世界を席巻するITビッグ5とデジタルエコノミーの光と影
寺島 実郎

Global Headline

最近、米国メディアでしばしば耳にする言葉に、「FAGA(ファーガ)」がある。「FAGA」とは、IT業界の巨人となったFacebook、Apple、Google、Amazonのことで、これにMicrosoftを加えて、「FAGA+M」と表現されることもある。
このIT業界のビッグ5の時価総額の合計は約3.4兆ドル(2018年2月22日現在)、日本円では約370兆円に達する。これをものづくり国家・日本の代表的な企業と比較してみると、トヨタ自動車株式会社が約23兆円(0.2兆ドル)、株式会社日立製作所が約4兆円(0.04兆ドル)だ。さらに全世界のGDPが約80兆ドルだから、この5社だけで全世界GDPの20分の1に迫るわけで、その巨大さがわかる。
アップルとマイクロソフトは1970年代の創業、ほかの3社は90年代以降に創業した会社で、この20年ほどの間に世界有数の企業にまで急成長したが、もとはと言えば、ガレージや倉庫からスタートしたベンチャー企業だ。
こうした企業がここまで成長できた背景には、これらを支援したファンドなどの金融の力があったのは言うまでもないが、オープンイノベーションによって、社外のテクノロジーを次々に吸収するとともに、M&Aによって後続のベンチャー企業を次々に買収してきたことにも注目しておきたい。その数は21世紀になってからの17年間で5社合計で約600社に上り、米国のベンチャー起業者にとっては、ビッグ5に買収されることが株式公開以外の“出口”のひとつにもなっているのだ。
こうした成功事例がロールモデルとなり、米国ではアイデアがあれば新しい事業にチャレンジできるという環境、ある種の「エコシステム(生態系)」ができあがっている。こうしたシステムがあるからこそ、米国では次から次へと新しいベンチャーが立ち上がってくることができるのだ。
このような光の部分がある一方で、ビッグ5の支配がますます強力になり、「デジタルディクテーターシップ(デジタル専制)」とでも言えるような状況が生まれている。データを持つ者の一人勝ちという状況が生まれており、自由な競争を阻害する可能性が高くなっている。これをいかに民主的な形で制御していくかということも大きな課題だ。さらに、起業した途端にファンドがお金を付けてしまい、事業的に成功する前に、大企業になってしまうような例も出始めている。
我々は否が応でもデジタルエコノミーの時代に生きていかねばならないが、誰もが容易に起業できるという光の部分だけでなく、その影にも注目していかなければならない。
(2018年2月23日取材)

PROFILE

寺島 実郎
てらしま・じつろう

一般財団法人日本総合研究所会長、多摩大学学長。1947年、北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、三井物産株式会社入社。調査部、業務部を経て、ブルッキングス研究所(在ワシントンDC)に出向。その後、米国三井物産ワシントン事務所所長、三井物産戦略研究所所長、三井物産常務執行役員を歴任。主な著書に『ひとはなぜ戦争をするのか 脳力のレッスンV』(2018年、岩波書店)、『ユニオンジャックの矢 大英帝国のネットワーク戦略』(2017年、NHK出版)、『シルバー・デモクラシー―戦後世代の覚悟と責任』(2017年、岩波新書)など多数。「報道ライブ INsideOUT 寺島実郎の未来先見塾~週刊寺島文庫~」(BS11、毎週金曜日夜20:59~)に出演中です。