とりあえずお昼――田辺聖子『星を撒く』より
原田 ひ香

Power Of Words 私の好きな言葉

小説家 原田 ひ香

様々な街の絶品ランチと旨い酒が登場する短編小説集『ランチ酒 おかわり日和』(祥伝社)で注目の小説家・原田ひ香さん。上記の言葉には、20代に出会った。
「OL代、通勤電車の中で田辺聖子さんの小説やエッセイをよく読みました。誰でもごく普通に使いそうな言葉ですが、実は深い意味のある言葉だと思います」
仕事や人づき合いなどで悩んだり、行き詰まったりすることは誰にでもあること。そんな時は、心の重荷をいったん横に置いて、お昼ごはんでも食べよう。なぜなら、ごはんは疲れた心と体を慰めてくれるから。ホッと一息つけば、少しは気分が落ち着くし、問題解決のヒントだって見えてくるかもしれない――。人生の機微に触れる小説や、ユーモアたっぷりのエッセイで多くのファンを魅了した先輩作家・田辺聖子さんの言葉から、原田さんはそんなメッセージを受け取った。
「確かに、頭がカーッとなったり、突然のアクシデントでドタバタしたりしている時、上手に気分を切り替える才能や手段があれば、生きるのが楽になりますよね。それに、政治や経済、社会が混迷している時代だからこそ、『みんな、少し落ち着きましょうよ』という意味でも、心に留めておきたい言葉です」
表参道の焼き鳥丼、秋葉原の角煮丼、日暮里のスパゲッティグラタン……。一度は味わいたい美味しいランチとともに、心にじんわり響く人間ドラマを書き続ける原田さん。自身も午前中は原稿に集中し、遅めのランチを味わう時、「ふう」と思わず息がもれる。
とりあえずお昼。気分が変わる魔法の言葉をさらりと唱えて、さあランチタイム。ゆったりと人生を味わおう。

取材・文/ひだい ますみ 写真/竹見 脩吾

PROFILE

小説家 原田 ひ香

はらだ・ひか
1970年、神奈川県生まれ。2006年、「リトルプリンセス二号」で第34回NHK創作ラジオドラマ大賞受賞。2007年には「はじまらないティータイム」で第31回すばる文学賞受賞。著書に『ランチ酒』、『ランチ酒 おかわり日和』(ともに祥伝社)、『三千円の使いかた』(中央公論新社)、『まずはこれ食べて』(双葉社)など多数。