「用の美」を尊ぶ日本伝統の器 その深い知恵と精神を広めたい
ユアン・クレイグ

GLOBAL EYE 日本の魅力

春の到来を告げる山菜料理、涼をもたらす夏の冷菜、秋冬の根野菜で滋養をつける鍋料理。それぞれにふさわしい器は、目でも味わう楽しみをもたらし、食事の時間を豊かに彩ってくれる。
日本では古来、器は食文化の一端を担ってきた。そんな日本の器とそこに根付く深い精神文化に魅了されたのが、陶芸家ユアン・クレイグさんである。大学時代に、日本の民藝運動(※)を知ったユアンさん。その生活哲学ともいうべき思想に心酔し来日。現在、自然豊かな土地で、大きな梁、土間、いろりなど昔ながらの暮らしが息づく古民家に住まい、陶芸家として仕事に注力している。
「民藝運動では『用の美』、すなわち『暮らしの中で使う日用品の中に美がある』と考えました。日常の中に美があると、暮らし自体も『美』となり、人生も豊かになります。実生活で使うものに美を求める姿勢は、本当に素晴らしいと思います」
ユアンさんはつくり手として、美だけでなく機能性も追求する。師匠・島岡達三氏から、こんな教えを受けたからだ。
「器の本来の目的は、食べ物を入れること。だから、器にとって一番大切なのは内側。器をつくる時には内側を整えるよう、意識しなさい」
器を使う人の使いやすさや、最終的に器に盛られた料理との対話を想定した器づくり。使いやすく美しい器は、一つひとつのプロセスを丁寧に大事に仕事する姿勢から生み出されることも学んだ。ユアンさんは、そうした日本の陶芸、「用の美」が宿る器の魅力をもっと知ってもらいたいと願う。
「器を選ぶ時は、実際に手に取り、煮物やおひたしを盛りつけたらどうだろうと、想像してみてほしい。すると、大切に使い続けたいと思える器がきっと見つかるでしょう」
日本的な暮らしを営む陶芸家が気づかせてくれた器の魅力。それは、利便性に偏りがちな現代の暮らしを見直すチャンスなのかもしれない。

取材・文/ひだい ますみ 写真/竹見 脩吾

皿、急須、お銚子とおちょこ、コーヒーカップなど、工房にあるミニギャラリーには、生活を彩る道具が展示・販売されている。陽だまりのような、心温まるほのかなオレンジ色が特徴。

PROFILE

陶芸家
ユアン・クレイグ

1964年、オーストラリア生まれ。14歳で陶芸に出会い、1985年、ベンディゴ大学(現ラトローブ大学)陶芸デザイン科卒業後、自身の工房を設け、独立。1990年、来日。人間国宝・島岡達三に弟子入りし、1994年、栃木県益子町に薪窯を築く。2011年、群馬県みなかみ町に転居、2012年、薪窯を築き、現在に至る。