落語界から幅広い芸の世界へ!
林家 扇

Venus Talk

落語家 林家 扇

北海道初の女性落語家であり、現在最年少の女性二ツ目として注目を浴びている林家扇さん。
その名の通り、末広がりにパッと開く扇のような明るく元気な話芸で、笑いの花を咲かせている。
落語との出会い、林家木久扇師匠とのエピソード、そして芸の道に奮闘する現在とこれからの夢を追う。

林家扇さんが落語に興味を持ったのは高校生の頃。後に師匠となる林家木久扇氏の落語を聞いたのがきっかけだった。
「落語家は、全国津々浦々、こんな北海道の田舎までまわるんだな、おもしろそうな仕事だなと思いました。いろいろ調べているうちに、落語家になりたいと思うようになり、師匠に手紙を書きました」
その後、師匠から、札幌での落語会に誘われた。挨拶しようと会場を訪れると、「売ってきて」といきなりラーメンを渡された。
「訳がわからないまま、とにかく声を張り上げ、一生懸命ラーメンを売っていると、師匠が『あの子は、ラーメンを売るのもうまいし、お釣りの勘定も早いから、弟子に取ろう』と……。実は、それは、弟子を取る前に必ずするテストだったと後に知りました」
高校卒業後、落語界へ。最初は、下着姿で楽屋をウロウロする師匠や先輩たちに呆然とした。マナーや礼儀を厳しく躾けられ、苦労した時期もある。でも、自分で決めた道だからと、精進を重ねた。その甲斐あって、女性二ツ目に昇進。現在、日本各地で開かれる落語会のほか、学校寄席にもよく出かけ、多くのファンに落語による豊かなひとときを届けている。
「落語は、落語家の表情とかしぐさによって、そこにないものを浮かび上がらせて“見せる”芸です。そんな想像の世界をゆったりと味わってほしいと思います」
好きな噺は、左甚五郎(※江戸期の彫刻師)が登場する「ねずみ」。今後は、新作落語のほか、ナレーションや芝居にも挑戦したいと夢を膨らませている。
活動の幅が広がれば、落語の芸にもさらに磨きがかかるだろう。朗らかな笑い噺か、涙をそそる人情噺か。高座で扇さんが描く「見えぬもの」を存分に味わいたい。

取材・文/ひだい ますみ 写真/竹見 脩吾

「三遊亭司の真打昇進祝い」として配られた、名前入りの風呂敷を愛用。 落語家同士の交流は盛んで、扇さんも一文字の名前繋がりの会や女性が集結する会などに参加している。
師匠・林家木久扇師匠のオリジナルイラストを染めた手ぬぐい。「師匠からは、『好きなことをどんどんやりなさい』と言われています。師匠や先輩であるきく姫姉さんのように、様々な活動に挑戦したいです」と扇さん。
高座用の座布団、手ぬぐい、扇子は、大切な商売道具の3 点セット。これらと毛せんを携えて、全国を巡る。

PROFILE

落語家 林家 扇

はやしや せん
1990年、北海道生まれ。2008年、林家木久扇師匠に入門。同年10月、前座となる。2013年、二ツ目に昇進。現在、最年少の女性二ツ目として、様々な落語会で活躍中