ポスト平成時代におけるエンジニアリング力の重要性

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平成最後の年にあたり、平成をふり返りつつ今後の日本の在り方について考察しておきたい。私がこれからの日本にとって重要と考えるポイントは「エンジニアリング力の再構築」だ。エンジニアリング力とは単なる技術だけではなく、個別の要素を組み合わせて大きな構想を実現する力と言ってもよい。
先日、私は会議のため香港を訪ねたが、同地では今、香港とマカオ、深圳、広州の4つの都市の一体的な発展を目指す「大湾区計画」が進行中だ。この4都市が橋梁と地下高速道によって結ばれ、車で行き来できるのだ。「一帯一路」に見られるような中国の壮大な発想力、そしてその個別のプロジェクトが1つずつ実現されていることには驚きを禁じ得ない。
翻って日本の平成の30年間を見ると、平成最初の10年は、昭和の高度成長の残影を引きずっていた時期で、大きなプロジェクトが実行された時代だった。例えば、本州と四国を結ぶ3つの架橋プロジェクトや東京湾アクアラインの建設は、この時期に行われた。
だが、その後の20年間には大きなプロジェクトがほとんどなかったと言っていい。その理由としては、バブル崩壊があったことも事実だが、社会政策が金融に傾斜した時代だったことが大きい。
平成元年(1989年)は、ベルリンの壁が崩壊した年であり、その後東西ドイツの統一、ソビエト連邦の消滅と続き、平成はまさに「冷戦後」だった。この時代に台頭したのが新自由主義であり、米国を中心に金融自由化が推し進められた結果、日本でも時代の課題を解決するための方策が金融ばかりに傾斜し、結果としてマネーゲームに代表される「金融資本主義の肥大化」に結びついた。
平成元年には、日本の6分の1だった中国のGDPは、日本を超え、今や3倍に迫ろうとしている。米中摩擦によって中国経済は一時的に悪化するかもしれないが、長い目で見れば中国はこれからも発展し続けるだろう。
日本はGDPで中国に抜かれたからといって悲観する必要はない。日本には世界と伍していけるポテンシャルのある技術基盤が多数存在している。例えば、デンソーがつくった「QRコード」や、ソニーの「非接触ICカード技術」、東レの「吸湿発熱繊維」などの技術だ。
こうした技術をもう一度見直し、体系的に組み合わせて、大きな構想のもとにプロジェクトを実現していくのが「エンジニアリング力」だ。これまでにない工業生産モデルをつくりあげ、農業などの分野で応用することで食料自給率を上げるなど、日本の国力を大きく変えることも可能なはずだ。それを実現するために知恵を絞ることが求められる。
(2019年2月19日取材)

PROFILE

寺島 実郎
てらしま・じつろう

一般財団法人日本総合研究所会長、多摩大学学長。1947年、北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、三井物産株式会社入社。調査部、業務部を経て、ブルッキングス研究所(在ワシントンDC)に出向。その後、米国三井物産ワシントン事務所所長、三井物産戦略研究所所長、三井物産常務執行役員を歴任。主な著書に『日本再生の基軸 平成の晩鐘と令和の本質的課題』(2020年、岩波書店)、『戦後日本を生 きた世代は何を残すべきか われらの持つべき視界と覚悟』(佐高信共著、2019年、河出書房新社)、『ジェロントロジー宣言―「知の再武装」で100歳人生を生き抜く』(2018年、NHK出版新書)など多数。メディア出演も多数。