誰もが自由に遊べる木の作品を
つちやあゆみ

Venus Talk

木工アーティスト つちやあゆみ

なめらかな木の質感と澄んだ音が特徴の階段型の木琴や歯車を組み合わせたユニークな作品で注目されている新進気鋭の木工アーティスト・つちやあゆみさん。
その発想の源は? 作品に込める思いとは?
大人も子どもも夢中になる魅惑的な作品を生み出すつちやさんの素顔と、ものづくりの物語を追う。

昔から、ものづくりが好きだったというつちやあゆみさんが木工アーティストになるきっかけは大学の卒業制作だった。
「木製の歯車のカラクリをつくりましたが、木工は初めてだったので、必要な道具や、その購入方法、使い方などをネットで調べることからスタートしました」
動きがあるほうが楽しいと考え、歯車の動力でボールを運ぶ仕組みを考案。ボールがスロープを転がったり、ジャンプしたりする楽しい作品ができた。
「ただ、1つだけ心残りが……。目標の1つだった『音を奏でる』ことは実現できていなかったので、たまたま勧められたコンペに、上から球を転がすとメロディーを奏でる木琴の企画案で応募しました」
企画案は見事に審査を通過。階段型の木琴づくりが始まった。
「鍵盤に穴を開けてもちゃんと音が出るのか、音の調律はどうするのか。すべてが手探りで、試行錯誤の連続でした」
つちやさんは、一般的な木琴を参考に、鍵盤の長さや厚み、幅、穴の大きさを工夫し、音の調節方法を1つひとつ発見していった。
「私の鍵盤は簡単に入れ替えられるので、様々な曲を楽しめます。音を吸収する鍵盤をつくったことで、音楽に必要な間(休符)の表現ができた点も気に入っています」
発表以来、この作品は多くの人に愛されている。特に子どもは鍵盤を入れ替えたり、床に並べたり、積み上げたり、思い思いに遊ぶ。
「大人も子どもも自由に遊んでいるうちに自然にコミュニケーションが生まれる、その空間こそが私の作品だと思っています」
今後も自分がよいと思うものをつくりたいというつちやさん。やさしい木肌の響きを楽しむ、心が浮き立つような新作が待ち遠しい。

取材・文/ひだい ますみ 写真/竹見 脩吾

鍵盤に開ける穴の大きさを調節して、音の高低を微調整する。音はチューナーを使って確認している。
つちやさんが手づくりした木製の楽譜。音符の色と鍵盤(側面)の色が同じなので、楽譜が読めない小さな子でも、色を頼りに鍵盤を入れ替えられる。
巨大木琴「輪唱の〇」という作品。ボールを複数転がせば、輪唱のように音のハーモニーを楽しむことができる。同じサイズの作品を組み合わせることで、円型、S字型、しずく型など、様々な組み方ができる。

PROFILE

木工アーティスト
つちやあゆみ

1982年、栃木県生まれ。会社勤務を経て、2008年、多摩美術大学造形表現学部デザイン学科に入学、空間デザインを学ぶ。卒業後、歯車と木琴を主なモチーフとして、誰もが触れて楽しめるものを制作している。