環境に優しい木のストローでサステナブルな社会を目指す
株式会社 アキュラホーム

匠の新世紀

株式会社 アキュラホーム
東京都新宿区

間伐材を使用し、使用後は土に戻る「木のストロー」はCO2を削減し、環境にも優しい。

プラスチックストローによる環境への影響が世界的問題になる中、木造住宅会社が世界で初めての「木のストロー」を開発した。
開発担当者に話を聞いた。

広報担当者の誠意が生んだ世界初のチャレンジ

株式会社 アキュラホーム
広報課主任
ウッドストロープロジェクト
西口彩乃さん

「木のストロー」をご存じだろうか。
木造住宅建設会社の株式会社アキュラホームが世界で初めて開発したものだ。
少し前の話になるが、2018年にウミガメに刺さったプラスチックストローの動画が世界中に拡散し、プラスチックが生態系に大きな影響を与えていることが世界的な大問題となった。その結果、コーヒーやハンバーガーの世界的企業が将来的にプラスチックストローを廃止すると宣言したことなどを憶えている人も多いと思う。アキュラホームが開発した「木のストロー」は、このプラスチックストローに代わるものとして開発された。
きっかけは環境ジャーナリストの竹田有里さんがアキュラホームの広報の西口彩乃さんに相談を持ちかけたこと。18年8月のある日から、この「木のストロー」の物語は始まる。
西口さんは語る。
「私自身、環境問題にはそれほど興味はありませんでした。ただ、竹田さんには以前、大変お世話になっていたので、なんとかその期待に応えよう、木を専門とする住宅会社として、せめてどうすればできるかだけでも調べようと思っただけだったんです」
知り合いの大工さんに相談すると、西口さんのためならと即座に二つの試作品ができあがった。一つは、木をくり抜いたもの、もう一つは鉛筆のように二つの部材を組み合わせたもの。だが、実際に使ってみると、うまく吸えなかったり、水分ですぐに変形してしまったりした。
さらに社内でも「住宅会社がストローをつくってどうするんだ」、「社業に関係ない」として反対される……。八方塞がりの中、西口さんは担当の役員に直談判。熱意に負けた役員が役員会に議案を上げ、社長にも承認されると、同社の住生活研究所の研究員も協力を申し出てくれた。
まったく動かないと思っていた大きな石が動いた瞬間だった。動き始めた巨石は人々を巻き込んで転がり始める。
様々な協力者が現れ、カンナで削るように木を薄くスライスし、それを斜めに巻くことによって、強度が保たれ、容易につくれることがわかる。くしくも同社の創業者である宮沢俊哉社長が大企業になった今も創業の精神を忘れないために、カンナがけをしていることに通底した製造方法だった。
さらに、西口さんはこの開発を進めるうちに、木のストローに使われる間伐材の利用が、日本の山野を美しく保ち、土砂崩れなどが起きないために重要なことであり、さらには世界中で問題になっているプラスチックやCO2の削減にまでつながるということを理解するようになったという。
それまでは新製品のリリースを渡してもそのままゴミ箱に捨ててしまったような新聞記者たちが話を聞いてくれたり、その記者が環境保護に興味があるホテルのマネジャーを紹介してくれたりした。さらにそのマネジャーは、製品ができたら、「うちのホテルで採用して使いたい」と言って、一緒に製品の評価を行い、完成まで伴走してくれた。最後にはそのホテルで製品発表会を共同開催するほど、一生懸命に協力してくれた。
「本当にたくさんの方々が協力してくださり、世界で初めての木のストローをつくることができました」と、感謝の言葉を語った西口さん。だが、そのきっかけは西口さんの“小さな誠意”だった。

アキュラホームの木造住宅は、自由な間取りが可能で、環境にも優しいのが特徴。
創業者の宮沢俊哉社長は、創業の精神を忘れないため、今もカンナ削りのパフォーマンスを行っている。

シンプルな中に隠された様々なノウハウ

木のストローのつくり方はとてもシンプルだ。スギの木をカンナで厚さ0.15mmに薄く削り、長さ30cmほどにカット。それに専用ののりを塗って、芯棒にらせん状に巻いていくとストロー状になる。それを乾燥させて前後をカットすれば完成だ。
だが、ここにたどり着くまでには何百本という試作品をつくり、テストをくり返した。例えば、木の素材は何がいいか。様々な種類を用いて試作品をつくり、匂いや味までチェック。最終的にスギが最も適していることがわかった。また、接着するのりも身体に害のないものを選び、第三者機関で安全基準に適合しているか検査してもらい、さらにはスライス方法や巻き方など、幾度となく試行錯誤をくり返しながら問題点をクリアしていったのだ。いざ、完成品ができてからも、ものづくりの素人であるがゆえの試行錯誤が続いた。

最初の試作品。右の2つは木をくり抜いたもの、左の2つは組み合わせるも
カンナで木をスライスする。
薄くスライスした木のシートを巻いた木のストローの完成形。
大手ホテルやG20サミットでも採用された。

製品発表で巻き起こった予想を超える反響

森を健康に育てるために間引かれた間伐材を利用する。
スライスした木のシートを1本1本、手で巻いていく。
1本1本のサイズを機械で確認。
ルーペで拡大して表面をチェック。
コロナ禍で仕切りを付けて作業。
接着剤を乾燥させるところ。

2018年12月に新製品発表会を行うと、反響は西口さんの予想以上だった。新聞やテレビ、ウェブニュースなどでも大きく報じられ、取材依頼も多く寄せられた。中には海外からの依頼もあった。
うれしいニュースもたくさんあった。19年6月に開催されたG20大阪サミットの環境閣僚会議で木のストローが採用されたことや、スウェーデン発祥の家具メーカーや自動車メーカーとの連携など、これまで同社にはなかったビジネス連携がいくつも決まった。
また、横浜市からは、同市の水源林である山梨県内の山林から出た間伐材を有効利用し、横浜市内の障がい者施設でストローをつくるという地産地消モデルを提案され、実現にこぎ着けた。
さらには、誰でも手軽に木のストローがつくれるという「木のストロー手作りキット」を商品化し、これを使った親子での手づくり体験会をアキュラホームの展示場で行って、環境意識を高める活動にも利用している。
「最初は形になれば十分と思っていたのですが、環境保護を進めるためには『持続可能性』が大切だということがわかってきました。消費者に継続して使ってもらうためには、商品を知ってもらい、価格もリーズナブルでなくてはいけないし、事業を継続するためにはちゃんと利益も出さなければいけない。そうでなければ製造ラインを保っていくことはできません」
結局、アキュラホームでは、木のストローを事業化し、複数のスタッフが担当に就き、ビジネスとして継続していくことを決めた。
西口さんは広報の仕事に戻り、今、SDGs(持続可能な開発目標)に興味を持って、自分でも調べ始めているが、それだけでなく、広報という仕事に新たな気持ちで取り組んでいる。
「以前は、新製品が出た時にリリースを書いて、記者クラブに持っていくという受け身の仕事でした。でも、今は広報が積極的に前に出てもいいんだなと思いました。また、社内の各部署の人たちもこちらから情報をくださいと言わなくても、積極的に情報を提供してくれるようになり、仕事もやりやすくなりました」
自分の仕事の範囲を自分で決めず、興味を持ったら積極的にチャレンジしてみる……。そういう働き方のおもしろさを西口さんの体験は教えてくれる。

木のストローを自分でつくれる「木のストロー手作りキット」。

取材・文/豊岡 昭彦 写真/斎藤 泉

PROFILE

株式会社アキュラホーム

大工の家系に生まれた宮沢俊哉氏が1978年に創業した注文住宅建設会社。建設する前に正確に見積りができる住宅建設合理化システム「アキュラシステム」を開発し、全国2,400社を超える建設会社に提供している。「品質も価格も、あきらめない」がモットー。