情報ネットワーク社会の本質とその未来
寺島 実郎

Global Headline

「つなげていく力」という本誌の特集に寄せて、情報ネットワーク社会を生きる我々が考慮すべきことについて考えておきたい。

思えば、平成元年にあたる1989年に、米国の軍事用ネットワークだったARPANET(アーパネット)が学術ネットワークとつながった。その後、一般人がアクセスできる現在のような商用利用が始まったのが93年だった。

軍事技術として開発されたインターネットが民間に開放された理由は、同じ89年にベルリンの壁が崩壊、東西冷戦が終結し、ソ連をはじめとする東側の軍事的脅威が大幅に低下したことによる。

まさに平成の30年間は冷戦後の混沌とした世界と、インターネットの時代だったといえる。このIT革命の時代を制したのはGAFA(ガーファ)と呼ばれるGoogle、Amazon、Facebook、Appleなどの米国企業だった。Apple以外の3社はベンチャーとして90年以降にスタートした新興企業だ。日本企業も米国企業と同様にIT革命に血道を上げたが、日本にはGAFAのような企業は生まれなかった。ここに、これからの情報ネットワーク社会を生き抜くための鍵がある。

日本ではIT関連企業として、プロバイダーや光通信などの回線業者、ネット通販やネットオークションなどのe‐ビジネス、そして半導体を使ったデバイスメーカーなどのIT企業が生まれたが、それらの企業はGAFAのように成功することはなかった。その違いは、GAFAが顧客や取引先のデータを取得するための「プラットフォーム」を支配し、そこで集めた膨大なビッグデータを活用して、さらなるビジネスをつくりあげるという「プラットフォーマー」だったことだ。

一方の日本企業は、高度成長期の工業生産力モデルの枠組みを脱することができず、ビッグデータのプラットフォームを握る構想に欠けていた。

情報技術の進化の方向もこの30年間で大きく変わった。IoT、クラウド、AI、ユビキタスなどの技術が生まれ、エネルギーも市民生活も企業経営も、あらゆる分野がデータを基本にした「データリズムの時代」となり、データを支配する人がすべてを制することになった。特に企業経営においては、それぞれのビジネスモデルをいかにエンジニアリングし進化させられるか、すなわちデータリズムの時代へのチャレンジに成功できるかどうかがこれからの企業にとってのサバイバルファクターとなる。

人とモノ、会社など、あらゆるものがネットでつながる世界では、情報ネットワーク社会の本質を見極め、それに対応する構想を描くことが必要で、それが日本の、そして日本企業の未来を決める。

(2019年5月20日取材)

PROFILE

寺島 実郎
てらしま・じつろう

一般財団法人日本総合研究所会長、多摩大学学長。1947年、北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、三井物産株式会社入社。調査部、業務部を経て、ブルッキングス研究所(在ワシントンDC)に出向。その後、米国三井物産ワシントン事務所所長、三井物産戦略研究所所長、三井物産常務執行役員を歴任。主な著書に『ジェロントロジー宣言―「知の再武装」で100歳人生を生き抜く』(2018年、NHK出版新書)、『ひとはなぜ戦争をするのか 脳力のレッスンV』(2018年、岩波書店)、『ユニオンジャックの矢 大英帝国のネットワーク戦略』(2017年、NHK出版)、『シルバー・デモクラシー ―戦後世代の覚悟と責任』(2017年、岩波新書)など多数。メディア出演も多数。