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Project Story

20年後の笑顔を目指して

プロジェクト概要

J-POWERグループでは今後のさらなる成長に向けて中期経営計画を策定している。純国産CO₂フリーエネルギーのトップランナーであるJ-POWERは、再生可能エネルギーのさらなる拡大を重要戦略の一つとして位置付けている。2025年度までに150万kW規模の出力増(2017年度比)を目指し、全社が一つになって大きな目標に向かっている中、くずまき第二風力発電所も新たな再生可能エネルギーの電源として期待されている。

J-POWER最大クラスの風力発電。

J-POWER最大クラスの風力発電。

岩手県盛岡市から車でおよそ1時間。標高1,000mを超え、春から秋にかけては緑豊かな放牧地でもあるこの地に、J-POWERの風車サイトはある。既存の設備は、「グリーンパワーくずまき風力発電所」の風車12基、出力21,000kW。2003年12月に運転開始してからおよそ16年、既設の傍らに新しい発電所「くずまき第二風力発電所」が稼働しようとしている。その規模は直線距離にしておよそ10km、22基の風車が連なり、合計出力は44,600kWと、既存風力発電所と比較しておよそ倍。この二つを合算するとJ-POWERでも最大クラスのウインドファームが誕生する。

この新たなウインドファームの工事が佳境を迎えた2019年4月、一人の社員が最終工程である電気・機械の監理者として葛巻に赴任した。阿部雅浩、2005年に入社し、全国各地の水力発電所のエンジニアとして経験を積み、その後は国際営業部で海外の水力発電事業に携わってきた人物である。実は阿部にとってこの仕事は、大きな想いが詰まった仕事でもあった。

「風力事業部に所属する直前の2017年5月まで、国際営業部の一員としてベトナムで水力発電所建設のコンサルティング事業に携わっていました。しかしそこでは、思い描くように立ち回れずトラブルの日々。先輩方の足を引っ張るばかりで、自分の力不足を強く実感させられた現場でした。自分にはエンジニアとしての適性が無いのではないか…。風力発電のプロジェクトは、心が折れかかっていた時にいただいた話だったんです。」

厳格な審査にいかに対応するか。

厳格な審査にいかに対応するか。

阿部が風力事業部に配属になってから葛巻に駐在するまでの動きを整理しておきたい。2017年7月に配属になったあと、まずは本店での業務が中心となった。監督官庁への発電所建設工事計画説明・採用風車の建設地点適合状況説明といった許認可対応など、いわゆる建設に着工するまでの下準備である。特に風力発電設備は近年増えてきており、中には、風車が転倒するといった事故やトラブルも報告されている。そのため、許認可制度などが状況に合わせて変化している。

「くずまき第二風力発電所も、厳格な審査に対して、詳細な工事計画を提出する必要がありました。審査制度は従来から厳格な内容となり、今までの通例が通じない大変な部分もありましたが、厳格化は風力事業の健全性を高めることにつながります。これらは風力業界への期待であると理解して、丁寧に対応しました。」

そして、すべての風車について許可が下りたのが2019年4月。阿部が葛巻に駐在になったのは、現場工事が佳境に差し掛かった頃である。

分割発注で求められる確かな知識と冷静な視点。

「土木・送電線・変電・配電・風車設備工事という形で一つの発電所建設工事が分割されています。分割されているということは、工事と工事の間を誰かが取り持つ必要があります。系統連系予定日から逆算して変電設備工事はいつまでに終わらせないといけない、風車設備工事の進捗に呼応した配電設備の計画といった、スケジュールの調整を行わなくてはいけません。送電線工事の前倒し完了に伴う全体工程の前倒し調整や、土木工事中の既設埋設ケーブル判明によるケーブル移設など、変化は常に起こりますので、ゴールを見誤らないよう、状況に合わせた的確な判断が求められます。また、それぞれ工事を受注している工事会社にはそれぞれの作業の進め方やペースがあり、時には工事会社間でぶつかることもありますので、その間を取り持って、お互いに納得できるようなベストな方法を調整していくことも、我々の仕事になります。」

あくまでも目的は、信頼性のある発電所を予定通りに完成させること。J-POWERの使命を背負う阿部には、いかなる理由があっても譲れない一線があり、時には非情とも言える判断を下さなければならないときもある。そのために、工事受注会社に納得してもらうだけの根拠を伴った確かな知識や冷静な視点、そしてスピード感が求められ、自身も常に学んでおかなければならない。

風力発電に求められるのは瞬発力。

風力発電に求められるのは瞬発力。

風力発電の作業において、阿部がこれまで従事していた水力発電と決定的に異なる点がある。それが屋外作業だ。最大の敵は風などの“気象条件”である。電気作業において求められる品質はどの発電所においても変わらないが、風力発電は風が吹く場所に作られているため、粉塵や土煙などによって設備が影響を受けやすいのである。

「実は風力事業部に異動になるまでは、風力建設は水力建設と比較して半完成品を組み立てるだけというイメージがあり、建設工事中にトラブルが発生するイメージが湧きませんでした。しかし状況が違いました。これまでやってきた水力は建物の中で作業が実施でき、ある程度自分たちのペースで工事を進めることができる部分もありました。風力発電所の場合は、そもそも電気作業のスタートラインに立つことが難しい。たとえば電気設備の健全性を確認する試験でも、『風が強い』『雨が降ってきた』『湿度が高い』『雷雲が接近中』など、条件が悪いと実施できないのです。」

風況の良い現場という条件が、作業者にとっては逆風となり予定通りに事が進まないことも多々ある。そんな中でも、タイミングがきた時にはすぐに作業できる準備もしておかなければならない。

「風力事業には瞬発力が求められると思います。気象条件はもちろんですが、風力事業を取り巻く環境は、随時変更となる可能性があります。そうした変化に柔軟に対応していかなければならない。そういう意味での瞬発力と言えばいいでしょうか。」

絶縁耐力試験で現場の全員の心が一つに。

運転開始を目前に控えた工事の最終段階で、今までにない緊張感を味わうような出来事に、阿部はぶつかっていた。絶縁耐力試験である。この試験は、組み立てが終わった風車設備の電気回路に通常より高い電圧をかけて回路の健全性を確認する試験である。それこそ、前述したような雨風や土埃などに晒されると、絶縁破壊を起こして試験に失敗してしまう。度重なる工程見直しにより雪の積もる冬が迫っているが、試験完了期日を逃してしまうと、次工程に控える配電ケーブル接続作業を実施できる環境温度条件を満たせなくなる。最悪の場合、厳しい寒さを迎えて風車内が凍結してしまい、これまで苦労して組み立ててきたものが、ただのオブジェと化してしまう。そんな状況まで追い込まれていた。

「絶縁耐力試験の終盤は10月初旬でしたが岩手山では初雪が観測されていたんです。今までの度重なる強風や降雨から、環境はどんどん厳しくなる。風車メーカーからは風速10m以下、湿度90%以下という試験環境が提示されていたため、メーカー担当者の一部には諦め気味の雰囲気が漂い始めていました。私はどうすれば安全に試験を実施できるかに集中して、現場で出来る対策を関係者と打合せをし、試験に臨みました。すでに作業環境を確保するためのビニール小屋やテントは用意されていましたが、加えて試験担当者に除湿機を用意してもらい、必死の思いで試験ができるまでの湿度に下げることをクリア。そうしたら、今度は雨除けに使っていたテントが吹き飛ばされそうになるほどの強風が吹き始めたんです。やっぱりだめだという諦めの雰囲気がまた現場に漂い始めたとき、ふと思い立ったのが、土木工事の大型ダンプです。無理を承知で土木工事の担当者に事情を話してお願いをすると、作業の手を止めありったけのダンプを風除けとして持ってきて、現場を囲んでくれたんです。電気と土木というのは専門性の違いからすれ違う時もあるものですが、元々はいい発電所を作ろうと集まった仲間同士。二つ返事で協力してもらいました。」

土木工事の担当者の協力もあり、試験条件はクリアできたが、ここまでは試験環境が整ったに過ぎない。肝心なのは、ここからの本番。絶縁耐力試験に合格するかである。33kV回路に43.125kVという通常より高い試験電圧をかけ続けるという試験であり、失敗するときは試験電圧に到達する手前で絶縁破壊が発生する。

「10kV、20kV、30kV、40kV…印加されている現在の電圧が読み上げられます。作業者が固唾を呑んで見守る中、43.125kV到達!となりますが、そこで終わりではありません。そこから10分間、異常がないことを確認します。とにかく長かった。そして、それをクリアして電圧を落としていくまでの数分間、試験器の電源をOFFした後の設備点検、すべての関係者が祈るように下を向いていました。すべてに異常がなく、私が検査の責任者として『試験異常なし!合格!!』と叫んだときは、現場が一つになった瞬間。現場に笑顔が戻り、全員で喜びを分かち合いました。」

大きな山場は越えたが、あくまで全体の一部。完成までの作業はまだ残っている。まだまだ安心はできないと阿部は改めて気を引き締める。

すべての人に誇れる仕事をしたい。

くずまき第二風力発電所の運転期間は20年を予定している。事故なく安定して運転されることはもちろん、完成後にメンテナンスする人も含め、プロジェクトに関わるすべての人に、自信を持って引き継げる風力発電所を作り上げたいと考えている。

「建設工事は、20年続くプロジェクトの準備期間の一部だと思っています。リレーのように、与えられた役割の中でバトンを繋ぎ20年後のゴールを関係者全員が笑顔で迎えることができるよう、対応していきたいと思います。」

阿部 雅浩
阿部 雅浩
風力事業部 技術室(当時)
工学部 電気電子工学科
2005年卒業

2005年に電気・通信職として入社。水力発電・変電部門に配属となり、水力発電所で運転やメンテナンスを経験。米国研修、海外水力発電所建設を経て、2017年よりくずまき第二風力発電所の建設に従事する。