コロナウイルス問題の本質と 今、日本がなすべきこと
寺島 実郎

Global Headline

中国武漢で発生した新型コロナウイルスが日本を襲い、初動の難しさが浮き彫りになったが、これを契機に日本がこれからどうすべきかという政策科学に基づいた建設的議論を行うことが重要だ。
コロナウイルス問題の本質は何かといえば、「グローバルリスク」(グローバル化によって生まれた危機や悪影響など)に集約することができる。人・物・金がグローバルに移動する現代においては、人の移動とともにウイルスが伝播することは避けられない。日本は、観光立国として2030年には年間6000万人の外国人観光客を受け入れようとしているのだから、今回同様の事象や、今回よりも危険度の高い病原菌の流行が今後も起きることを想定しておく必要がある。
そこで私は2つのキーワードを提示したい。1つは「BSL-4施設」、もう1つは、「国際連帯税」である。
「BSL-4施設」は、バイオセーフティレベル4という、エボラ出血熱などの最も危険な病原体を研究できる施設。今回は比較的危険レベルの低いものだったが、レベル4にも対応できる準備が必要だ。現状、日本の「BSL-4施設施設」は国立感染症研究所村山庁舎(東京都武蔵村山市)の1カ所しかない。長崎大学では建設工事中だが、これに加え、関西1カ所、日本海側1カ所の合計4カ所程度を設置し、今回のような感染症が発生した場合の対応拠点とするような構想が必要だと思う。
もう1つの「国際連帯税」は、グローバル化によって利益を得る人に広く課税し、その資金でグローバル化の影の部分、今回のような感染症への対策や貧富の格差の解消などのグローバルリスクの解消に使用するという新しい制度設計だ。
フランスが2006年に導入し、ブラジル、韓国、チリなど十数カ国が行っている「航空券連帯税」は、国際連帯税の一種で、航空券に上乗せする形で人の移動に対して課税し、その資金を熱帯感染症の治療法の研究開発などに使用するもの。
だが、国際連帯税の本丸とも言えるのは「金融取引税」。グローバル化によって最も利益を得ている株取引や為替取引などに課税することだ。これまでEUで何度も提案されてはイギリスの反対で成立しなかったが、ブレグジットでイギリスがEUから離脱したことにより、仕組みの構築が期待されている。
こうした新しい制度は環境問題も含め欧州が牽引する傾向にあるが、ルールを最初に策定した国に有利に働くことは言うまでもない。日本も今回の件を大きな転機として、感染症対策のための国際連帯税の創設を提起するなどルールをつくる側になるべきではないだろうか。
(2020年2月25日取材)

PROFILE

寺島 実郎
てらしま・じつろう

一般財団法人日本総合研究所会長、多摩大学学長。1947年、北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、三井物産株式会社入社。調査部、業務部を経て、ブルッキングス研究所(在ワシントンDC)に出向。その後、米国三井物産ワシントン事務所所長、三井物産戦略研究所所長、三井物産常務執行役員を歴任。主な著書に『日本再生の基軸 平成の晩鐘と令和の本質的課題』(2020年、岩波書店)、『戦後日本を生 きた世代は何を残すべきか われらの持つべき視界と覚悟』(佐高信共著、2019年、河出書房新社)、『ジェロントロジー宣言―「知の再武装」で100歳人生を生き抜く』(2018年、NHK出版新書)など多数。メディア出演も多数。