明日できることは今日やるな――西洋の諺より
武田 綾乃

Power Of Words 私の好きな言葉

小説家 武田 綾乃

アニメ化された吹奏楽部の物語『響け!ユーフォニアム』シリーズをはじめ、カヌー部で奮闘する女子高校生たちの友情、葛藤などを追う『君と漕ぐ』シリーズなど、みずみずしい青春を描く小説作品が注目され、若い世代を中心に熱烈な支持を受ける武田綾乃さん。中学時代、受験勉強中に出合った言葉が武田さんの今を支えている。
「文法的に覚えておくべき表現だったのでしょうか、英語の試験問題で何度も目にするうちに、この言葉が気になり始めました。小説家となった今も、仕事をする上で意識している言葉です」
日本人には「今日できることは、明日に延ばすな」という言葉のほうがお馴染みかもしれない。だが、これは事務作業には適しても、クリエイティブな作業には適さない言葉なのだ。
武田さんによれば、小説のアイデアを思いつく時と、それを作品としてつくりあげる時にはタイムラグがある。今できる精一杯の力で無理やりまとめようとするより、時間をかけることでもっと完璧な表現ができ、作品の完成度も高まるに違いない。未来の自分ならもっとうまくできる……。そうした熱い作家魂を支える言葉なのだ。
武田さんは自分の足元をしっかり固めて、よりよいストーリー、より的確な表現を探しながら物語を紡いでゆく。こうして生み出された物語は、時によって熟成された分、豊かさと深みを増し、読者の心に深く刻まれる。だからこそ、これから訪れる青春を心待ちにする子どもはもちろん、今まさに青春真っ盛りの人、青春を懐かしむ大人まで、幅広い世代に愛読されるのだろう。武田さんがこれから挑戦したいという、ファンタジーの新作が待ち遠しい。

取材・文/ひだい ますみ 写真/竹見 脩吾

PROFILE

小説家 武田 綾乃

たけだ・あやの
1992年、京都府生まれ。2013年、日本ラブストーリー大賞最終候補作『今日、きみと息をする。』で作家デビュー。『響け!ユーフォニアム』(宝島社文庫)はアニメ化され、続編多数。『石黒くんに春は来ない』(幻冬舎文庫)、『君と漕ぐ』(新潮文庫nex)など著書多数。