琵琶に息づく古き良き伝統とものづくりの核心
ドリアーノ・スリス

GLOBAL EYE 日本の魅力

奈良時代、インドや中国を経て伝わったとされる琵琶。その後、日本独自に発展し、盲僧琵琶、平家琵琶、薩摩琵琶、筑前琵琶などが生み出された。
琵琶修復師のドリアーノ・スリスさんは、そんな日本の琵琶に惹かれ、45年にわたり、琵琶とともに歩んできた。
「最初の出会いはラジオでした。その音色を聞き、衝撃を受けました。ギターや他の管弦楽器とはまったく違う不思議な音色、新鮮でモダンな音色。インドのシタールと西洋の弦楽器の中間のような、何にも例えようがないユニークな音色。どんな楽器がこの音色を生むのかとドキドキしました」
その音色が忘れられず、当時日本でただ一人の筑前琵琶職人・吉塚元三郎さん(福岡県無形文化財)を訪ねて、弟子入り。以来、琵琶製作と修復を手掛けている。
師匠から学び、自ら琵琶の製作や修復に取り組む中で驚いたのは、日本のものづくりを支える道具の精巧さだ。
「琵琶は音の出る彫刻。それを可能にするかんなといい、のこぎりといい、日本の道具は世界一だと思います」
その道具について、師匠から大切なことを教わった。道具は武器ではない。だから道具を使って木材と闘おうとせず、むしろ道具を通じて木材を撫でるように慈しまねばならないと――。
「琵琶を見れば、伝統を受け継ぐ思い、ものづくりへの深い造詣、美の追求がわかります。それこそ西洋人が憧れた日本の精神でしょう」
日本文化を愛してやまないドリアーノさん。心配なのは、現代日本の利便性や合理性優先の風潮だという。
「日本人は、花鳥風月、身近な自然を愛してきました。お花見が良い例です。春の訪れを皆で寿ぎ、その喜びを分かち合う感性、命短い桜の花に思いを寄せる繊細さ……。そんな日本の美意識を再確認してほしいと願っています」
伝統と歴史、文化に、今こそ目を向けて――。日伊の文化の懸け橋・ドリアーノさんからの宿題である。

取材・文/ひだい ますみ 写真/竹見 脩吾

「単に音が出るだけでいいという“修理”ではなく、元の状態に戻す“修復”を心がけています」。技術を駆使して、細かな部分の再現、時代を感じさせる見た目にもこだわっている。

PROFILE

琵琶修復師・イタリア会館福岡館長
ドリアーノ・スリス

琵琶修復師、イタリア会館福岡館長。1947年、イタリア・サルデーニャ島生まれ。学生時代は、国立ローマサンタチェチリア音楽院でクラシックギターを専攻。1974年来日、福岡県在住。イタリア会館では、イタリア語教室の他、映画や音楽など日伊の文化交流イベントを開催している。