産業の現場力が試される技能五輪国際大会に光を
寺島 実郎
Global Headline
年頭にあたり、2024年をふり返った時に大変残念なことがある。2024年はパリで開催されたオリンピック・パラリンピックでの過去最多のメダル獲得(パラリンピックは過去2番目)をはじめ、メジャーリーグ大谷翔平選手を筆頭に若いアスリートたちの活躍にスポットライトが当たった。大変喜ばしいことであったが、9月にフランス・リヨンで開催された第47回技能五輪国際大会にて各部門で出場した若手技能者について、テレビや新聞などで同じように大きく取り上げるような報道はされていなかった。
技能五輪国際大会は、参加各国における職業訓練の振興と技能水準の向上、青年技能者の国際交流、親善を図る目的で、1950年から原則2年に1度開催されている。「原則22歳以下」という年齢制限のある大会で、オリパラに参加するアスリートと同年代の若者たちが産業技術で競い合う。日本も1962年第11回大会から参加し、優秀な成績を収めてきた。
産業技術での競争というと、旋盤工や自動車塗装などが思い浮かぶが、それらの競技ももちろんあるものの、今やサイバーセキュリティやホテルレセプション、洋菓子製造、看護/介護など、60近くの競技職種がある。つまり、産業のほぼすべての分野で技術を競いあうのだ。
昨年の第47回大会には60カ国・地域が参加。日本は産業機械、自動車板金、美容/理容、車体塗装、再生可能エネルギーの5職種で金メダルを獲得、さらに銀メダル5個、銅メダル4個を獲得した。年齢制限を考えると、中学や高校の卒業後から修業を始めなければ到底メダルには到達できず、それは並大抵の努力ではないはずだ。こうした「現場力」が問われる分野に光が当たらないのは残念である。
いつの頃からか、日本では経済というと株価と為替を中心とした報道になったが、経済にとって最も大切なことは現場力ではないか。今、日本経済の現場、特に製造業やサービス業の現場に光が当たらないことが日本経済の衰退を象徴しているように思えてならない。
天台宗の開祖最澄が言ったように「一隅を照らす、これすなわち国宝なり」の精神で、技能五輪で頑張る若者たちにも光を当てるべきである。
折しも、2028年11月に行われる第49回大会が愛知県で開催されることが決定した。東京オリパラ、大阪万博と同様に、日本での開催が期待されていた大会である。
日本が通商国家として、またものづくり国家として生きていく上で重要となるのは人材である。そうであるならば、その産業の現場を支える若者たちに社会全体がもっと光を当てていくべきではないだろうか。
(2024年11月14日取材)

PROFILE
寺島 実郎
てらしま・じつろう
一般財団法人日本総合研究所会長、多摩大学学長。1947年、北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、三井物産株式会社入社。調査部、業務部を経て、ブルッキングス研究所(在ワシントンDC)に出向。その後、米国三井物産ワシントン事務所所長、三井物産戦略研究所所長、三井物産常務執行役員を歴任。主な著書に『21世紀未来圏 日本再生の構想──全体知と時代認識』(2024年、岩波書店)、『ダビデの星を見つめて 体験的ユダヤ・ネットワーク論』(2022年、NHK出版)、『人間と宗教あるいは日本人の心の基軸』(2021年、岩波書店)など多数。メディア出演も多数。
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