ラグビーのホイッスルよ、青空に響き渡れ!

匠の新世紀

有限会社小柴製作所
埼玉県ふじみ野市

高級感のある小柴製作所製のホイッスル。共鳴管のサイドが曲面仕上げのType Aと、平面のままのType Bの2種類がある。

本年9月、日本でラグビーのワールドカップが開催される。
「4年に一度じゃない。一生に一度だ。」という
そのキャッチコピーに胸を熱くした男たちがいる。
ラグビー用ホイッスルをつくろう!
その挑戦を取材した。

低音が特徴のラグビー用ホイッスル

有限会社小柴製作所 小柴一樹さん

「一生に一度しかない日本でのワールドカップですから、ラグビーを愛する者として、何か貢献したいじゃないですか」
こう話すのは、有限会社小柴製作所のベテラン社員の伊藤健司さん。
「いつもサクソフォン(略称「サックス」)やフルートなどの楽器をつくっているので、その技術を活かしてラグビー用のホイッスルをつくるのがいいんじゃないかと思って、社長に提案したんです」
ラグビーのホイッスルは、他の競技用に比べ、音が低いという特徴がある。ラグビーのレフリー用教本には、「音色は大きく(太く)、低~中音で軟らかいものが良い(甲高いものは不適当)」とあり、これは選手たちを興奮させないためと言われている。
小柴製作所は、1980年創業の金属加工メーカー。主に管楽器の金属製部品の溶接と研磨を担当し、年間8,000台近くの楽器を生産している。
伊藤さんは本業の傍ら、休日には小中学生と一緒にラグビーを楽しむラグビースクールの校長を務めている。本年9月に日本で開催されるラグビーワールドカップに向けて、ラグビー用のホイッスルをつくりたいと同社社長の小柴四郎さんに申し出たのが3年ほど前。当時、日本では英国製のものが販売されているのみで、国産品はなかった。

ユーザー本意の吹きやすいホイッスルを

メッキをかける前のホイッスル。すでにぴかぴかだが、ここまで研磨しないとメッキがきれいにのらない。
ホイッスルの主要な部品は2つ。これらを溶接し、研磨したのちに、メッキをかける。

社長の小柴四郎さんはその開発を息子の一樹さんに担当させた。一樹さんは開発が始まった当時を次のように語る。
「私はラグビーの経験もなければ、ラグビー用ホイッスルがどんなものかも知らなかったので、まず他社のホイッスルを分解することから始めました。主要部品は2つで、楽器でもよく使用される真鍮(銅と亜鉛の合金)製ということがわかり、これなら我々の楽器製造技術でできるのではないかと思いました」
一樹さんは、試作品を1つつくり、音を確かめては、また寸法を0.5mm変更して1つつくり確認するといったことを何度も繰り返した。吹き口の長さが0.1mm違うだけで音はまったく異なる。試作品の数は100個を超えたという。
「やっているうちに、何がいい音なのかわからなくなり、どのような方向性でいくのかと散々悩みました。結局、使う人(レフリー)にとって“吹き心地のいいホイッスル”にしようと決めました」
ラグビーのレフリーは、選手と一緒に走り、ボールのすぐそばでプレイを見ることが基本。そのため、1試合で7km以上も走ると言われ、その疲労は相当なものだ。吹き込んだ息が無駄なく音になり、吹きやすく疲れないホイッスルは多くのレフリーに喜ばれるはずだ。
こうして、少ない息でも大きな音、そしてラグビーらしい低い音を奏でる、吹き心地のいいホイッスルをつくりあげ、2017年9月から販売を開始した。

小さくとも楽器と同じ高級感

ラグビー用ホイッスルをつくることを社長に進言した伊藤健司さん。川越ラグビースクールの校長も務める。

小柴製作所のホイッスルは、同社が楽器の製造で培ってきた技術でつくられている。真鍮の部品をハンダで溶接、ぴかぴかになるまで研磨したものに、銅メッキをかけ、その上にニッケルメッキ、さらに安全で環境にも優しい三価クロムメッキをかけるという3層構造で、高級感のある仕上がりにしている。鏡面仕上げの厚手のメッキが手のひらに吸い付くようなしっとり感を醸し出している。
一樹さんは「楽器と同じように、美術品としても価値のあるもの、持っていてうれしいものにしたかった」と、その思いを語る。
同社のホイッスルは発売からの1年半で1,000個以上が販売された。ラグビーのプロリーグであるトップリーグや日本選手権などでも笛を吹くトップクラスのレフリーの中にも愛用者がおり、「1試合吹いても疲れない」「吹きやすい」と評価は高い。また、ラグビーのレフリーだけでなく、学校の体育の先生や鉄道の車掌などからの問い合わせもあるという。
一樹さんは、真鍮以外の金属や、プラスチックなどの素材を使った製品の開発にも挑戦してみたいと考えているが、ラグビーの市場はけっして大きくはなく、どうしても本業が優先。「調子に乗らず、図に乗らず、いいものをつくり続けたい」と謙虚に話す。そして、以前は興味のなかったラグビーの試合観戦を楽しむようになったそうだ。ワールドカップの試合もとても楽しみにしているという。
ラグビーワールドカップ日本大会は、9月20日の日本対ロシア戦を皮切りに11月2日の決勝まで、全48試合が行われる。選手たちの活躍はもちろんのこと、各国レフリーたちの吹くホイッスルにも注目だ。

アルトサックスの部品を1つ1つ溶接する。ハンダの量を一定にする繊細な作業だ。
フルートは、管の中まで1本1本研磨する。
バフ研磨の作業。
複雑な形状の部品であっても、すべての面が均等に研磨される。

取材・文/豊岡 昭彦 写真/斎藤 泉

PROFILE

有限会社小柴製作所

1980年創業の金属加工メーカー。真鍮やアルミ、銅などの溶接、バフ研磨を得意とする。サクソフォンやフルートなどの管楽器の部品を中心に製造している。