新型コロナ対策500日を超えて政策科学的な議論を

Global Headline

2020年1月15日に、日本で最初の新型コロナ患者が確認されてから、5月末で500日が過ぎた。この間の日本のコロナ対策について総括しておきたい。
まず最初に、感染症との闘いにおいて重要なのは、健全な危機感を持つことと政策科学的な議論だということを強調しておきたい。そうした観点から、この500日を検証すると、日本では自粛と休業補償についての議論だけに終始していたことがわかる。言い換えれば、科学的にコロナに立ち向かった実績はほとんどないようなものだ。日本のリーダーたちは、新型コロナのパンデミックにあたって冷静さを失い、科学的に判断できなかったのではないか。
検証すべきポイントは3点だ。
第1のポイントは、「コロナ病床は増えたのか」ということ。第1波に比べ、感染者の数は5倍になったのに、コロナ専用病床は2倍ほどにしかなっていない。その理由は、民間病院が引き受けないからだといった議論がなされているが、原因はそれだけだろうか。日本では諸外国のようにコロナ専用病院をつくったり、体育館にベッドを運び込むようなことはほぼなかった。感染しても入院もできず、ホテル療養や自宅待機でまともな医療も提供されない状況は看過できるものではない。病床を増やそうという努力そのものが足りなかったのではないか。
第2のポイントは、「国産ワクチンはなぜ、開発されないのか」。過去のワクチンによる医療事故によって、厚生労働省やメーカーの責任を厳しく問うたために、腰が引けたからと言われるが、理由がそれだけとは思えない。
ワクチン開発の技術基盤が劣っているわけではないのに、日本でワクチンができていないのは、臨床研究を軽視する医療行政のゆがみが壁になっていたとも言われている。現在、国内で4社がワクチンを開発しているが、ここに集中的に1兆円でも投入していたら、もっと違う展開になっていたと思われる。
第3のポイントは、「コロナ対策費は有効に活用されたか」。昨年度の1次から3次補正予算まで、総額約76兆6,000億円が計上されたが、3月末時点で確認された支出は約34兆円だ。その内訳は、特別定額給付金(10万円給付)12.7兆円、持続化給付金5.5兆円、雇用調整助成金3.2兆円、Gotoトラベル0.6兆円、家賃支援給付金1兆円などだが、それぞれの進捗状況と効果を検証する必要がある。
これらのポイントをきちんと検証しながら、今後発生するであろう次のパンデミックに備え、BSL-4(バイオセーフティーレベル4)施設拡充をはじめ、「ウイルスとの共生」のための体制を強化していくことが重要だ。
(2021年5月24日取材)

PROFILE

寺島 実郎
てらしま・じつろう

一般財団法人日本総合研究所会長、多摩大学学長。1947年、北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、三井物産株式会社入社。調査部、業務部を経て、ブルッキングス研究所(在ワシントンDC)に出向。その後、米国三井物産ワシントン事務所所長、三井物産戦略研究所所長、三井物産常務執行役員を歴任。主な著書に『日本再生の基軸 平成の晩鐘と令和の本質的課題』(2020年、岩波書店)、『戦後日本を生きた世代は何を残すべきか われらの持つべき視界と覚悟』(佐高信共著、2019年、河出書房新社)、『ジェロントロジー宣言―「知の再武装」で100歳人生を生き抜く』(2018年、NHK出版新書)など多数。メディア出演も多数。
TOKYO MXテレビ(地上波9ch)で毎月第3日曜日11:00~11:55に『寺島実郎の世界を知る力』、毎月第4日曜日11:00~11:55に『寺島実郎の世界を知る力ー対談篇 時代との対話』を放送中です(見逃し配信をご覧になりたい場合は、https://www.terashima-bunko.com/minerva/tokyomx-2020.htmlアクセスしてください)。