今、注目すべきロシア・ファクターと日本のエネルギー依存度
寺島 実郎

Global Headline

5月7日、ロシアのプーチン大統領が4期目の就任式を行った。ロシア大統領の任期は6年なので、首相だった時期も含めると四半世紀を超えてロシアを統治することになる。
プーチンが初めて大統領に就任したのはソ連崩壊から9年後の2000年、ロシア経済が最悪の状態の中での登場だった。同年7月に開催された沖縄サミット(第26回主要国首脳会議、G8)に参加したプーチン大統領は無名の存在だったが、その後ロシア経済の立て直しに成功、8年後に任期を終えて、メドベージェフに大統領の座を譲った時には、国際社会のセンターラインにいたといってよい。。
このロシア経済の復活は、原油・天然ガスなどの豊富なエネルギー資源の輸出によるものだ。その背景にはプーチン大統領によるエネルギー産業の国有化という政策に加え、当時の1バーレル130ドルを超えるような原油価格の高騰があったことも見逃せない。
このエネルギー価格高騰の一因は、01年に起こった9.11米国同時多発テロと、その後のイラク戦争によって中東が不安定化したことが大きく影響した。
エネルギー価格がロシアの国力に影響することは今も変わらず、現在もロシアの国力の約半分はエネルギー資源によるとの説もあるくらいだ。
周知のように、ロシアは14年のウクライナで起こった騒乱に乗じて、クリミア半島を併合。ロシアを除くG7は直ちにこれを非難し、ロシアに対し経済制裁を行った。日本もこれに同調、経済制裁を行っているが、ここで注目すべきは、ロシアと向き合う日本の立ち位置だ。
日本は、エネルギーの中東依存度を減らしエネルギーの調達先を多角化する意図から、ロシアから原油や天然ガスを輸入している。その量は年々増加し、15年には日本が輸入する化石燃料総額の8.7%(原油の8.9%、天然ガスの8.6%、石炭の8.3%)をロシアに依存するまでになっていた。このことに危機感を抱いた米国オバマ政権は、それまで輸出を禁止していたシェールガス・シェールオイルの日本への輸出を解禁。17年にはロシアからの天然ガスが総輸入量の8%なのに対し、米国からの天然ガスなどの液化ガスが9%まで増加した。ロシアと米国が争い、米ロの2国合計で20%に迫るまでになってきているのだ。こうした状況に、欧米諸国からは日本のロシア制裁に対する本気度に懸念や猜疑心も出始めている。
北方四島の帰属問題を抱える日本は、ユーラシアの地政学を引っ張り続けるプーチン大統領の動きをこれからも注視し、今後ロシアとどうつきあっていくのかを真摯に考えてゆかねばならない。
(2018年5月24日取材)

PROFILE

寺島 実郎
てらしま・じつろう

一般財団法人日本総合研究所会長、多摩大学学長。1947年、北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、三井物産株式会社入社。調査部、業務部を経て、ブルッキングス研究所(在ワシントンDC)に出向。その後、米国三井物産ワシントン事務所所長、三井物産戦略研究所所長、三井物産常務執行役員を歴任。主な著書に『ひとはなぜ戦争をするのか 脳力のレッスンV』(2018年、岩波書店)、『ユニオンジャックの矢 大英帝国のネットワーク戦略』(2017年、NHK出版)、『シルバー・デモクラシー―戦後世代の覚悟と責任』(2017年、岩波新書)など多数。
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