一人ひとりを幸せにするドラえもんをつくりたい!

Global Vision

フリーアナウンサー

阿部 智帆

「全脳アーキテクチャ若手の会」設立者・フェロー

大澤 正彦

その便利さや人間との親和性よりも、「未知なる怖さ」に目が向かいがちな人工知能。
そんな風潮に疑義を呈し、パッと明るく楽しい未来を予見させてくれる若き「ドラえもん研究者」には、それこそ四次元級の懐の深さが備わっていた。

この世に存在しないなら自分でつくるしかない

阿部 私はドラえもんが大好きで、大人になってからも映画を観て泣いてしまうことがあるくらいです。
大澤 よくわかります。また新たな魅力を発見したりして……。
阿部 ですよね。その「ドラえもんをつくる」が大澤さんの夢とのことですが、いつ頃からそのような志を?
大澤 具体的に動き始めたのは、夏休みにロボットセミナーへ通った小学4年頃ですけど、ドラえもんが好きとか、自分でつくりたいと思ったのは記憶をたどれないくらい幼い頃。だから「なんでドラえもんなの?」と質問されると、「どうしてご飯が好きなの?」と聞かれたみたいに返事に詰まってしまいます。
阿部 ドラえもんが本当にいたらいいなとか、友だちになってほしいと思う子はたくさんいても、自分でつくるとまで思った子は珍しいのではないかと……。
大澤 かもしれません。ただ、これほど自分を高ぶらせる存在がいつか現実になる日が来るなら、その瞬間に立ち会いたいし、できれば自分でつくりたいという感覚があったと思います。私の中ではずっと、ドラえもんをつくる人生とはこういうものかと、一つひとつ解きほぐしながら大人になってきた部分があります。
阿部 私が抱くドラえもんのイメージは、四次元ポケットからひみつ道具を取り出して、ピンチを切り抜けてくれたり、夢を叶えてくれたりします。大澤さんの中で、ドラえもんはどういった存在なのでしょう。
大澤 ずっと思い描いてきたのは、友だちのようなロボットですね。私にとって、現実の世界に、ドラえもんほど素敵な人工物は存在しません。だったら自分でつくるしかないと腹をくくってから、ドキドキ感やワクワク感に包まれっぱなしで……。
阿部 そう言いながらキラッと輝く瞳がとても印象的です。小学4年で最初につくったのはどんなロボットだったのですか。
大澤 手始めはコントローラーで動かして遊ぶタイプでした。ところが私は、つくるのは得意でも操縦が苦手だったので、自動で動くロボットにしようと。それで小学5、6年から中学までは電子工作にはまり、高校はコンピューターの学科に進んでプログラミングやソフトウェアの技術を身につけました。現在の研究はそれらの延長線上にある感じです。
阿部 その時期、世間はITバブルに沸いていましたから、遠い夢よりも身近な現実をつかみにいくような誘惑に駆られませんでしたか。
大澤 あ、結構ありました(笑)。高校では建築や機械の技術を駆使して友人の誕生日プレゼントをつくったし、大学では工学を離れて生命科学とかの異分野へ踏み出しそうになりました。でも私にはドラえもんという軸があったので、何をやっても結局はそこにつながる気がしていました。今、大学院では人工知能(AI)の研究がメインですが、神経科学(※1)や認知科学(※2)など他分野の知見も取り込んで、人間の知能のより本質的な部分を探ろうと試みているところです。

祖父の死、仲間たちの気遣いが人生の分岐点に

阿部 高校も大学の学部も、大澤さんは首席で卒業なさっています。もともと勉強が得意でいらしたのですか。
大澤 いや、全然できなかったんですよ。中学時代、部活の先生に「おまえは8割の力で頑張るような人生だな」と言われたことが頭から離れなくて、高校でも劣等生なりに楽しく過ごしていたある日、大好きだった祖父が急に亡くなってしまった。ああ、おじいちゃんに自分の輝く姿を一度も見せられなかったと猛反省して、もう「8割の力で生きる」はやめようと心に決めました。
阿部 身内との死別のショックで、向学心にスイッチが入ったと。
大澤 ええ。実はその頃、自分が楽をしたいがために友だちを集めた勉強会をやっていたのですが、登校もままならない私の携帯電話に、その仲間たちが目前に迫った試験対策の情報をこと細かに送ってくれました。これだけ親身に思ってくれる仲間がいるのはすごいことだなと。そういう人たちを大切にしながら本当の勉強がしたい。意識がガラリと変わったのは、そこからですね。
阿部 仲間たちと切磋琢磨していくうち、成績が1番になっていたという感じですか。
大澤 結果がたまたまそうなっただけで、大事なのは自分が得意な分野をみんなに教え、友人が得意なものは教えてもらう勉強会を高校卒業までやり通したことではないかと。その感覚を学べたからこそ、一人ひとりをすごく大切に思えるようになって、人生の大きな分岐点になったと思います。
阿部 そんな大澤さんが大学に入るや否や、パッタリ技術に触れることから離れてしまったとか。一体何が起きたのでしょう?
大澤 進学先の大学は理系一辺倒だった高校とは校風が真逆で、同じ工学系を修める場には見えなかった。私は勝手に、髭がモジャモジャの学生が研究室にこもる姿をイメージしていたのに、実際は勉強しつつもキャンパスライフを謳歌する級友ばかりで面食らいました。
阿部 そういう学生が主流を占め、髭モジャは希少かもしれません。
大澤 そこが肝心で、世の中の価値をまったく知らない人がつくったドラえもんを、世の中の人が本当に受け入れてくれるのかと、不安になりました。そこで、学部3年生までは普通の大学生をやろう、世の中の価値観をたくさん学ぼう、研究室にこもるのはその後だと即座に決めました。
阿部 普通の学生というと、授業の合間にバイトして、サークルにも通うような生活を送られたのですね。
大澤 塾の講師をかけ持ちし、食品販売のバイトに入れ込んで、やったこともないテニスサークルを見学に行ったり……(笑)。でも結局、児童ボランティアのサークルに行き着いたのが大収穫で、子どもたちを各地に訪ねては工作教室、料理教室、人形劇からサッカー教室まで何でもやりました。この3年間の経験が後々、AIや関連分野の研究に役立ち、ドラえもんづくりに収斂していったのです。

AIに支配されるか ドラえもんと過ごすか

阿部 お話の端々から、こうと決めたらブレない芯の強さがにじみ出ています。いよいよ学部4年で研究室に入り、胸の内に封印してあったドラえもんや学問への思いがどっと溢れ出たのではありませんか。
大澤 まさに一気呵成でしたね。そこで手がけた最初の研究は、やはり今でも思い入れがあります。
阿部 その研究で、電気・電子技術に関する国際団体のIEEE(※3)の日本支部が若手研究者を顕彰する賞を史上最年少で受賞されたとか?
大澤 ありがたいことに出だしから弾みがつきました。ドラえもんにつながる研究ならいくらでも続けられる勢いでした。
阿部 大澤さんのこれまでの生き方を通じて、とにかく問題点や課題の発見から、決断、実行に移すスピード感がすごすぎて圧倒されます。
大澤 研究に没頭するうちに不満もわいてきて、その一つが既存の「感情の工学研究」に対する違和感でした。例えば、グラフの横軸に快・不快、縦軸に興奮の度合いをとって、その時々の感情を交点で示し得るといった理論なのですが、感情を単純化して理解を進めようとか、工学的に実装しやすい形にしようという目的では本当に素晴らしい研究ですけれども、ドラえもんに搭載することを想像すると、やや単純化し過ぎだと思いませんか?
阿部 確かに少し違和感があるかも……。
大澤 どら焼きを食べて笑顔になるのは、あらかじめそうプログラムされているからでなく、食べてうれしかった記憶から喜びの感情が導かれる。そんなふうにしたくて見聞を広げたら、むしろ人間や生物を対象とする研究に解決への糸口がありました。型通りの工学研究では絶対にドラえもんにたどり着けないと悟った感じです。
阿部 AIの研究に、神経科学や認知科学とのコラボが欠かせないという理由がそこにあるのですね。
大澤 もう一つ、知能研究を目指すコミュニティでその頃、AIが人知を超えるシンギュラリティ(※4)が2045年に来るのではないかという予測が大きな波紋を呼びました。いずれ人類はAIに支配される運命にあるといった言説が広まって、そうしたディストピア的な世界観にも私としては疑義を呈したかった。
阿部 大澤さんが目指しているのは、ドラえもんと過ごす明るい未来……いわばAIで拓くユートピアですから、月とスッポンほどにイメージが異なりますね。
大澤 私よりはるかに年長の研究者たちが、30年後の未来に警鐘を鳴らすのを、ただ聞いているだけ……そうではなくて、来る2045年に自らが責任を持てるような動き方をしたい。それには私たちの世代が盛り上がらなければとの思いで、14年に立ち上げたのが「全脳アーキテクチャ若手の会」です。幸いにも、一緒にドラえもんをつくりましょうという呼びかけに応えて、AIの研究者を中心に多様なプロフィールを持つ人たちが参画してくれました。

一人ひとり違うから一緒にやる意味がある

阿部 その「全脳アーキテクチャ若手の会」の求心力がまたすごくて、すでに2000人規模の一大コミュニティに発展し、中学・高校生世代にまで浸透しているのだとか。
大澤 本当に顔ぶれが多彩で、研究者でも畑違いの人が大勢います。ほかにも冒険家に漫画家、ダンサー、お笑い芸人……と、あげていったらきりがないほどです。おもしろいのは、どんな立場の方にも、AIと共に歩む未来に貢献できると感じてもらえているようなのです。要因として、ドラえもんというキーワードが馴染みやすく、イメージしやすいために、コミュニティに入りやすかったことが大きいようですが、私たちがコミュニティ設立当初から主張していた「AIに関係ない人なんていない」というメッセージに共感してもらえているように感じます。
阿部 難しく考えなくても、かわいいドラえもんを真ん中に、みんなで明るい未来について語り合う、それだけで楽しいですね。
大澤 楽しいし、前向きになれます。ドラえもん観というのは一人ひとり違っていて、だからこそ、みんなで一緒にやる意味がある。十人十色のドラえもん像を持ち寄り、各々のアプローチでドラえもんを形づくると、各人の想像するレベルを超えた、愛すべき存在ができ上がっていく仕様になるわけです。
阿部 映画のドラえもんにも、みんなで力を合わせて困難に立ち向かう場面がよく出てきます。なんだか大澤さんご自身、ドラえもんの世界に生きているように思えてきました。
大澤 光栄です。もっとも私は小さい頃、メガネをかけていたので「のび太」と仲間内で呼ばれていましたが(笑)。
阿部 ドラえもんとのび太と、一人二役がお似合いかも(笑)。
大澤 いいですね、それ(笑)。いずれにせよ、私自身の幼いエゴに端を発したドラえもんづくりが、大勢の人たちの力を借りて遠くない未来に成就することで、一人ひとりを幸せにできるし、世界をよくできると信じています。いっそ自分は「ドラえもんをつくるために生きている」と言い切ってもいいです。
阿部 その強い信念と自負心が、きっと多くの賛同者を呼び寄せるのでしょう。大澤さんが当初目指したのは、いつも一緒にいてくれる友だちロボットですが、やはりポケットの中のひみつ道具も欠かせないと思います。
大澤 あくまで私はロボット担当なので、信頼できる仲間が未来のひみつ道具をつくってます。
阿部 何か一つ「あったらいいな」を実感できそうなひみつ道具をつくっているお仲間のことをご紹介いただけませんか。
大澤 例えば、仲間の一人が、がん細胞を光らせる研究をしているのですが、二人連れ立って歩いている時に、「将来、大澤さんがつくったドラえもんのポケットから、僕がつくったがんを光らせるスプレーを出すような世界が来たら素敵ですよね」と言われて……あ、これだなってピンときました。

大澤さんが主宰する「全脳アーキテクチャ若手の会」のメンバーと(写真提供:大澤正彦)。

人としりとり遊びをすることを目指したロボット。外見はあえて白一色にしている(写真提供:大澤正彦)。

ロボットの人工知能を子育ての手順で育てる

阿部 ここまで話が進んだら「ドラえもんに会えるのは、いつ?」と尋ねないわけにいきません。大澤さんの研究の進捗状況はいかがでしょう。
大澤 わかりやすい例では、ドラえもんに登場する「ミニドラ」のようなロボットをつくるプロジェクトが進行中です。ミニドラは、赤ちゃん言葉しか話せないのに、なぜかドラえもんたちと意思疎通が図れてしまう小型ロボットです。そこで小型ロボットが「ドラドラ……」とつたなくしゃべるだけで、人間を相手にしりとりができるという研究を進めています。
阿部 どうやって「ドラドラ」と言うだけでしりとりを?
大澤 例えば、私がまず「リンゴ」と言うと、ロボットが独特のイントネーションで「ドララ」と返す。それを聞いた人が「今、ゴリラと言ったよね」と直感的にわかってしまう。AIに心理学系の知見を加えることで、人とロボット間で原初的なコミュニケーションが成り立つことを示すのが、この研究のねらいです。この研究が発展して、ドラドラで完璧にコミュニケーションができれば、次の段階で「まま、ぱぱ、だいすき」と語彙を増やしていくのはそう難しくはありません。
阿部 それはもしかして、人間の赤ちゃんが言葉を覚えるプロセスを再現したもの……。
大澤 その通りです。私がこういう発想を持つに至った背景に、かつて児童ボランティアで子どもの知能の成長を目の当たりにした経験が生きていると思います。

阿部 ロボットに搭載したAIを、人間の子育てと同じ手順で育てていく。言い換えれば、そのロボットが成長してドラえもんになるわけですね。ドラえもんに会えるその時までの道のりがふっと目に浮かびました。
大澤 ただ、それが何年先になるかを特定することには、あまり意味はありません。私の定義は「ドラえもんとみんなが認めてくれたらドラえもん」と単純明快に思っています。ある人が認めないドラえもんは、その人にとってはまだドラえもんではない。感情を持って友だちになってくれたらよしとするか、四次元ポケットは譲れないという主張が勝るか、判断は一人ひとりに委ねるしかないと私は思っています。
阿部 AI研究というと無機質で機械的というイメージがあるかもしれませんが、今日のお話からは人肌の温もりが感じられました。ドラえもんの世界観に包まれて、AIやロボットと人間が共存していくための理想形を垣間見た気がいたします。
大澤 うれしいです。研究者にとっては、そうしたご理解が何よりの励みになります。

構成・文/内田 孝 写真/吉田 敬

KEYWORD

  1. ※1神経科学
    人間や生物の脳全体を対象とした研究領域。脳の研究の最先端に位置するほか、近年はコンピューター科学の視点からも注目を集めている。
  2. ※2認知科学
    人間の知的能力がどのように世界を認知するかを解明する研究領域。コンピューターを用いて人間の知的機能を再現するなど、ロボット研究においても重要度を増している。
  3. ※3IEEE
    正式名称は、Institute of Electrical and Electronics Engineersで、「アイ・トリプル・イー」と読む。電気、通信、電子、情報工学などの国際的な標準規格を認定する団体。身近なところでは、Wi-FiやUSBなどもこの団体の標準規格。
  4. ※4シンギュラリティ
    人工知能が人間の知能を超える技術的特異点。米国の未来学者レイ・カーツワイルが2005年の著書で提唱。2045年に到来すると予言し、賛否双方からの議論を呼んでいる。

PROFILE

大澤 正彦(おおさわ・まさひこ)

1993年、東京都出身。慶應義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程在学中。東京工業大学附属科学技術高校情報システム分野と、慶應義塾大学理工学部情報工学科をともに首席で卒業。2014年に「全脳アーキテクチャ若手の会」を設立。IEEE CIS Japan Chapter Young Researcher Award (最年少記録)をはじめ受賞歴多数。孫正義育英財団生。人工知能学会学生編集委員。日本認知科学会「認知科学若手の会」代表。日本学術振興会特別研究員。夢はドラえもんをつくること。

PROFILE

阿部 智帆(あべ・ちほ)

1988年、神奈川県生まれ。関東学院大学文学部卒業。2008年、読売巨人軍マスコットガール「ヴィーナス」の一員に。2016年から荒川ケーブル「あらまるNEXT」MC。2018年から日テレG+「GIANTS プレ・ポストゲームショー」リポーターほか様々なイベントのMCなどで活躍。趣味・特技はダンス、バトントワリング、スキューバダイビング、映画鑑賞など。