直販体制を築き上げてきた。現在では、東京・表参道をはじめ、大阪や福岡など全国に6つの直営ショップを構え、さらに百貨店やセレクトショップでは、同社のコーナーが設置されている。
約4,000アイテムを揃えるほか、毎年100アイテム以上の新製品を発表。また、埼玉県川越市のコエドビールとコラボし、クラフトビールに合うグラスを開発するなど、他のクリエーターや企業との協業も盛んに行っている。また、昨年秋にはこれまで廃棄していたガラスを再利用した「Sghr Recycle」シリーズも発売した。
これらはすべて、一歩でも前に出ようとする同社のチャレンジ精神を表しているとともに、環境に配慮し、他社ともチームを組んで活動していこうという試みだ。ガラスの器の素晴らしさを社会に広めていくために、多くの賛同者を得て、“チーム”で歩み続けるスガハラに、これからも注目だ。

同社の製品の中で最も大きいスピーカーをつくるところ。
型で成型したものを回しながら形を整えていく。
ワイングラスの型から取り出したところ。
ワイングラスの脚に台座を付けるための準備。
ワイングラスの完成形が見えてくる。

取材・文/豊岡 昭彦 写真/斎藤 泉

KEYWORD

  1. 用の美
    職人の手しごとによって生み出された虚飾を排した機能的な美しさ。大正時代に、柳宗悦らによる民藝運動の中で生まれた言葉。

PROFILE

菅原工芸硝子株式会社

1932年に東京・亀戸で創業したガラス器製造メーカー。1962年に千葉県九十九里町へ移転。1970年代から、自社ブランドの確立を進め、現在全国6カ所に直営ショップを持つ。社員数125名。