伝統の絞り技術で時代のニーズに応える
大須賀 彩

Venus Talk

括り職人 大須賀 彩

400余年の伝統を誇る有松・鳴海絞(ありまつなるみしぼり)。
その華やかで優美な柄の着物は、江戸時代の大奥で珍重され今なお、目の肥えた着物ファンを惹きつける。
そんな有松・鳴海絞の次代を担う括(くく)り職人・大須賀彩さんは現代的な感性を生かした新商品のプロデュースも手掛ける。
「日々是精進」と奮闘する姿とこれからの夢を追う。

この柄は、どうやって生み出されたのだろう。大学時代、ファッションを学んだ大須賀さんは有松・鳴海絞を見て衝撃を受けた。
「一目見て『私もやりたい』と思いました。絞り染めの技法は、国内では京都や大分、海外では中国やインドにもありますが、これほど多様な柄と表現技法が存在するのは、有松・鳴海絞だけ。とても魅力を感じました」
大学院を経て、大学で教鞭をとりつつ、有松・鳴海絞の一工程である「括り」を担当する「括り職人」を目指して弟子入り。職人の道を歩み始めた。
「絞り染めは、糸で括った布を染めて柄を出します。布の折りたたみ方や糸の括り方によって、100種類もの柄が生まれるのです」
技術を学ぶ一方、問屋さんが経営する店で販売も経験した。
「お客様から『伝統的な紺色ではなく、明るいピンクや黄色のストールがほしい』、『水玉模様で、もっとシックなデザインはないの?』という声を聞き、それを参考に柄や色を工夫しました」
加工賃や労働時間など職人独特の環境に、心が折れそうになったこともある。それでも、自分に何ができるか、有松・鳴海絞で何ができるか、答えを模索し続ける。
「若い職人を増やすためにも若手初の伝統工芸士を目指しています。また、『括り』だけを担当するのではなく、デザインから提案し、お客様のニーズに応える商品をつくりたいと思っています」
現在、若手女性職人のグループ「凛九」に参加し、オリジナル商品づくりに力を注ぐ一方、自身の工房・店舗の立ち上げも目指している。丹念に糸を括るその手から、次々と夢が立ち昇る。そのひたむきな姿に、夢の実現を願わずにはいられない。

取材・文/ひだい ますみ 写真/竹見 脩吾

「バレンタインデー用の包み布とハンカチを兼ねた作品。紺色の生地の真ん中にワンポイントのハート柄(しかも底の部分)なら、男性も女性も、照れずにチョコレートを受け渡しできるはず。
糸やハサミ、糸巻など括りに使う愛用の道具。「昔ながらの道具と技術を受け継ぎながら、新しいものを創造していきたいです」と大須賀さん。
丁寧に、精密に糸を括っていく。括った糸の間隔によって、染め出される模様は多様になる。「昔は白地が少ない柄がよいとされていましたが、あえて白を残すデザインもありだと思います」。

PROFILE

括り職人 大須賀 彩

おおすか あや
1986年、愛知県生まれ。職人の道を目指し、第24回有松絞まつりで作品を発表し最優秀賞を受賞するなど、数々の賞を受賞。若手作家グループ「ist」を結成。また、和紙とコラボレーションしたバッグ製作など、伝統工芸の新しい在り方を模索している。